新築マンション価格は10年間で2.3倍になった東京23区は、首都圏のマンション価格上昇の中心地となっています。本稿ではニッセイ基礎研究所の渡邊布味子氏が、需要と供給の両面から、新築マンション市場の動向について解説します。

1. 首都圏新築マンション市場では高値更新と供給減が続いている

不動産経済研究所によると、2023年6月の首都圏新築マンション平均価格は6,550万円(前年同月比+1.6%)、発売戸数は1,906戸(▲0.4%)、初月契約率は67.8%(前月比▲6.5%、前年同月比+0.2%)であった。

また、2023年上半期(1-6月)の平均価格は8,873万円(前年同期比+36.3%)と最高値を更新、発売戸数は1万502戸(▲17.4%)となった。

月次のマンションの平均価格や発売戸数は、2023年3月に首都圏新築マンションの平均価格が1億4,360円(うち東京23区は2億1,750円)をつけるなど、平均を構成する物件の立地やグレードによってぶれが大きくなる。

傾向を見るために発売価格と発売戸数それぞれを直近12ヶ月の移動平均に変換してみると、2023年6月の価格は7,924万円(前年同月比+12.6%、2013年同月比+57.5%)、発売戸数は2,280戸(▲17.3%、▲44.3%)となった(図表1)。

首都圏新築マンション市場では、価格の高値更新と供給戸数の減少が続いている。

価格と供給の変動の程度はエリア別で異なる。

2023年上半期の平均価格の前年同期比は、東京23区が+60.2%、東京都下が+3.5%、神奈川県が+7.6%、埼玉県が▲14.7%、千葉県が+0.8%となった。東京都下、千葉県については価格上昇の勢いに陰りが見え、埼玉県は停滞している。

また、10年前の2013年同期比では、東京23区が+129.9%、東京都下が+34.3%、神奈川県が+37.1%、埼玉県が+32.0%、千葉県が+27.0%となっている。

10年間で東京23区の新築マンションの価格が約2.3倍になる一方で、それ以外のエリアは約1.3倍にとどまっている。m2単価についても東京23区の上昇率が前年同期比+51.5%、2013年同期比+126.4%と突出している(図表2)。

一方で2023年上半期の供給戸数の前年同期比は、東京23区が▲9.0%、東京都下が▲18.5%、神奈川県が▲36.3%、埼玉県が▲23.1%、千葉県が▲2.3%となった。

また2013年同期比は、東京23区が▲55.0%、東京都下が▲63.7%、神奈川県が▲61.5%、埼玉県が▲61.4%、千葉県が▲43.4%となった(図表3)。

10年間の供給減は東京23区も5割強の減少と大きいが、東京都下、神奈川県埼玉県は6割強の減少とさらに大きくなっている。つまり、今の首都圏新築マンション価格の上昇は、東京23区の新築マンション価格上昇の寄与が大きい。

また、新築マンションの価格上昇に対する需要の減少度合いを見ると、東京23区は価格を上げても相対的に需要の減少が小さく、東京都下・神奈川県埼玉県は価格を上げると相対的に需要の減少が大きいといえる。

2. 新築マンションの価格は戸当たり価格の見かけ以上に上昇している

また、一般的なマンション広告では、価格総額は大きく表記されるが、単価についてはあまり言及されないため、最近マンション購入を検討し始めた人の中には面積の縮小傾向に気づいていない人がいるかもしれない。

首都圏新築マンションの面積は、東京23区が横ばい、その他のエリアが縮小傾向である。

長谷工総合研究所によると、2022年の平均面積は、東京23区が63.96m2(前年比▲1.1%)、東京都下が65.77m2(▲3.7%)、神奈川県が66.34m2(▲1.8%)、埼玉県が67.77m2(▲0.3%)、千葉県が69.52m2(▲0.7%)となった。

60m2を下回る間取りでは売行きが悪くなるため、価格水準の高い東京であっても一定の規模は確保されている(図表4)。

首都圏新築マンションの単価は、東京23区の上昇が著しく、埼玉と千葉でも上昇傾向である。

2022年の分譲単価は、東京23区が1,288千円/m2(前年比+0.5%)、東京都下が796千円/m2(前年比+7.4%)、神奈川県が816千円/m2(前年比+4.6%)、埼玉県777千円/m2(前年比+9.9%)、千葉県が662千円/m2(前年比+7.5%)となった(図表5)。

面積と単価の戸当たり価格への影響をみると、東京23区はm2単価の上昇が価格上昇の原因となっている。面積は大きく変わっておらず、戸当たり価格の価格上昇も見かけの通りである。

これに対し、東京都下と神奈川は面積が縮小する一方で、単価については一進一退で、面積の縮小が原因で価格が上昇している。

また埼玉と千葉は面積の縮小とm2単価の上昇の相乗効果で価格が上昇している。つまり、面積縮小が進むエリアでは新築マンションの戸当たり価格上昇の見かけ以上に価格が上昇している。

