ワンフェス』の取材に行く! と友達に話したら、「犬のフェスティバル?」と言われた。違う、そうじゃない
本記事でお届けするのは、世界最大級の造形・フィギュアの祭典である『Wonder Festival 2023[夏]』のレポートである。例年夏・冬に開催される『ワンフェス』こと『Wonder Festival』は、国内外から造形ファンおよそ50,000人が集結するという一大イベントだ。“コミケのフィギュア版” 、“デザフェスのオタク版(愛を込めて言ってます!)” と表現するとイメージしやすいかもしれない。

幕張メッセ 会場入口付近

幕張メッセ 会場入口付近

筆者は30代女性、アニメやゲームは好きだがフィギュアの扉は未だ開いていない状態。『ワンフェス』は名前くらいしか聞いたことがなく、今回が初参戦である。めちゃめちゃ面白そうだけど、造形ファンでもない者がノコノコと顔を出して大丈夫なのか……? ちょっと不安を抱えつつ、会場のオープンとほぼ同時の10:00、幕張メッセ国際展示場のホール内に入った。

汗と紙幣の洗礼

会場風景

会場風景

広っっ!

広大なホールを埋め尽くすブースの間を、どっと流れていく来場者たち。田んぼの水入れそっくりだ! 取材に同行してもらったSPICE編集部の2名(男性・ワンフェス経験者)曰く、オープン直後は数量限定の作品を求めて東奔西走する人が結構いるのだとか。「絶対に走らないでください」とそこらじゅうに書いてあるものの……その言葉だけでは憧れは止められないのか。

展示風景

展示風景

キョロキョロと進む道中で、早速かっこいいガメラを発見。撮影しているとすぐ横のレジから隣の人のお会計総額が聞こえてきて、動揺でカメラを取り落としそうになった。

展示風景

展示風景

ところで、『ワンフェス』は「ガレージキット」の販売が主なイベント内容である。完成品のフィギュアではなく、組み立て前・未塗装の手作り用ワンセットである「ガレキ」だ。頭ではわかっていたつもりでも、現地で見て衝撃を受けた。この広大な会場で買い物しているセンパイたちはみんな、この後これをご自分の手で作られるのですか……! 売ってる方も買ってる方も“造り手”なのだと思うと、クリエイティビティの濃度が半端じゃない。もちろん中には完成品を売っているところもあるし、見て雰囲気を楽しむだけでもかなり楽しいだろうけど、やっぱりこのイベントは“造る”という行為を愛する人たちの祭りなのだ、としみじみ思った。

伝説のDAICONメモリアル

企画ブース「DAICON FILM大展示会」

企画ブース「DAICON FILM大展示会」

今回の『ワンフェス』の目玉のひとつは『DAICON4』とのコラボ企画だ。『DAICON4』は1983年に開催された伝説のSFイベント(大会)。今回はその40周年を記念して、当時の貴重な資料の数々が特別展示されるという。

会場風景

会場風景

展示品の物量が想像以上に多く、見応えがある。これだけでひとつの立派な展覧会のようだ。

展示風景

展示風景

展示風景

展示風景

『DAICON4』の運営メンバーによる自主映画制作グループが「DAICON FILM」……なるほど。これがのちにエヴァンゲリオンを生む「ガイナックス」のルーツである。ここでは「DAICON FILM」各作品の衣装や模型、コンテなどが展示されている。中でも庵野秀明が監督・主演(?)を果たした『DAICON FILM帰ってきたウルトラマン』の戦闘機模型はファンにとってたまらないポイントだろう。

展示風景

展示風景

『DAICON4』オープニングアニメのセル画の展示も。会場のモニターで改めて鑑賞したが、2023年の目で見ても圧倒されてしまうアニメーションだ。今回の『ワンフェス』のメインビジュアルの女の子がバニーガール姿なのも、同オープニングアニメへのオマージュである。

眼福に次ぐ眼福

さて改めて会場を見回すが、一体どこから手をつけたらいいのか……『デザフェス』なら「イラスト」「アクセサリー」などジャンルごとに切り分けられているものの、『ワンフェス』は全てが「造形」ジャンルなので、もう丸齧りするしかない。まずは1〜8ホールのうち1〜3ホールを占める、企業ディーラーの出展エリアへ行ってみた。

編集部員氏が大興奮していた「真ゲッターロボ1」(右上)

編集部員氏が大興奮していた「真ゲッターロボ1」(右上)

元々アマチュアのガレージキットは企業の既製品に対するカウンターとして生まれたそうだが、こうして同じ『ワンフェス』の旗のもと、企業と一般ディーラーが腕自慢しあっているのって素敵だなと思う。あぁ、プロアマの垣根を越えた造形家同士の切磋琢磨や、フィギュア文化の発展への願いを感じるわ……なんて遠い目をしていると……

あーーーーっ!

あーーーーっ!

あーーーーっ!

あーーーーっ!

