人間は息を引き取る前、自分のこれまでの人生が走馬灯となって駆け巡り、やがて自分を他者の視点から見る、いわゆる幽体離脱のような状態に移行するのではないか、と言われてきた。ただ、むろん死んだ後に生き返った人間はいないので、これはあくまでも死の淵から生還したという人々による、オカルト的要素を含む証言として捉えられてきた。

 ところが昨年、米ミシガン大学の研究チームが、助かる見込みのない患者の生命維持装置を停止させて彼らの脳波測定を行い、その詳細な研究内容を今年5月に、科学雑誌「PNAS」に発表。世界の科学者たちの間に大きな衝撃が走った。科学ジャーナリストが解説する。

「今回、脳科学の分野から『臨死体験』の正体を解き明かしたのは、ミシガン大学のボルジギン教授を中心にした研究グループです。彼らは2013年、前段階の実験として、麻酔によりラットを昏睡状態にし、心停止させると、30秒以内に強いガンマ波が発生することを突き止めたんです。研究を進める中、このガンマ波が意識や思考、記憶、夢など、脳が複数の領域を組み合わせた状況で発生することが分かった。そこで2020年、家族の同意を得た上で、助かる見込みがなく昏睡状態にある4人の患者の生命維持装置を停止させると、驚くことにラット同様、ガンマ波のバーストが観測されたのです。死ぬ直前にはガンマ波からなる、通常ではありえないほどの大きな脳活動が起きていることが判明しました。つまりそれが『臨死体験の正体』だったというわけなのです」

 ではなぜ、死を目前に控えた患者たちの脳波が突然、活性化したのか。この疑問については、研究グループは明確な答えにたどり着いていないとされるが、人間をはじめ、全ての動物は死に直面した場合、なんとかしてと助かる方法を探し出すため、脳内のアドレナリンを総動員。過去の記憶を引き出し、それを映像化させ、一気に蘇らせているのではないかという説がある。それが走馬灯体験の原因だとする脳科学者もいるのだ。

 今回の研究により、臨死体験がオカルトの範疇を超え、脳科学の分野へと移行したことに、驚きの声が上がっている。

ジョン・ドゥ

アサ芸プラス