こんにちは。YouTubeチャンネル「聞いてわかる投資本要約チャンネル」を運営している、二児の父でサラリーマン投資家のタザキ(@tazaki_youtube)と申します。

【表】 損失を取り戻すのに必要な利益

学生時代に株の魅力を知って以来、投資本好きが高じて自分の学びをYouTubeで発信したところ、想像以上の反響を呼び、3年間でチャンネル登録者が10万人を超えました。これまでに読んだ投資・マネー系の本は300冊以上。

その経験から、ここでは特におすすめの書籍や、コスパの高い書籍を、経験値や投資スタイル別で紹介していきます。本日は、「ミネルヴィニの成長株投資法」(著:マーク・ミネルヴィニ/パンローリング)をご紹介したいと思います。本書は、成長株投資の権威であるマーク・ミネルヴィニの著書です。同じく成長株投資の権威であるウィリアム・オニールの著書と比較されがちで、新高値近くで買うことや、ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析を両方駆使することなど、共通点もあります。

■リスク管理こそが第一

まえがきを書いているデビットライアンが「最後の2章はリスク管理について述べられていて、おそらく最初に読むべき章だ。」と述べているように、最後の章から見ていきましょう。

ミネルヴィニは、30年間の株式トレーダーとしてのキャリアを通して「リスク管理が第一」と語ります。

【含み益も自分のお金である】

株式投資で含み益が出てくると、つい気持ちが大きくなって、慎重さに欠けてしまうことがあると思います。私にも覚えがあります。

利益が出ているときは気持ちが楽になる反面、注意散漫になってしまいます。そのような心理に対し著者は「得た利益も自分のお金として扱いましょう」と注意喚起しています。

含み益のある状態になったら、これはすべて「自分のお金」であることを認識し、元本と同じように注意深くリスクを考慮しながら運用することが大切です。勝っているからといって、大胆になってリスクを取りすぎることを避けなければなりません。

【損失を取り戻す大変さ】

損失を取り戻すのは非常に困難です。損失額が5%の場合、取り戻すのに必要な利益は5.26%、損失額が50%の場合は、100%の利益が必要になり、損失額が大きければ大きいほど、取り戻すために必要な利益も大きくなることがわかります。

100万円から10%の損失を被った場合、残りは90万円になります。その90万円を再び100万円に戻すためには、プラス10%ではなく、11%の利益が必要になります。20%の損失なら、25%の利益が必要です。

つまり、損失に対しては非常に厳格なリスク管理が必要なのです。自分の元本よりも多く儲けが出たからといって、油断することはできません。自分の投資スタイルに合ったリスク管理を徹底し、投資を行うことが大切です。

成長株投資におけるリスク管理では「損切り」が非常に重要です。

ミネルヴィニは、株を買う前に損切りポイントを設定します。もし株価が予想通りに上昇したら、利益を守るために「トレイリングストップ」を使い、手仕舞う価格を徐々に引き上げていきます。

■誤解されているPER:価値あるものは高い

PERは一般的に株価を一株当たりの利益で割った数値で、銘柄の割安度を示す指標として用いられます。ただし、本書ではPERを単独で見ることは全く役に立たず、PERが低いからといって必ずしもよい銘柄であるとは限らないことを指摘しています。特に成長株投資では、高いPERでも本当によい株であれば積極的に投資することが提案されています。

事例として、著者が1996年6月にPERが938倍のヤフー株を購入したエピソードがあります。誰もが高いと感じるPERでしたが、実際にはそのタイミングで購入し、29か月後には7800%の上昇を記録しました。その後のPERは1700倍にまで達しました。この事例からわかるように、PERが割安か割高かという見方だけで投資判断をしていたら、7800%の上昇を得られなかったのです。

SEPA戦略の概要

次にSEPA戦略について紹介します。この方法は実績に基づく、すぐに含み益になる株を狙うための方法で、比較的小規模の、若い会社にフォーカスしています。SEPA戦略では、会社のファンダメンタルズと株価のテクニカルな動きを組み合わせて、投資先を選定します。

そして、SEPA戦略の鍵となる5つのポイントは以下の通りです。

1. トレンド

2. ファンダメンタルズ

3. きっかけ

4. 買い場

5. 売り場

1.トレンド

並外れたパフォーマンスは、上昇トレンドの時期に現れます。例えば、著者は株価が下向きの、200日移動平均線を下回っている銘柄は絶対に買わない(その銘柄が200日以上取引されているとして)と言い切っています。

2.ファンダメンタルズ

一般的に急成長局面に入る前に、売上高、利益率、利益の改善によって株価が動きます。

また、利益の源泉、利益の質を評価するときには注意が必要です。営業外収益や、一時所得といった、1回かぎりの利益や臨時収入ではなく、中核事業によって利益が増えている銘柄を探します。

3.きっかけ

上昇には何かしらのきっかけがあります。いわゆる「カタリスト」でしょう。売上高に占める割合が大きな新製品の発売や、FDA(食品医薬品局)の認可、新規契約、あるいはCEO(最高経営責任者)が交代するというニュースでさえ、それまで動きが鈍かった銘柄に機関投資家の買いが入り、活気づくきっかけになることもあります。

4.買い場・5.売り場

低リスクの買い場では、華々しい上昇をとらえる機会が少なくとも1回、時には何回かあると言います。

その1つはボラティリティ(株価の変動率)の低下です。これは、オニールのカップ・ウィズ・ハンドル(カップを形成後、取っ手の部分で買う)に似ています。機関投資家による買い集めの動きに共通する特徴として、ベース内の特定の範囲で出来高を大幅に減らしつつ、ボラティリティが低下することだと言われます。

