若年層ほど、新NISAなどの制度を活用して資産形成の第一歩を踏み出す必要があります。本稿では、ニッセイ基礎研究所の 熊紫云氏が、国内債券型・国内株式型・米国株式型など、パターンごとに投資のシミュレーションを行います。

はじめに

2024年から、少額投資非課税制度(NISA)の抜本的拡充や恒久化が実施され、新NISAの導入が予定されている。

元々、NISA制度は、さまざまな年齢層、所得・資産階層向けに、家計の安定的な資産形成を支援するために導入されている制度である。

新制度も開始されるので、このレポートでは、一般的な投資家が長期の資産形成において、新NISAをどのように活用すべきかについて考えたい。

老後資金や住宅資金等、長期的な資産形成の目的は十分な資金を準備することである。その目的を踏まえると、同じ金額を投資するのであれば、最終的な時価残高は多い方が良いであろうし、最終的な目標金額が決まっているのであれば、より少ない投資金額で目標金額を達成できる方が良いであろう。

しかし、今から老後資金の形成を始める若い人等は、老後の生活を想定し、満足できる生活をするのに必要な金額を算出して、適切な目標金額を設定することは難しいと思われる。いつどのような住宅を購入するか分からない住宅資金についても同様であろう。

一方で、現時点で自分がどのくらい投資できるのかは比較的容易に分かるのではないだろうか。つまり、現在の自分の経済的な状況を踏まえて、余裕資金の範囲内で、どれくらいの金額を投資に回せるかということである。

尚、長期の資産形成においては、投資対象と投資方法の選択がとても重要なのだが、新NISAの投資対象には数多くの債券、株式(個別株)、投資信託等があり、投資方法にも一括、積立等がある。このレポートで何にどのように投資したら良いのかについて考えたい。

そこで、このレポートでは、同じ金額を投資することを前提に、過去のデータを用いて、投資対象ごとに投資方法4パターンを想定し、20年後の最終的な時価残高がどうなるかを確認してみた。

20年後の時価残高はいくらになるのか

新NISAのつみたて投資枠の投資対象は、現行つみたてNISA対象商品と同様であり、国内外インデックス型投資信託が主である1。また、成長投資枠の投資対象は個別株、国内籍の投資信託、上場投資信託(ETF)及び上場投資法人(REIT等)があり、投資対象の範囲がとても広い。

投資経験が浅い投資家にとって、個別株やアクティブ運用型投資信託等の多くの金融商品から良い商品を選別することはとても難しいし、現実的ではないと思われる。

一方、市場インデックスは、数多くの銘柄を組み込んでおり、十分に銘柄分散されている。さらに、銘柄数が一定数に限定されているインデックスの場合、一定のルールに基づいて選ばれるため、銘柄選択効果が期待できるので、運用のプロでない人にとっては良い選択肢であると言える。


1 金融庁HPによると、つみたてNISA対象商品は指定インデックス型投資信託が207本、アクティブ運用投資信託が30本、上場株式投資信託(ETF)が8本ある(2023年7月12日時点)。

全223ケースのシミュレーションから浮かび上がる「最適な投資方法」とは

そこで、このレポートの投資対象として、代表的な市場インデックスに投資する国内債券型、外国債券型、国内株式型、先進国株式型、S&P500連動の米国株式型(以下、S&P500)、ナスダック100連動の米国株式型(以下、ナスダック100)、低リスクのバランス型2(以下、バランス型)を取り上げる(【図表1】および【図表1付表】)。

また、代表的な投資方法として積立投資や一括投資等で、【図表2】の通り、4つのパターンを設定する。

なお、投資する金額である投資元本は、新NISAの成長投資枠の生涯保有上限である1,200万円で統一し、投資期間は20年とする。

【図表2】に記載の4つのパターンで、1984年12月末から2004年12月末までの20年間のケースから、1か月ずつ投資開始時期をずらして、2003年6月末から2023年6月末までの20年間のケースまで、全223ケースでシミュレーションを行った。

4つの投資方法での各投資対象を購入した場合の最終的な時価残高の平均値を【図表3】で確認してみよう。

投資対象としてはどの投資方法でも米国株式型と先進国株式型の最終的な時価残高の平均値が高い。①積立と②積立+ボーナスで約2,851万円~3,573万円、③積立+据置で約3,803万円~4,794万円、④一括+据置で約4,578万円~5,496万円となっている。

一方、バランス型、国内株式型と国内債券型は最終的な時価残高の平均値が相対的に低い。①積立と②積立+ボーナスで約1,536万円~1,753万円、③積立+据置で約1,763万円~1,919万円、④一括+据置で約1,714万円~2,135万円となっている。