気になる作品のキャラが、ざっくざく! フィギュアは同人誌と違って、ページをめくるまでもなくひと目で全魅力が流れ込んでくる。可愛いやカッコイイなどの視覚刺激がビンビンで、とても遠い目をしている場合では無くなってしまった。個人的な愉しみのために撮影した写真で、今も筆者のスマホのカメラロールは大変なことになっている。

塗装体験、やってみました!

体験コーナー風景

体験コーナー風景

会場では、初めての人でも気軽に挑戦できる体験コーナーが何種も用意されている。より深くガレージキットの世界を理解するべく、『ワンフェス』公式キャラ「カットくん」の塗装体験(1回1,000円也)に挑戦してみた。

体験コーナー風景

体験コーナー風景

塗料も筆も豊富に揃っており、自由に使うことができる。60分の体験時間の中で、未だ“白いレジンの塊”状態であるカットくんに命を吹き込むのだ!

体験コーナー風景

体験コーナー風景

塗装は自分のペースで好きに進めていく。エプロン姿のスタッフさんが見回ってくれているので、分からないことは気軽に質問できるのが嬉しい。二人組の女の子や親子連れの参加者もいたが、誰もが深く集中しているせいか、とても静かな時間が流れていく。

体験中

体験中

では……ここで女性ならではの器用さを発揮して、繊細なプレーをお見せしよう。学生時代には立て看板も描いたし、一応ネイルアートを自分でやったことだってあるのだ。
そして60分後。

テーン…………

テーン…………

あああああ、なんか思ってたのと違うう(泣)!」
思わず突っ伏す筆者を励まそうと、同行の編集部員氏が代わる代わる声を掛けてくれる。
「わかりますよ、難しいですよね」
「大丈夫ですよ……全然、可愛くないことないですよ!
可愛いですよ、じゃないところにたいへんな誠意を感じた。

ただ言えるのは、楽しかった……まばたきも呼吸も忘れるほど、あの1時間、間違いなく世界は私とカットくんの二人きりだった。黒目大きくなっちゃってごめんよ、大事にするからね……
というわけで塗装の奥深さとたっぷり向き合って、時刻は12:00である。

そして神を知る

今こそ、『ワンフェス』公式のガレージキット「DAICON4オープニングアニメの女の子 40th Anniversary」の展示風景を見てほしい。同じガレージキットを、4人の人気クリエイターがそれぞれ独自の持ち味で仕上げるという競演企画である。

BOME氏による「DAICON4オープニングアニメの女の子 40th Anniversary」

BOME氏による「DAICON4オープニングアニメの女の子 40th Anniversary」

村正氏による「DAICON4オープニングアニメの女の子 40th Anniversary」

村正氏による「DAICON4オープニングアニメの女の子 40th Anniversary」

目から鱗が落ちた。同じものを使っているのに、完成品は明らかな別人である! 組んで塗装して、そこには無限に近い表現の振れ幅がある。それこそがガレージキットの楽しみどころなのだ、と深く理解した。それにしても、先ほどの自身の塗装体験を経て見つめると、女の子たちの神がかった美しさに感動もまたひとしおである。

スズキしんや氏による「DAICON4オープニングアニメの女の子 40th Anniversary」

スズキしんや氏による「DAICON4オープニングアニメの女の子 40th Anniversary」

こちらの女の子はダークなアレンジが加えられており、突き抜けて自由! バックのソードミサイルの煙に施された目玉模様に狂気を感じる。

夏の暑さにも負ケズ!

会場風景

会場風景

ここからは、4〜8ホールを使った一般ディーラーのエリアを見ていこう。エリア間にある通路〜建物外周にかけてのフリーゾーンは、コスプレ用に開放されている。ちなみに撮影時の気温は、手元の時計で見る限り(日陰で)34℃。ワンフェスのコスプレは、他のイベントではNGになるような長もの・大物の持ち込みがOKとのことだが、取材時には出会えず残念……

あーーーーっ!

あーーーーっ!

可愛い着ぐるみのメポポホンさん(メイドインアビス)は、居ました。

造形界を担うエースたち、ワンダーショウケース

会場風景

会場風景

こちらは4ホールに特設されたワンダーショウケースのコーナー。ワンフェスが一般認知の広まりとともに文化祭的なノリに堕することを危惧する主催者が自ら選抜した、秘蔵っ子クリエイターの紹介コーナーである。目利きが選んだだけあって、クオリティの高い作品が美術館風のケースに並んでいる。

emDASHのプレゼンテーション『move』

emDASHのプレゼンテーション『move』

中でも、とりわけエッジィな魅力を放っていたのはこちら。敢えて塗装を施さず、多色のカラーレジンで構成するオリジナル美少女フィギュアだ。アニメっぽくもエッチでもない、現代アートに近い佇まいにハッとする。

emDASHブース風景

emDASHブース風景

詩的な空気感から、しばしばアート・トイと呼ばれることもあるそうだが、作家であるemDASHの木田氏は「アートじゃないです、フィギュアですから」と笑顔で言い切る。上段のモノクロバージョンをぜひ購入したかったが、残念ながら既に完売とのこと。再販予定を尋ねたところ、「(白黒は特に)レジンの色づくりが難しくて、品質管理が大変なんですよ〜……」と弱らせてしまった。大丈夫です、気長に待ってます。

これぞ真夏の夜の夢! 当日版権という大発明

あーーーーーっ!

