ボーカロイドVOCALOID)文化の祭典「The VOCALOID Collection ~2023 Summer~」(通称・ボカコレ2023夏)が8月4日(金)から7日(月)にかけて開催されている。

【ボカロと音ゲーはなぜ邂逅したか──“挑戦の音楽”の裏側 cosMo@暴走P×セガ光吉猛修 対談の画像・動画をすべて見る】

特別企画として、セガのアーケード音楽ゲームCHUNITHMチュウニズム)』とのコラボが決定。ボカコレ投稿楽曲の中から、「TOP100ランキング」「ルーキーランキング」で1位を獲得したボカロ曲が『チュウニズム』に実装される。

ボカロ曲と音ゲー──『チュウニズム』はもちろんのこと、初音ミクを冠したリズムアドベンチャーゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(通称・プロセカ)が若年層から熱烈な支持を集めているように、両者の相性は良い。

それはなぜか? その背景を知るために、音ゲーのサウンドクリエイターとボカロPの対談を実施した。

光吉猛修



cosMo@暴走P



一人はセガの現役社員で『チュウニズム』などの音ゲーに携わるゲームサウンドクリエイター・光吉猛修(みつよし・たけのぶ)さん、もう一人は「初音ミクの消失」で知られ、音ゲー曲のコンポーザーとしても活躍するボカロPcosMo@暴走Pさんだ。

対談を通じて、ボカロ曲と音ゲーの親和性の高さや、音ゲー曲制作の裏側を明らかにしていく。そこには、ボカロ曲ならではの性質と、音ゲーというジャンル特有の“機能”が深く関わっていた。

取材・文:小町碧音 編集:恩田雄多

「The VOCALOID Collection ~2023 Summer~」をチェックする

セガの音ゲーチュウニズム』のカラーを決定づけた楽曲

──お二人とも長年音ゲーに携わられていますが、お互いの楽曲で一番印象に残っている曲は何ですか?
 
光吉猛修 cosMoさんに提供してもらった曲で思い出深いのは、イロドリミドリ(『チュウニズム』発のオリジナルガールズバンド)に提供していただいた「奏者はただ背中と提琴で語るのみ」です。

2016年くらいに、cosMoさんとこの曲のレコーディングをご一緒したんですけど、そのとき、演奏者に対するディレクションや音楽的アプローチに感動したんです。




cosMo@暴走P その節は本当にお世話になりました! 当時はディレクションの“ディ”の字も知らないような状態で、結構無茶をした覚えがあって……。

光吉猛修 いえいえ! とてもバランスの良いディレクションで面白かったです。それがすごく記憶に残っています。

cosMo@暴走P ありがとうございます。光吉さんの曲では断トツで「怒槌(いかづち)」(2015年)ですね。

それまでの『チュウニズム』は、比較的サウンドに対する縛りがなくて、どんな曲でもつくっていいイメージが強かったんですよ。でもそこに「怒槌」が出てきたことで、チュウニズム』のカラーが決まったと思っています




光吉猛修 「怒槌」をつくったときは、僕が当時の音ゲー曲をほとんどつくったことがない状態だったんです。だから、自分の音楽観や制作論を覆す新鮮な経験でした。

例えば、BPMでいうと「怒槌」は200で。当時の僕は、BPM200の曲なんてつくったことがなかった。

それから、メロディをゲームの機能(ゲーム内で叩くノーツなど)を意識して刻んでいく、メロディだけど打楽器的な機能を果たすというのは斬新でした。

生み出すために自分の中のブレイクスルーが必要になったという意味でも、「怒槌」は印象的な曲です。

セガのアーケード音楽ゲーム『チュウニズム』



cosMo@暴走P せっかくなので「怒槌」制作時にこだわったところお聞きしてもいいですか?

光吉猛修 ありがとうございます! 途中でパイプオルガンの音色が続くパートがありますよね。

cosMo@暴走P 曲の展開がちょっと穏やかになる部分?

光吉猛修 そうです。僕の音楽的なベースは、フュージョンプログレッシブ・ロックなどをミックスしたものなんですけど、そこのコード進行というか音運びは、自分が昔から好きな音の響きを表現しました。

cosMo@暴走P なるほど! 確かにそういった要素を感じます!

