パク・ソジュンとIUが共演したコメディドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』がNetflix7月26日より配信中だ。今作は、ジュノ(2PM)、カン・ハヌル、キム・ウビンが共演した『二十歳』(15)、イ・ソンミンとシン・ハギュンによるラブコメ『パラム パラム パラム』(18)、韓国で1600万人以上を動員し大ヒットとなった『エクストリームジョブ』(19)、韓国ドラマファンの間で「隠れた名作」として人気を博すドラマシリーズ「恋愛体質〜30歳になれば大丈夫」の監督・脚本として知られるイ・ビョンホン監督の最新作。今年4月の韓国劇場公開から数か月で世界配信、イ・ビョンホン監督は来年初頭に配信予定のNetflixオリジナルシリーズ「Chicken Nuggets(英題)」も控えている。MOVIE WALKER PRESS Koreaでは、アメリカ・ニューヨークで開催されたNYアジアン映画祭に出席したイ・ビョンホン監督の独占インタビューを行った。

【写真を見る】眉間にシワを寄せても隠せないイケメンさ。『ドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』のパク・ソジュン

■パク・ソジュンとIUが初共演!「チャンスがあれば一緒に仕事をしてみたいお2人でした」

ドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』は、2010年にブラジルで開催された「ホームレスワールドカップ」に出場した韓国のホームレスサッカーチームの実話が元になっている。破天荒な行いで出場停止処分を受けたサッカー選手ユン・ホンデ(パク・ソジュン)は、サッカー未経験のホームレスを集めた韓国代表チームの監督を引き受け、起死回生を狙う。その姿を追うのは、ドキュメンタリーディレクターのイ・ソミン(IU)。様々な理由からホームレスとならざるを得なかった人々と、再起をかけた2人の闘いが始まる。韓国随一のスターであるパク・ソジュンとIUが初共演というキャスティングは、今作の制作開始ニュースが流れた際から大きな話題になった。2人のファンだったと言うイ・ビョンホン監督は、白羽の矢を立てた理由をこう語る。

「チャンスがあれば一緒に仕事をしてみたいお2人だったんです。彼らの過去の仕事からも卓越した才能の持ち主だということがわかっていたし、彼らの人気は私が説明するまでもないですよね。『ドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』の脚本は13年前に書いたものですが、改訂稿が上がった際に、それぞれの役にとてもしっくりくるんじゃないかと思いました。2人の相性も、誰が見てもぴったり合うでしょう?」

イ・ビョンホン作品の特徴は、思わず笑い共感するウィットに富んだセリフと、全ての登場人物が愛しくなってくるキャラクター造形にある。パク・ソジュンとIUというスーパースターが、イ・ビョンホン組総動員のアンサンブルキャストにはまると考えた理由とは?

「お2人の話し方ですね。2人とも、普段からとても特徴のある話し方をするので、2人が会話をしているだけでおもしろい。私の映画はCGIをふんだんに使った大作映画ではなく、会話劇でキャラクター造形が中心にある映画です。キャスティングの際に最も気にかけるのは、独特な発声法や、特徴的な動作をする人。映画やドラマを作る時、まず『この作品が伝えようとすることは?』と考えます。私が作る物語は常に普通の人々の日常と、彼らがどう生きているのかを描いています。そして、私が描くキャラクターはなにかが欠けている人物です。人間とは、常に自分に欠けているなにかを補うために、自分自身で、そして誰かの助けを借りながら生きているものだと捉えているからです。私はおそらく、彼らが葛藤の末に見せる小さな成長や達成に魅了されているのでしょう」

■難航していた制作…原動力になったのは、参加を決めた俳優たち

ドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』の脚本を書いたのは、『サニー 永遠の仲間たち』(11)の脚色などで脚光を浴び、『二十歳』の監督を務める前。ホームレスワールドカップの存在を知り、2014年にはアムステルダム大会の取材にも行った。ところが、映画投資家はこのような題材に食指を動かすことはなく、企画は難航した。『エクストリームジョブ』が大成功を修めたことによってようやく制作が動き出したが、最終的に原動力となったのは、この映画に参加を決めた俳優たちの力だという。「今作は私のフィルモグラフィにおいて、最も大切な作品です」と言うイ・ビョンホン監督だが、パンデミック中に行われた撮影は困難を極めたそうだ。