投資対象のリターンがプラスだと、投資した金額が複利的に増えていく。

そしてリターンが高い場合、時価残高の増加も加速していく。同様に、投資対象のリターンに差があるとそれぞれの投資対象の最終時価残高の差も広がっていく。

なお、日本株式は2013年以降、アベノミクスによって先進国株式並みの上昇となっているため、アベノミクス以前とは投資特性が異なると思われる。従って、日本株式へ今後投資するかどうかの判断においては、今回の試算結果はそのまま使うべきではないことに注意する必要がある。

次に、同じ投資対象を購入した場合、4つの投資方法ごとの最終時価残高の差に注目してみよう(【図表3】参照)。

各投資対象に投資した20年後の時価残高の平均値は、①積立と②積立+ボーナスがほぼ同額であるが、③積立+据置と④一括+据置は、国内株式型を除いて、①積立や②積立+ボーナスより一段高い水準となっている。

実際に【図表3】に示しているように、S&P500、ナスダック100や先進国株式型等、中長期的に高いリターンが期待できる投資対象であればあるほど、積立投資の典型である①積立や②積立+ボーナスよりも、一括投資の④一括+据置の方が最終時価残高の平均値は大きく、その差も大きい。

③積立+据置はその中間であるが、④一括+据置に近い結果となっている。簡単に言うと、高いリターンが期待できる投資対象に投資する場合、なるべく早めに投資元本を積み上げた方が、最終時価残高の平均値は高くなる傾向があるので、お得だということだ。


2 バランス型については資産配分固定型と資産配分変動型があり資産配分固定型はさらに高リスク型、中リスク型、低リスク型と分類できるが、このレポートでは資産配分固定型の低リスク型を取り上げる。

20年後の最終時価残高の分布

ところで、第2章で紹介した最終時価残高はあくまでも全223ケースの平均値であり、各ケースの最終時価残高が平均値になるわけではなく、平均値よりも高くなったり低くなったり、バラツキがある。このバラツキは主として価格変動リスクによるものである。

投資のリスクには価格変動リスクの他に、信用リスクや流動性リスク等がある(【図表4】)。

新NISAの投資対象であるインデックス型投資信託には銘柄選択効果が期待できるため、信用リスクや流動性リスクは最小限に抑えられている。

したがって、インデックス型投資信託の投資のリスクは、主に価格変動リスクによるものと考えられる。このレポートでは、リターンのブレおよび最終時価残高のバラツキにすべてのリスクが反映しているものとして分析する。

ファイナンス理論では一般的に投資対象のリターンの分布を正規分布と仮定して、リターンのブレをリスクとしている。リターンが平均値から散らばっているほど、リターンのブレが大きく、リスクが高いとされている。

【図表5】に各投資対象における月次リターン1984年12月~2023年6月)の最大・最小・平均値と中央値を中心に75%が収まる範囲をグラフで出してみた。細長い線の両端が最大値と最小値で、点線で囲んだ青色の長方形は75%範囲内に収まる範囲を示しており、赤丸が平均値になる。

国内債券型のリターンが▲4.1%~3.9%、バランス型のリターンが▲5.8%~5.3%程度に抑えられており、短期的なリターンのブレが比較的小さく、一般的に低リスクで比較的安全な投資対象であると言われている。

外国債券型は▲14.4%~9.9%で、国内債券型、バランス型より短期的なリターンのブレが大きく、中リスク中リターンと言える。

一方、国内株式型、先進国株式型、S&P500、ナスダック100は、下が▲31.1%~▲25.9%で、上が12.9%~23.0%と短期的なリターンのブレがかなり大きく、一般的に高リスク高リターンの投資対象とされている。

短期的なリターンのブレであるリスクが高くなると投資対象の保有時価残高も大きく変動する。

さらに、時間の経過とともに短期間の価格変動が蓄積され、リスクが高い投資対象であるほど最終的な時価残高のバラツキも大きくなる。

【図表6】も【図表5】と同様の形式で、投資対象ごとに全223ケースにおける20年後の時価残高の分布を示している。20年後の時価残高の最大・最小・平均値と中央値を中心に75%が収まる範囲が表されている。

国内債券型、バランス型へ4つの投資方法で投資した場合の最終的な時価残高は、平均値が低く、バラツキは小さい。バランス型の場合は、最大で2,699万円、最小で1,423万円と、最大値と最小値の差は1,276万円である。短期的なリターンのブレが小さいため、その結果として最終時価残高のバラツキも相対的に小さくなる。