テンポ、ゲーム性、飽きられないこと……音ゲー曲制作の極意

──『チュウニズム』をはじめ、音ゲーへの楽曲提供の多いcosMoさんですが、音ゲー曲をつくる際にはどのような点にこだわっていますか?

cosMo@暴走P とにかく細かくリズムを刻むっていうのが大前提ですね。もちろんこれは難易度の高い曲の話です。それだけゲーム内で叩かないといけないノーツ音ゲーにおけるリズムアイコン)も増えるので。

それから緩急。ここはちょっと休んで、ここは盛り上げてみたいに、音楽的な面だけじゃなく、ゲームにおけるレベリングも頭に入れつつ制作しています




cosMo@暴走P 僕は音ゲーへの書き下ろしの場合、難易度の低い曲をつくることが滅多にないんですよ……なぜか高難易度曲ばかり依頼されるので(笑)。どうしてもその視点からになってしまいますね。

でも、長年音ゲー曲をつくってきたからこその気づきもあって──テンポが速い上に、音程のレンジが広いと、曲の難易度がさらに上がりやすくなるんですオクターブジャンプというか、突然高い(低い)音に飛ぶとプレイヤー的には難しいみたいですね。

光吉猛修 確かに。オクターブジャンプは歌う場合も難しいですからね。

──音ゲーの楽曲をつくる上で、特に意識していることや楽曲に求められることはありますか?

cosMo@暴走P 音ゲーの場合、人によっては何度も同じ曲に挑戦するので、そういう意味で繰り返し遊んでも飽きない“良い曲”が求められると思います。

僕自身も、音ゲーの曲をつくるときは、何十回、何百回と聴かれても大丈夫なように工夫するんですけど、結構難しいんですよね。

光吉猛修 わかります。音ゲーの曲は、楽曲としてのインパクトはもちろん、ゲームに落とし込んだときの機能面も重要視されます

一方で、繰り返し聴ける曲でもあることも求められる──これって実はそれぞれ相反する要素で、それらを絶妙なバランスで組み立てなきゃいけないんです。

cosMo@暴走P 全く同感! その通りです!

あと、最近の音ゲーはイヤホンで聴けるようになったとはいえ、ゲームセンターは周囲の音が大きいので、そんな環境でも映えるメロディも重要ですね。

光吉猛修 ちなみに『チュウニズム』に提供いただいた「エンドマークに希望と涙を添えて」はどういったことを考えてつくったんですか?

cosMo@暴走P 「エンドマークに希望と涙を添えて」は、『チュウニズム』の稼働前にオファーをいただいて、その時点ではまだどんな音ゲーになるかわからなかったんです。

だから、「めちゃくちゃ速い曲をつくっておけばいくらでも調整がきくだろう」と、自分らしさを出しつつ制作した結果、プレイヤーのみなさんにご迷惑をおかけしてしまい(笑)。

光吉猛修 (笑)。

──その難易度の高さから、一部プレイヤーから「エンドマークに“絶望”と涙を添えて」とも呼ばれているとか……。

cosMo@暴走P “音ゲーにおける楽曲の丁度良い尺”みたいなこともわからない状態だったから、当時としては長めな2分40秒という尺でつくってしまいました。重ね重ね、プレイヤーのみなさんには、大変な苦労をさせてしまっているようです。

パーカッシブな歌が多いボカロ曲──なぜ音ゲーボカロは交わったのか

──cosMoさんの楽曲をはじめ、ボカロ曲と音ゲーの曲には、テンポの速さなど共通点が多いように感じます。ボカロ曲と音ゲーの相性の良さについてはどう感じますか?

cosMo@暴走P ボカロ曲は、テンポが比較的早くてパーカッシブな歌詞も多いので、音ゲー向きだと思います。

光吉猛修 歌だけど、パーカッション的なアプローチができるから、音ゲーとの親和性が高いのかもしれません。ボーカロイドを楽器として見れば、その声に合わせてゲームの譜面上にノーツを設定できるじゃないですか

曲調だけでなく、ゲームの機能的な観点からみても、音ゲーボカロ曲はかなり相性が良いと思います。

──光吉猛修さんは1990年セガ・エンタープライゼス(現セガ)に入社以降、主にゲーム音楽の作曲家として活動されていますが、音ゲー文化の変遷は感じていますか?