「撮影はまさにパンデミックの最中で、当初予定していたブラジルでの撮影が不可能になってしまいました。ようやくハンガリーで撮影ができることになったのですが、厳戒態勢での撮影なので、撮影予定のシーン全てを韓国で入念にリハーサルを行い、ハンガリーでは再現するのみ。黙って撮影をこなしていくだけで、その場で何かを思いついても変更も追加もすることができませせん。一切変更ができないというのは、監督としてとても忍耐を強いられる撮影現場でした」

ちなみにラストシーンは、CGや合成ではなくパク・ソジュン自身による入魂の一蹴だという。

ホームレスサッカーチームの選手と周囲の人々には、イ・ビョンホン作品常連の俳優陣が揃う。しかも、彼らの名前はソン・ボムス、イ・ソンミン、キム・ファンドン、ファン・イングクなど、「恋愛体質〜30歳になれば大丈夫」のキャラクターたちと同じ役名なのだ。

「いつも一緒にやっている俳優の皆さんは、とても暖かくパク・ソジュンさんとIUさんをもてなしてくれました。旧知の俳優と一緒にやるのは、確かに楽な部分があります。彼らが私のことを知っていて、私も彼らのことをよく知っているから、あまり会話をしなくてもやりたいことをわかってくれて、撮影時間の節約になります。そして、初めて仕事をする俳優、実力があるのにまだ注目されていない俳優、新人の俳優にもたくさんチャンスを与えられるように心がけています。

脚本を書いていると、キャラクター名を考えるのにとても多くの時間を費やしてしまいます。つい、名前に意味を込めたくなってしまって。意味を持たせるならいいのですが、そうでないのならば労働量を減らすために、キャラクター名に友達の名前を拝借するようにしました。そうするうちに、使える名前も限られてしまって。この質問を多く受けるようになったので、今度からは同じ名前を使わないようにします(笑)」

イ・ビョンホン監督は笑いながらそう言うが、作品を追っているファンにはとてもうれしい発見となる。

「実は、日本の視聴者の方々にも『恋愛体質〜30歳になれば大丈夫』を楽しんでもらえているんだと、薄々気づいていました。日本のファンの方々からお手紙をもらったりしていたので。『恋愛体質〜30歳になれば大丈夫』は、多くのファンから『シーズン2を!』というご要望をいただいて、私も考えてみたんですが、本当に時間がないんです。契約している作品が多すぎて、当分は手がつけられない状況です。生きている間に終えることができないくらいの仕事量を抱えているので…(笑)」

■「世界中の方々にどう観ていただけるのか、楽しみにしています」

2024年初旬には、『エクストリームジョブ』のリュ・スンリョンと、「恋愛体質〜30歳になれば大丈夫」のアン・ジェホンと再度組んだNetflixオリジナルシリーズ「Chicken Nuggets」が配信予定、この夏からは「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」の脚本家、キム・ウンスクと組んだ新しいドラマシリーズの撮影に入るという多忙さ。『ドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』のNetflix世界配信にも、「劇場に行かなくても気軽に自宅で私たちが作った映画を世界中の人たちに観ていただけるのは、個人的にとてもうれしいです。私の映画は比較的世界中の観客に観ていただいている方だと思いますが、こういうケースの世界配給は初めてのことなので。他の言語の吹き替えで観る人もいるかもしれない。世界中の方々にどう観ていただけるのか、私も楽しみにしています」と、大きな期待を寄せる。

イ・ビョンホン作品が多くの観客に愛される理由であり、笑いと涙と共感を同時体験できるのもキャラクター設定とセリフの妙にある。「空想がちな子どもだった」と認める監督は、唯一無二の“イ・ビョンホンワールド”の住人たちを生み出す秘訣をこう語った。

