数多くの大企業サステナビリティ経営実現のコンサルティングを行っている内ヶ﨑 茂氏(HRガバナンスリーダーズ代表取締役CEO)が、「日本版サステナビリティガバナンス」構築の必要性と考え方を解説する本連載。第3回となる本稿では、サステナビリティガバナンス実現の礎(いしずえ)となる「モニタリング型」のコーポレートガバナンスの特徴と有用性について考察。監査役会設置会社に代表される「マネジメント型」コーポレートガバナンスの限界と、モニタリング型とサステナビリティ経営の親和性が詳(つまび)らかになる。

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(*)当連載は『サステナビリティ・ガバナンス改革』(内ヶ﨑 茂、川本 裕子、渋谷 高弘著/日本経済新聞出版)から一部(「第8章 日本版サステナビリティガバナンスの構築」)を抜粋・再編集したものです。

<連載ラインアップ>※毎週金曜日に公開
第1回 サステナビリティ経営をモニタリングする仕組みが求められている
第2回 サステナビリティ委員会の設置が今の日本には必要
■第3回 モニタリング型のコーポレートガバナンスの構築(本稿)
第4回 ダイバーシティの重要性(1)従業員のダイバーシティ
第5回 ダイバーシティの重要性(2)取締役の属性・年齢のダイバーシティ
第6回 ダイバーシティの重要性(3)取締役のスキル・専門性のダイバーシティ

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モニタリング型のコーポレートガバナンスの構築

 サステナビリティ委員会の設置を通じたサステナビリティガバナンスの強化について述べてきたが、本節ではサステナビリティガバナンスを実現する礎となるモニタリング型のコーポレートガバナンスについて考える。

 これまでの日本企業のコーポレートガバナンスは、監査役会設置会社に代表されるマネジメント型が主流であった。マネジメント型とは、取締役会が個別の業務執行に関する意思決定を担うモデルのことであり、取締役会のメンバーが経営執行を担うTMT(Top Management Team:最高経営層)のメンバーと重複している割合が高い。伝統的日本企業において「取締役執行役員」という肩書は一般的である。

 もちろん多数の「取締役執行役員」がいる監査役会設置会社でも、経営の執行と監督の役割分担を明確にして、モニタリング型のコーポレートガバナンスを志向する企業は増えている。ただし、そうした企業は機関投資家をはじめとするステークホルダーから、執行と監督の役割を一体的に行うマネジメント型のコーポレートガバナンスの体制であるととらえられてしまうリスクが高い。

 一方、英国や米国ではモニタリング型のコーポレートガバナンスが主流である(図表8-3参照)。CEOやCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)などを除き、取締役会と経営執行を担うTMTがメンバーの重複なく構成され、取締役会は大局的な経営の方向性の決定と監督に注力する。一方、CEOを筆頭とするTMTに業務執行に関する大幅な権限移譲を進める。同時に取締役会の諮問に基づきサステナビリティ委員会をはじめ、独立社外取締役を中心とする多くの専門委員会を設置して、各委員会が監督指針を策定して、経営に関する重要課題を客観的かつ重点的に議論・監督する。

 CFOやCOO(Chief Operations Officer:最高執行責任者)、CLCO(Chief Legal and Compliance Officer:最高法務コンプライアンス責任者)など各領域で最高責任者を定めるCxO制度を導入し、TMTのメンバーのミッション・ステートメントやジョブ・ディスクリプションを明瞭にしながら、取締役会は経営執行の監督に徹する姿勢を外部に客観性を持って示すケースも多い。サステナビリティ経営を推進するためにCSO(Chief Sustainability Officer:最高サステナビリティ責任者)という形でサステナビリティの取り組みに責任を持つ担当役員を配置することも一案として考えられる。

 モニタリング型のコーポレートガバナンスを実践することで、経営についてより客観的な判断をできる可能性が高まると考えられる。たとえば、マネジメント型のコーポレートガバナンスの体制を採る場合、事業の撤退・売却の判断についてその事業を執行役員として管掌する取締役を交えて議論を行わなければならない場面も出てくると考えられる。一方、モニタリング型のコーポレートガバナンスの体制を採る場合、業務執行に携わるメンバーが限られている分、取締役会において売上高・利益の推移や資本収益性・資本コストなどの数値を踏まえ、事業の撤退・売却について客観的な議論を行いやすいと考えられる。