「先進国株式型・S&P500・ナスダック100」の時価残高の特徴

一方、先進国株式型、S&P500、ナスダック100は、4つの投資方法における最終的な時価残高は平均値が相対的に高いが、バラツキは大きい。ナスダック100の場合は、最終的な時価残高のバラツキが極めて大きく、最大値が1億2,479万円、最小値が1,304万円であり、その差は1億1,175万円にもなる。

特に、投資元本を早く積み上げた③積立+据置と④一括+据置の最大値が飛びぬけている。これはナスダック100のリターンのブレが大きいことから生じる。

過去のデータから、国内債券型、バランス型のような低リスク低リターンの投資対象は、リターンが低くなる代わりに、相対的にリスクを抑えた投資ができる。

一方、先進国株式型、S&P500、ナスダック100といった高リスク高リターンの投資対象は、将来の成長が見込まれ、より高いリターンが期待できると同時に、高いリスクにもさらされる。

長期的な資産形成における投資対象や投資方法への選択では、リスクとリターンのどちらを重視すべきなのだろうか。これに対する筆者の考え方を次章で説明したい。

リスクよりもリターンを気にすべき

リスクとリターンの関係として理解しておかなければならない重要事項として、一般的にリスクを取らないと、リターンが得られないということがある。逆に、リスクを取ったからといって、必ずしもリターンを得られるわけではないことも真実である。一方で、リスクを低く抑えたい場合はリターンも低くなることを甘受しなければならない。

こうした基本的な関係を踏まえた上で、投資対象への選択では、若い人の老後資金等、資産形成における投資期間が長い人は、リスクよりもリターンを気にすべきであると筆者は考えている。

なぜなら、高いリターンが期待できる投資対象に長期投資をすると、時間の経過とともに時価残高が雪だるま式に増えていくからである。一方、短期的なリターンのブレというリスクが高いと、時間の経過とともに最終時価残高のバラツキも大きくなるが、時価残高の増加によるメリットを上回るほど大きくはならないのである。

加えて、一般的に、リターンのブレであるリスクは年率換算した1年間での正規分布の標準偏差で表現されており、上ブレも下ブレも同様にリスクと捉えている。上ブレが大きい場合はリスクも高くなるが、長期投資ではその上ブレはむしろ資産形成にプラスに作用していると考えることができる。

「投資」ではリスクを取らないこと自体が「リスク」になり得るワケ

【図表7】に、投資方法①各投資対象へ毎月5万円積立投資をした場合の最終時価残高の分布に関する具体的な数値を例示した。ここでは、全223ケースの75%範囲の上限と下限に注目してみよう。

国内債券型やバランス型に長期投資した場合、75%のケースで最終時価残高は1,397万円~1,810万円であり全体的に低水準である。一方、先進国株式型、S&P500、ナスダック100の75%のケースでの最終時価残高は1,745万円~6,393万円とバラツキは大きくなるものの、全体的に時価残高がかなり大きくなる。

さらに、たとえ20年後に不幸にして株価暴落が起きていて運の悪いケースに該当したとしても、時間的な余裕が十分にある場合は売却せずに気長に待つことで、株価が回復することが十分期待できる。つまり、価格下落の影響を実質的に回避(なかったことに)することが出来る可能性が高い。

このように、低リスク低リターンの投資対象に投資する場合と、高リスク高リターンの投資対象に投資する場合との最終時価残高の差はもはや回復できないほどに大きくなる。特に75%上限の金額の差は極めて大きい。

さらに、長期投資におけるリスクとリターンの関係を分かりやすくするため、【図表7】にある先進国株式型とバランス型の最終時価残高の最大値と最小値と平均値だけを表示したイメージ図で見てみよう(【図表8】)。

最終時価残高の平均値を上回る金額のケースを上ブレとし、平均値を下回る金額のケースを下ブレとする。

バランス型へ毎月5万円積立投資をした場合の最終的時価残高は最大値が1,889万円で、最小値が1,423万円である。

平均値の1,661万円から、上ブレが最大228万円で、下ブレが最大238万円で上ブレと下ブレがほぼ同じである(青い三角形)。

一方、先進国株式型へ毎月5万円積立投資をした場合の最終的な時価残高は最大値が4,661万円で、最小値が1,404万円である。平均値の2,851万円から、上ブレの最大が1,810万円で、下ブレの最大が1,447万円で、最大値と最小値の差がかなり大きく、しかも上ブレの方が大きい(赤い三角形)。

平均からの上ブレが大きいため、ファイナンス理論で言うところのリスクはかなり高くなるが、資産形成上はむしろメリットとなっている。

このように、先進国株式型、S&P500、ナスダック100等、高リスク高リターンの投資対象の最終時価残高が高いのは、リターンが高いため、長期投資での複利効果で下ブレよりも上ブレが大きくなり、時価残高の増加に大きくプラスに働いているからである。