光吉猛修 めちゃくちゃ感じています。ジャンルやメロディなどの主流も大きく変わっていると思います。例えば今の音ゲーには、ゆったりとしたヒップホップ調の楽曲は少ないんですよね。それから、曲の尺が短くなってきているのも顕著だと思います。

cosMo@暴走P 気がつけばボカロ曲でも2分台の曲が当たり前になりましたよね。

個人的には今から10年ぐらい前に、音ゲーボカロ曲と「東方Project」の楽曲が収録されたとき、一番時代の変化を感じました。

音ゲーは、オリジナル曲で独自の文化を築いているイメージがあったので、ボカロ曲や東方曲が、版権曲として収録されるのはまだまだ先のことだろうと思っていたんです。

でも予想以上に収録されるタイミングが早くて。ニコニコ動画での盛り上がりも影響していたのかもしれません。

光吉猛修 cosMoさんの楽曲で初めて音ゲーに収録された曲って何ですか?

cosMo@暴走P それこそセガさんの『初音ミク -Project DIVA-』(2009年)に収録された「初音ミクの消失」が最初です。とても感動したのを覚えています。

cosMo@暴走P ボカロ曲や東方曲が音ゲーに収録される前の時代なんですが、初音ミク主体のゲームだったのでボカロ曲が収録されること自体に違和感はなかったですね。

──「初音ミクの消失」といえば、歌唱の難しさでも話題を呼んだ楽曲です。ボカロ曲と音ゲー、それぞれ高難度曲の制作時に、受け手への挑戦のような意識はあるのでしょうか?

cosMo@暴走P めちゃくちゃ速い曲をつくるときは、ほとんどの場合が音ゲーの曲なので、そういうときは「音ゲーにも収録されるので、ぜひ挑戦してみてください」というスタンスですね。

通常のボカロ曲では受け手への挑戦という意識はありません。でも、僕は歌については門外漢なので、自分の預かり知らぬところでうっかり歌うのが難しくなってしまうことはあります。人間はこれくらい歌えるだろうと思ったら、実は無理でした……みたいな。

初音ミクの消失」も当時は、“歌えなさそう”と“歌えそう”の五分五分くらいのところを目指したつもりだったんですけど、結果的に歌うには大変な曲だったようです。打ち込みで制作しているとわからないんですよね。




光吉猛修 僕もそこまでプレイヤーに対する挑戦という意識はないです。とはいえ、プレイヤーの方々に「挑戦したい!」と感じてもらえるようにつくっているつもりです。

それこそ「怒槌」のときに“音ゲーにおける楽曲制作のセオリー”みたいなものが自分の中で確立できたんです。そこからは、メロディを速くするのかや、リズムを多く刻むのかなど、難易度としてのニーズを考えながら制作しています。

初音ミクが居るだけで曲を聴いてくれる人がいる」

──たびたびお話に出てくるニコニコ動画ですが、初音ミクをはじめ、ボカロ文化が発展していったプラットフォームでもあります。改めてニコニコ動画の印象を聞いてもいいですか?

cosMo@暴走P いろんな人が安心して創作を楽しめるベースがつくられている印象です。何かの動画が盛り上がったときのお祭り感が見えやすいのも特徴ですよね。

個人的に良いなと思うのが、運営の方々の距離の近さ。例えば、「歌ってみた」や「踊ってみた」は、基本的に人の作品を使うことになるので、著作権的な面での不安もある。そういうときに、運営の人たちの距離が近いと安心してお祭りができるんです

光吉猛修 僕がニコニコ動画の影響力を初めて感じたのは、弊社のニンテンドーDS用ゲームソフト『赤ちゃんはどこからくるの?』(2005年)の関連動画が投稿されたときですね。

そもそもタイトルが刺激的だったのもあってか、ニコニコ動画の中でゲームの口コミが一瞬にして広まっていったんですよ。その現象を目の当たりにした瞬間は、今でも強烈に印象に残っています。

ニコニコ動画は、遊んでいる人や聴いている人が主体的に独自のコミュニティを広げていける場所。そういった意味では、ボカロ曲も自然発生的に育ちやすい環境にあったんだろうと思います。

──ニコニコ動画などを通じて存在感を大きくしていった初音ミクは、様々なクリエイターやファン、さらには世界をつなげるハブの役割を担ってきたと思います。お二人は初音ミクをどう見ていますか?