「ぼーっとしているように見えてもいろいろ考え、人間観察をしています。子どものころから、頭の中で空想を膨らませることが多かったです。小さな状況を思い浮かべて、その状況でこの人はどんな行動を取るだろうか、どんなことを話すだろうか、と常に想像していました。そういう空想を病的なまでに繰り返している子どもでした(笑)。誰かを見てインスピレーションを受けるというよりは、空想や想像を頭の中で広げていく作業です。頭の中に今まで釣った魚を入れてある釣り堀があって、キャラクターや設定、セリフを考えている時に、『この間の魚を、いやこっちの魚が』と、釣るような感じで映画やドラマを作っていきます。

キャラクター設定にとても多くの時間をかけます。物語の内容を決めて主人公を設定したら、彼らの周囲にいる人々を配置していきます。すべてのキャラクターを配置してみて、彼らに“足りないもの”を考えていきます。人間の欠けている部分におもしろさがあるからです。セリフは、修正作業を何度も繰り返します。自分で声に出してセリフを読んでみて、削ったり足したり、ずっとやっているんです。初稿からずっと、永遠に修正作業をしています(笑)。でも、本当は細部よりも全体的なリズムが最も大切だと思っていますが」

ハリウッドで起きているストライキ、「とっても対岸の火事ではない」

ドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』がNYアジアン映画祭で北米プレミアを行った7月17日には、マンハッタンの各所で全米脚本家組合(WGA)と映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキが行われていた。イ・ビョンホン監督は、「とても注目しています。映画を作る者として当然だと思います」と、ハリウッドが抱える問題は韓国の映画業界にとっても対岸の火事ではないと話す。

「韓国の映画製作システムは、どんどんハリウッドのシステムに近づいているからです。現在ハリウッドで起きていることは、遅かれ早かれ韓国でも起きうることです。パンデミック以降、韓国の映画市場は活況を取り戻せていません。観客動員数が落ち、映画制作本数も減っています。この状況を踏まえると、韓国の映画産業もハリウッドのように大手スタジオによるシステムに近づいていくだろうと思います。ハリウッドの状況を注視しながら、停滞する韓国映画産業も、この過渡期を乗り越える必要があります。将来的には、脚本家の間で組合も作られるようになるでしょう。現在、ドラマなどテレビの脚本家組合はありますが、映画の脚本家組合はまだ形成されていないと思います。そして、現時点ではストライキという概念もありません。でも、脚本家は賃上げとレジデュアル(二次使用料)の交渉、その他様々な権利の主張をしていくべきだと思います。

同じく争点になっているAIについては、まださすがに懐疑的です。機械がある職業ととって替わるという懸念は随分と昔からありましたが、脚本に必要とされているようなニュアンスを汲み取ることをAIができるのかな、と考えてしまいます。でも、映画制作ビジネスにおいて、AIにしかできない役割もあるんじゃないかとも思います。AIを排除することはできないだろうから、人間がAIにある程度の役割を持たせ、人間とAIが共同作業するということは起き得るでしょう。いまの私にできることは、自分の仕事に邁進するのみです。もしかしたら、私がAIのアシスタントライターになっているかもしれませんね(笑)」

AIと脚本家の協働は、現在イ・ビョンホン監督が興味を抱いているという“異種共存社会”にも通じる概念だ。多忙を極める彼だが、そのうち新しい作品で“人間味のある”共存社会を見せてくれることだろう。

パンデミックとその後のコロナと共存する世界によって、考え方がとても変わりました。特に、パンデミックのような大きな環境の変化を受けて、今の生活を異なる形に置き換えることはできるのだろうかと考えます。例えば、ゾンビの存在もある意味疫病といえますよね。では、ゾンビと人間は共存できるのか、といったような。終末期の世界で、ゾンビと人間が家族のように一緒に暮らすコメディを想像したりしています」

取材・文/平井伊都子

イ・ビョンホン作品の特徴は、笑いと涙と共感を同時体験できるということ/[c]New York Asian Film Festival 2023