【図表8】の図を見ると、長期投資においては、下の方にある細長く青い三角形のバランス型よりも、上に幅広く拡がる赤い三角形の先進国株式型の方が良いということが良く理解できるのではないだろうか。

リスクを取らないと、リターンは低いままである。短期的な価格変動リスクを過度に恐れてリスクを取らない場合、最終的に十分な資産形成できない可能性が高くなる。同じ金額でできるだけ多くの資産形成をしたいという目的に照らした場合、最終的に資産が十分にできていないことこそが本当のリスクなのではないだろうか。

新NISAで何にどのように投資したら良いのか

このレポートでは、20年間の投資期間を前提に、過去のデータで代表的な市場インデックスの投資対象に4つの投資方法で購入した場合の試算を行った。

結果として、すべての投資方法で、S&P500、ナスダック100、先進国株式型の最終的な時価残高がかなり高かった。

また、高いリターンが見込める投資対象であれば、一括投資の方が積立投資よりも最終的な時価残高が高いことも分かった。尚、毎月定額を積立投資する場合と毎月積立にボーナスを組み合わせる場合は、年間の投資額が同じであれば、最終的時価残高はほとんど同じだった。

長期投資では、高リスク高リターンの投資対象に投資すると、最終時価残高が雪だるま式に増えていく。

一方、リスクが高いため最終時価残高のバラツキも大きくなるが、最終的な時価残高の増加のメリットを台無しにするほど大きくはならない。長期投資における資産形成上のリスクは、一般的に言われている投資対象ごとの短期的なリスクほど気にしなくて良いと思われる。

以上を踏まえると、若いうちはまず新NISAの「つみたて投資枠」で、リスクを必要以上に恐れることなく、先進国株式型等の将来的に高いリターンが見込める市場インデックス型の投資対象に無理のない範囲で積立投資することが良いと思われる。

同じ税制優遇制度である確定拠出年金制度(企業型DC及びiDeCo)でも同様の投資を行い、将来に向けた十分な資産形成を早めに開始することが何よりも大切である。

その上で、もし収入や資金に余裕があれば新NISAの「成長投資枠」も活用し、米国株式等、より高いリターンが見込める市場インデックス型の投資対象になるべく多くの金額を投資するのが得策であると思う。

その後、資産形成が進み、満足できる資産残高になったら、自分の現在の収入および将来の収入見込み、年齢、健康状態、その他の財産状況等を踏まえて、投資方針を決める必要がある。

資金的にまだ余裕があれば、引き続きリスクが高いもののリターンが高い投資商品を持ち続けても良い。

一方、健康に不安があるとか、老後資金の取り崩し時期までに10年を切る等残りの投資期間があまりない人は、ある程度満足ができる資産形成ができたら、あまり無理せずに、バランス型等に資産を移行する等、リスクの低いポートフォリオにするか、もしくは思い切って預貯金にしておいた方が無難である。

資金の使用時期直前に株価暴落が生じると、せっかく積み上げてきた資産が大きく毀損するかもしれないからだ。

投資における「リスク」との賢い付き合い方

一般的に、投資のリターンは利息や配当等のインカム収益や値上がり、値下がりといった投資成果としてイメージしやすいのではないだろうか。

一方、投資のリスクはイメージすることが難しく、個人によって理解が異なると思われる。

辞書ではリスクが「危険、損失や不確実性」とよく説明されているので、多くの人はリスクを負うことは「危険」を冒すことに等しいと捉え、リスクは回避すべきものとして、通常の社会生活では、リスクをほとんど取らないことが多く、それはそれで正しい対応だと思う。

しかし、投資のリスクは一般的な社会生活での回避すべきリスクとは異なる。

老後資金、住宅資金等といった長期的な資産形成においては、過度にリスクを恐れてリスクを取らずに資産形成することは、リターンを得られないことに直結する。このレポートで説明した通り、必要なリスクを取らないことが長期的な資産形成においては本当のリスクになるのではないだろうか。

若い人の老後資金等、資産形成における投資期間が長い人は、十分な資金を形成するという目的に向けて第一歩を踏み出し、適切な投資対象選別や十分な資産・銘柄分散等を前提に、合理的で十分なリスクを取ってリターンを取りに行く勇気を持つことが大切であると思う。

いずれにせよ、将来の資産形成に向けて新NISAを大いに活用して、より良い資産形成ができることを期待したい。このレポートが少しでもお役に立てば幸いである。

(写真はイメージです/PIXTA)