あーーーーーっ!

個人ディーラーのブースでは、制作者オリジナルキャラクターと既成のキャラクターのガレージキットが混在している。あれ? よくよく考えると、アニメやゲームの有名キャラのグッズを個人が手作りして販売したら、それって著作権(版権)侵害なのでは?

あーーーーっ!

あーーーーっ!

ここに「当日版権」という『ワンフェス』ならではの革新的システムがあるらしい。事前申請のもと、権利元から「この日いちにち、この場所でだけならOKしちゃうよ! そのほうがみんな楽しいでしょ!」とのお許しを得ているそうなのだ。ダイエットで言うところのチートデイ。会社で言うところの無礼講(?)である。なるほど、この一日が造形ファンにとってなぜここまで特別なのか、またひとつ理由がわかった気がする。

場内回遊で見つけたアレコレ

時刻はおよそ14:00。あとは時間の許す限り一般ディーラーのエリアを回遊することにしよう。ここまで主流を占める人型のフィギュアにフィーチャーしてきたが、ワンフェスは造形の祭典なので、プラモデルジオラマや、(数はそこまで多くはないものの)ハンドメイド雑貨やアクセサリーなども出展されている。

おお……?

おお……?

「アダム ¥10,000」。つい二度見して笑ってしまった。作家さんに撮影していいか訊ねると「アダムのゼリー寄せだよ……どう?」と、密売人のようにニヤリと笑ってくれた。こんな国家機密レベルの代物が売買されているとは、ワンフェス恐るべし。

展示風景

展示風景

ホール7~8に進むと、既製品プラモデルやガレキをうず高く積み上げた、ガレージセール風のブースが増えてくる。宝の山から掘り出し物を見つけようと、目を輝かせる造形ファンの姿を多く見かけた。ちょっと神田の古書市のようである。

ちなみにアダルトのほうは?

フィギュアといったら、エロだって欠く事のできない大事な要素だろう。残念ながら写真ではお伝えできないが、会場の最奥にはR18の「成人向けゾーン」が存在する。年齢確認できる身分証の提示のもとで入場が許される、秘密の花園だ。フェティシズム全開のものからジョークグッズ的なものまで、ひと口にR18と言ってもバラエティ豊かな作品が並んでいて面白い。ディーラー、来場者ともに意外と女性の姿が見られ、想像していたよりあっけらかんとした空気感なのにはちょっと驚いた。

心に描く世界を具現化させたい

15:00。『ワンフェス』滞在5時間にして、買い足した水分もついに尽きた。「最後にもうひと目、見たいのは何だろう?」と自問してみたところ、振り返れば自分にとって最も心震える出会いは、意外なところにあった。ゴジラに破壊される国会議事堂(全90パーツ、4部構成)!……の隣に、そっと展示されていたジオラマ。あれをもう一度見たい。

Kino Artsブース風景

Kino Artsブース風景

会場でさまざまなジオラマを見れば見るほど、自分はあの作品の持つ物語性が好きなのだ、という思いが強くなっていた。国会議事堂を目印にして再び足を運び(見つかって本当によかった)、両作の作家であるKino Artsの加藤氏からお話を聞いた。

Kino Artsブース風景

Kino Artsブース風景

本作は夏をイメージした風景だそう。ベースに天然の流木を使用することで、独特の不安定さや浮遊感が漂っている。外界から切り離され、遺された無機物だけが静かに朽ちていく世界……そんなイメージを呼び起こす作品だ。
自分だけの世界を創造するため、一切の既製パーツを使わず、細部まで全て自作しているという加藤氏。手前にある朽ちた足場のグレーチング部分は、0.2mmという緻密さ! どこまで繊細なものが成立するか、3Dプリンターと共に試行錯誤する日々だそうだ。「頭の中にあるものを、どうにかして形として造りあげたいんです」と語ってくれた真摯な想いは、もしかしたら会場にいる全てのディーラーに多かれ少なかれ共通するものなのかもしれない。

造形界の五穀豊穣、天下泰平を祈って

ワンフェス』は他の「〇〇の祭典」系イベントと違って1日のみの開催だからか、現場の温度が異様に高い。そして来場者にはやっぱり男性が多い。祭りと言っても縁日ではなく、ふんどしを締めた男衆が神輿を担いだり境内を爆走したりする、清いんだか可笑しいんだか分からないガチの神事的なムードがそこにはあった。

会場風景

会場風景

ガレージキットは未完成品だから、その購入は造形の入口に過ぎない。『ワンフェス』の先輩である編集部員氏が何気なく表現した「つくるための入口をつくるのが、このイベントなのかも」との言葉が、深い充実感とともに心に残った。

次回のワンフェスは2024年2月11日(日)に開催予定。また行きたいかと聞かれたら、答えは盛大にYES! である。


文・写真=小杉 美香 写真(一部)=林 信行
 

『Wonder Festival 2023[夏]』