3. 住宅価格がさらに上がると思う人が買っている

このように価格上昇が続く背景の一つには、投資需要の高まりがあるようだ。

リクルートが2022年12月に行った調査によると、2022年に住宅の購入を検討した人のうち「住宅の買い時だ」と思っていた人が全体の44%おり、2019年の54%より▲10%と減少している。

しかし、この人たちに買い時だと思った理由を尋ねると、「これからは、住宅価格が上昇しそう」と答えた人が47%おり、2019年の26%よりも増えていた。

一方で「住宅ローン金利が安い」と考える人は2019年の41%から35%に、「住宅価格がお手頃」と考える人は29%から25%に、「ローン減税が有利」と考える人は18%から14%に減っている(図表6)。

一見矛盾しているように見えるが、新築マンション価格が高まり続けていることを合わせて考えると、答えが見えてくるのではないだろうか。

つまり、標準的な価格帯のマンションについては割高に感じる人が増えて売れ行きが鈍る一方で、市場全体の一部である立地も設備もよい高価格帯のマンションについては資金的に余裕のある人が「さらに価格が高くなる」と考えて積極的に購入し、市場全体では平均価格が引き上げられていると考える。

4. デベロッパーは将来のマンション用地を確保できていない

供給者側を見てみると、マンション用地の取得額は減少している。

MSCIリアルキャピタル・アナリティクスによると、2023年7月21日までに判明した関東圏のマンション用地の取得額は約158億円1、2023年1-6月累計の前年同期比は▲81.3%とマイナスであった(図表7)。

一部のデベロッパーは十分な用地を確保していることが確認できる。

しかし、多くのデベロッパーは、用地取得競争の激化と用地価格の高騰、建築費の高騰から、新たな用地を仕入れることが困難になっているようだ。マンション用地購入からマンション完成までには、最短で2年程度の期間が必要である。

今年の下期のマンション用地取得額が前年同期の取得額を大きく上回らない限り、2、3年後の新築マンション供給戸数は減少傾向が加速する可能性が高い。


1 1千万ドル以上(現在のレートで14億以上)の取引のみを計上。

5. マンション供給エリアは全国で拡大している

なお、用地取得競争の激化から全国の地方都市にも新築マンションの供給が広がっている。購入者は販売エリア近隣の高額所得者などで、価格も上昇している。

不動産経済研究所によると、2022年のマンションデベロッパー上位20社合計の年間販売戸数のうち、44%が首都圏で、24%が近畿圏で、30%が首都圏・近畿圏以外で供給されている。

またデベロッパーによって供給の多い圏域は異なっており、野村不動産グループ、三井不動産グループ、住友不動産グループなどが年間販売戸数のうちの半分以上を首都圏で供給する一方、タカラレーベングループ、あなぶきグループ、オリックスグループは7割以上を首都圏・近畿圏以外で供給している(図表8)。

2022年は全国の新築マンション発売戸数は7万2967戸であった。

2023年は約7.5万戸(前年比+2.8%)の供給が見込まれている。マンションは最も土地を効率的に利用する用途の1つであり、今後も全国的な供給は続くと考える。

6. まとめ

首都圏新築マンションは、価格の上昇と供給減が続いている。初月契約率は70%を割り込む月もあるものの、概ね良好な状態である。

新築・中古マンション市場における今後の展望

ただし、今の首都圏マンション市場で売れている物件の多くは、立地もグレードも良い高価格帯のマンションである。

特に東京23区の一部については、さらに価格上昇が期待できると考えて投資目的で購入する人もおり、価格の上昇率が突出している。

一方で、東京都下や首都圏3県では停滞をはじめたエリアも散見される。たまたまその時期に販売された高額な物件が月次の平均価格を引き上げる事象も確認でき、特に首都圏新築マンションの価格については、平均値で見るだけではなく細分化したエリア別に動向を見ていく必要があると考える。

直近ではデベロッパーのマンション用地取得額が大きく減少していることから、これから新築マンション供給は一層少なくなることが予想される。

デベロッパーは少ない将来の用地在庫で今後数年以上の期間に亘って売上を維持しなければならず、新築マンションの売値を下げられる状況にはない。今後も新築マンションの発売価格は高値水準での推移が続くだろう。

なお、日銀の金融緩和の方針については注意が必要である。金融緩和政策が変更されて長短金利が引き上げられると、住宅ローン金利も引きあがるため、新規にマンションを購入したい人の借入可能額の減少を通じて住宅価格が下落する可能性がある。

また、資産防衛の観点からは、新築マンションは住み始めた瞬間から中古マンションになることは忘れてはならない。中古マンション市場では、価格の高まりから新築と競争できるようなマンション以外は価格を引き下げない限り売れ残る可能性が高まっている2

これから新築マンションを購入する人は、実際に長く住むのであればあまり問題はないものの、近い将来に住み替え予定であるとか、投資として購入するのであれば、購入予定のマンションが中古マンションとなった際の価値については保守的に考えた方が良いと思われる。


2 渡邊布味子『首都圏中古マンション市場の動向(2023年5月)~成約価格上昇も在庫は過去最高水準、売却時は価格の減額を視野に』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2022年06月30日

(写真はイメージです/PIXTA)