例え適切な買い場で買えても、すべてはうまくいきません。資金を守るために、損切りの逆指値を置いて強制的に損切りをしなければなりません。

そして、売買タイミングに関わるトレンドを見極めるためには、株価のサイクルを知る必要があります。

【株価の4つのサイクル

本書では、株価には4つのトレンドがあると示します。

第1ステージ 底固め局面――無関心

第2ステージ 上昇局面――機関投資家の買い集め

第3ステージ 天井圏――機関投資家の売り抜け

第4ステージ 下落局面――投げ売り

これらが繰り返されるサイクルです。もちろん、一度下落局面に入った銘柄が二度と上昇局面に戻らないケースもありますが、1つのサイクルを終えて次のサイクルに移るパターンも十分にあり得ます。それぞれの局面の特徴を見ていきましょう。

・底値形成局面

底値で拾うと言われると、上手な投資家のイメージがありますが、本書では底値で拾う必要はないと主張しています。

面白い表現として、慣性の法則が株にも当てはまると説明しています。慣性の法則とは、物理の法則で、止まっているものは止まったままであり、動いているものはその力の方向に動き続けるというものです。これが株価にも当てはまるため、動かないものは動かないということです。

もちろん、底形成局面で実際に底値をつけている銘柄もありますが、そこで拾わなくてもよいのです。本書では、実際に買うべきタイミングは、上昇局面に入り始めた段階であると述べています。

・上昇局面

次に上昇局面です。株価は200日移動平均線または40週移動平均線を上回っている状況です。

短期の移動平均線が長期の移動平均線を上回っており、出来高が増える中で株価が大きく上昇していることがポイントです。これは機関投資家が買いを仕掛けていることを示しており、大きな上昇の波に乗るためには機関投資家の買いの波に乗ることが欠かせません。成長株投資ではこのような順張りの考え方が必要です。

・天井形成局面

ここでは機関投資家が売り抜け、買い手はより弱い購買力の買い手になります。株価はまだ高値にあるものの、ボラティリティが高まり動きが不規則になってきます。株価は200日移動平均線を上下に動き、移動平均線がやがて下向きになっていきます。EPSなどの指標の上昇勢いがなくなり、利益率が低下した場合、天井形成局面から下落局面へ移行する可能性があります。機関投資家もこのタイミングで売り抜けるため、買いは控えるべきです。

・下落局面

上昇局面とは真逆の状況が起こります。株価が200日移動平均線または40週移動平均線を下回り、下落トレンドになっていく中で、短期の移動平均線が長期の移動平均線を下回ります。大きく下落する際には出来高が増えるものの、下落が止まると出来高が減少します。このときは保有してはいけないタイミングで、再び底形成局面へと移行します。

最適な取引戦略としては、上昇局面の始めで買い、天井形成局面で売るという方法が最もよい取引方法となります。株価が4つのサイクルトレンドの中の最高の買い場である第2ステージであるかどうかを見極めるステップとして、トレンドテンプレートを利用します。

■「トレンドテンプレート」は予選

買いを検討するための「1次予選」としてすべての購入候補に適用される基準が、トレンドテンプレートです。

ある銘柄が確実に第2ステージの上昇トレンドにあるとみなすためには、以下の8つすべての基準を満たす必要があります。

・トレンドテンプレート 8つの基準

1.現在の株価が150日(30週)と200日(40週)の移動平均線を上回っている。

2.150日移動平均線は200日移動平均線を上回っている。

3.200日移動平均線は少なくとも1カ月(望ましくは、ほとんどの場合、最低4~5カ月)、上昇トレンドにある。

4.50日(10週)移動平均線は150日移動平均線と200日移動平均線を上回っている。

5.現在の株価は50日移動平均線を上回っている。

6.現在の株価は52週安値よりも、少なくとも30%高い(最もよい候補の多くは底固めの期間を抜けて大きく上昇する前に、52週安値から100~300%、あるいはそれ以上も上げている)。

7.現在の株価は52週高値から少なくとも25%以内にある(新高値に近いほどよい)。

8.レラティブストレングス(インベスターズ・ビジネス・デイリー紙のレポートなどで見られる、株価指数と比べてどれほど強いかの指標)のランキングは70以上、望ましくは80台か90台である。通常、よりよい候補の場合はこれらが当てはまる。

これだけの条件が課せられた1次予選を通過して初めて、検討に値する銘柄になります。

■オニールの手法と組み合わせて独自のスタイルを作ることも可能

本書は「ファンダメンタルズ分析とテクニカル分析を組みわせた成長株投資」という点ではオニールと似通っていますが、最後に紹介した「トレンドテンプレート」のように、取り入れやすいテクニカル分析や、冒頭でも紹介したようなメンタルの管理などは、特に参考になるかと思います。

両者の手法を組み合わせて、「トレンドテンプレート」→「CANSLIM」の順で銘柄を選定したあとで、カップ・ウィズ・ハンドルで最適な買い場を見極める、といった取り組みもできるでしょう。

成長株投資は株の王道であり、テンバガーやそれ以上の夢が持てる投資法とも言えます。非常に有名で評価の高い本もありますので、ぜひ手に取って読んでみることをおすすめします。

ミネルヴィニの成長株投資法/パンローリング