 英国ではコーポレートガバナンス・コード、米国では上場規則によって、取締役会の過半数のメンバーが独立社外取締役によって構成されるケースが多く、日本の現状と比較して、より社外の声が反映されやすい環境になっている。

 また、独立社外取締役は、株主総会で選任されたステークホルダーの代表であるとの見方もできる。つまり、モニタリング型のコーポレートガバナンスは、ステークホルダーの代表である独立社外取締役を中心に会社全体の方針を決めたうえで、その方針が実行されているかを監督する仕組みであるとも考えられる。だからこそ、モニタリングモデルは株主以外のステークホルダーも重視するサステナビリティ経営と親和性があると考えられる。

 HR ガバナンスリーダーズは、早稲田大学商学学術院教授の久保克行氏らと共に、『日本企業のトップマネジメントチーム・取締役会改革の方向性〔上〕』(旬刊商事法務2021年2月5日号)にて、日本企業と英国企業の取締役会とTMTの現状について分析をしている。日本企業における取締役会とTMTのメンバーの重複について調べたデータを概観すると、TOPIX100の構成企業で重複率(取締役会とTMTの重複人数÷取締役会人数)が59.6%、JPX日経400の構成企業では50.9%、東証一部全体では38.6%と、規模が大きくなるほど重複率が高いという結果が出ている。

 一方、英国企業においてはFTSE100の構成企業で22.0%、FTSE350の構成企業で20.9%、全上場企業で24.4%と総じて重複率が日本と比べて低い水準にある。英国の方が、日本よりもモニタリング型のコーポレートガバナンスへの移行が着実に進展している証左と考えられる。

 また、CxO制度を導入する日本企業の割合についても、英国と比較してどの規模でみても明瞭に低い傾向がみられた。FTSE100の構成企業では90.4%がCxO制度を導入する一方、TOPIX100の構成企業では56.6%と6割を切る水準にとどまる。上場企業全体でみると、英国では61.7%が導入する一方、東証一部上場企業では20.0%にすぎない。CxO制度を導入する形で業務執行の責任を明瞭にする日本企業も、TOPIX100などに数えられる大企業を除けば、現時点で少数派であるといえる。

 2021年6月に改訂された日本のコーポレートガバナンス・コードにおいては、取締役会とTMTのメンバーの高い重複率について特に問題提起はされていないが、モニタリング型コーポレートガバナンスへの移行を考えるうえで監督と執行の役割分担を進めることは今後の日本企業の大きな課題であると考える。

 その他にも1社あたりの平均人数については、TOPIX100の構成企業ではTMTの人数(23.6人)が取締役会の人数(11.6人)の約2倍に達している。一方、東証一部全体でみると取締役会の人数(8.1人)がTMTの人数(7.8人)を上回る。日本企業の場合、規模が大きくなるにつれてTMTの人数は取締役会の人数を上回るペースで拡大する傾向があると考えられる。翻って英国企業の場合、FTSE100の構成企業ではTMTの人数が7.9人、取締役会の人数が11.9人、全上場企業でもTMTの人数が4.0人、取締役会の人数が6.8人と一貫して取締役会の人数がTMTの人数を上回っている。

 規模が拡大するにつれ、取締役会の人数と比べてTMTの人数が大きく増えるのは、日本企業の一つの特徴であると考えられる。日本企業の場合、企業規模の拡大に際し、広範な事業に対応する形で業務執行を担う人財を配置する一方、英国企業は事業が広範に及ぶ場合でも業務執行の責任を担う人財を厳選し、指揮系統が明瞭になるよう配慮しているとも推測される。

<連載ラインアップ>※毎週金曜日に公開
第1回 サステナビリティ経営をモニタリングする仕組みが求められている
第2回 サステナビリティ委員会の設置が今の日本には必要
■第3回 モニタリング型のコーポレートガバナンスの構築(本稿)
第4回 ダイバーシティの重要性(1)従業員のダイバーシティ
第5回 ダイバーシティの重要性(2)取締役の属性・年齢のダイバーシティ
第6回 ダイバーシティの重要性(3)取締役のスキル・専門性のダイバーシティ

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