cosMo@暴走P 正直、初音ミクとはかなり長い付き合いなので、どう表現すべきなのかわからなくなっている部分もあります(笑)。

ただ、15年以上音楽をつくってきて感じるのは、「初音ミクがそこに居るだけで曲を聴いてくれる人がいる」ようになったこと。

たくさんの音声合成ソフトが誕生して、それらを使ったボカロ曲を聴く文化が続いている──その文化の根底において、初音ミクが果たした役割は大きかったと思います。

光吉猛修 2011年に、初音ミクがアメリカのトヨタのCMに起用されたとき、ものすごい衝撃を受けたんですよね。ボカロというカルチャーの力が、一段階増した印象でした。

cosMoさんが言ったように、これだけ音声合成ソフトが増えた中でも、積み上げてきた歴史や成し遂げてきたことによって、初音ミクは今でも唯一無二の存在感がありますね。

かつて『チュウニズム』のオリジナル曲ボカロ曲がNGだった理由

「ボカコレ2023夏」



──8月4日からスタートする「ボカコレ2023夏」では、「ボカコレ」と『チュウニズム』のコラボが決定しました。まずは「ボカコレ」の印象から教えてください。

cosMo@暴走P みんなが一斉に曲を投稿することで、たくさんの人が見に来る。すると、普段スポットが当たらないクリエイターが発掘される。「ボカコレ」はクリエイターにとってすごく良い機会を与えてくれていると思います。

春に開催された「ボカコレ2023春」では、「トップ100ランキング」の1位はまらしぃさん、じんさん、堀江晶太kemu)さんによる「新人類」。それぞれ第一線で活躍されている3人ですよね。

cosMo@暴走P 有名な方が参加することで、さらに人が集まってくる。ニコニコ動画ならではのお祭りとして、良いループができていると感じています。

光吉さんは「ボカコレ」をご存知だったんですか?

光吉猛修 ごめんなさい! 実は今回、初めて知りました(汗)。それでも、一般の方とプロの方が参加できる場所が用意されているのは素晴らしいと思います。

──『チュウニズム』とのコラボでは、「TOP100ランキング」「ルーキーランキング」の1位の曲が、ゲームに実装されます。

『チュウニズム』と「ボカコレ2023夏」のコラボ企画「ボカニズム」



cosMo@暴走P ありそうでなかった組み合わせですね。『チュウニズム』でも公募企画を展開しているので、楽曲実装のルートが増えたのは嬉しいです。

実は『チュウニズム』の公募はインスト曲が多いんですよ。なので、「ボカコレ」経由で『チュウニズム』にボカロ曲が収録されれば、ゲームとしても新たな魅力が生まれるんじゃないかって思います。

光吉猛修 僕は『チュウニズム』のローンチから携わっているんですけど、かつて「ボカロ曲を収録してもいいかな?」と開発スタッフに聞いたことがあるんですよ。そのときは、ダメだと言われてしまって(笑)。実は、今も『チュウニズム』のオリジナル曲ボカロ曲はないんですよ

cosMo@暴走P 意外です。何曲かあると思っていました。

光吉猛修 当時は『チュウニズム』として、ボカロPの方々に楽曲を提供いただくのであれば、インストをはじめボカロ曲とは異なる音楽の魅力を表現したいという企画側の思いがあったみたいです。

今回「ボカコレ」とのコラボで、『チュウニズム』にボカロ曲が収録されると聞いたときは、時代の変化を感じました。

cosMo@暴走P 気になっていたんですけど、光吉さんは音声合成ソフトを触られたことはあるんですか?

光吉猛修 初音ミクに代表されるような音声合成ソフトは使ってないですね。ただ、自分の歌声をAIにディープラーニングさせて開発した音声合成ライブラリ「ミツヨロイド」を使って、曲をつくっています。



cosMo@暴走P すごい……! 光吉さんが「ボカコレ」に応募する未来もあるかもしれませんね。

光吉猛修 ミツヨロイドを使っても良ければ(笑)。今から少しずつ練習しておきます!

「The VOCALOID Collection ~2023 Summer~」をチェックする

【「The VOCALOID Collection ~2023 Summer~」開催概要】
開催日時:2023年8月4日(金)~7日(月)
公式Twitter:https://twitter.com/the_voca_colle
協賛:東武トップツアーズ
メディアパートナー:Interfm / FM802 / GAKUON! / 関内デビル / JFN / smart / テレビ朝日ミュージック / SCHOOL OF LOCK! / Music House / RADIO MIKU






ボカロと音ゲーはなぜ邂逅したか──“挑戦の音楽”の裏側 cosMo@暴走P×セガ光吉猛修 対談