富裕層の節税策としては常識になりつつある「プライベートカンパニー(資産管理会社)」。近年、副業が普及したこともあり、サラリーマンでもプライベートカンパニーを所有する人が増えていると、税理士法人グランサーズの共同代表で税理士公認会計士の黒瀧泰介氏はいいます。プライベートカンパニーを持つことで受けられる“さまざまな恩恵”をみていきましょう。

プライベートカンパニーって、必要?

――そもそもプライベートカンパニーとは、どういう会社のことをいうのでしょうか。

黒瀧氏(以下、黒)「プライベートカンパニーは、オーナーの資産管理を目的として設立する会社です。通常の会社が行うようなビジネスは行わず、資産家のための会社として存在するので、『プライベートカンパニー』と呼ばれています。

現金や株式、不動産などといった自らの資産を管理することが主な業務のため、資産管理会社と呼ばれることもあります。

――でも資産の管理なんて、別に個人でもできるじゃないですか。なんでわざわざ法人を作って管理するのでしょうか?

黒「これは税制上、さまざまなメリットがあるからです。

富裕層のあいだではプライベートカンパニーを持つことが常識となりつつありますが、実はそのメリットを享受できるのは、富裕層に限った話ではありません。

今回はそのメリット・注意点などについて詳しくみていきましょう」

プライベートカンパニー設立で得られる「恩恵」

――プライベートカンパニーを設立するとメリットがあるといいますが、念のため聞きますけどこれ、なにか怪しいこととかじゃないですよね。

黒「あくまでも、定められたルールのなかできちんと申告したうえでメリットがあるというお話ですので、ご安心ください」

――なるほど、安心しました(笑)

黒「個人と法人では、税率や経費として申告できる範囲などに違いがあり、プライベートカンパニーを作ることでさまざまな税務メリットが得られる可能性があります。

たとえば課税所得4,000万円の方の場合、個人の所得税の税率は45%、住民税が10%かかるので、合わせると55%と、半分が税金になってしまいます。一方、法人税の実効税率は約34%ですので、個人で受け取るか、法人で受け取るかの違いで税率に大きな差が出てきます。

――これはずいぶん違いますね。

黒「他にも、

・個人で確定申告をするよりも、経費として計上できるものが多い ・赤字を最長10年先まで繰り越すことができる ・小規模企業共済や経営セーフティ共済といった共済に加入することができる

といった点も、法人のメリットとして挙げられます。このため、法人を設立したほうが多くのメリットを享受できるといえるのです」

法人設立で「得をする人」3つのパターン

――プライベートカンパニーを設立してメリットがあるのは、特にどんな人でしょうか?

黒「節税メリットを得ることができるのは、主に下記のような方です。

1.副業を行っているサラリーマン 2.相続税対策をしたい人 3.オーナー社長

以下で詳しくみていきましょう」

1.副業を行っているサラリーマン

黒「『副業を行っているサラリーマン』は、所得税法人税税率の差を利用して節税できます。

日本において、個人の所得税累進課税のしくみをとっており、[図表1]のように高収入であるほど税負担が重くなります。

いったん控除額は除いて考えると、住民税も含めて最大で約55%の税率になります。副業として不動産投資などを行っている場合、不動産所得についても給与と合算して税金の計算を行うため、税率が給与だけではなく不動産所得にもかかってきます。

一方、法人の実効税率はさきほども触れたように約34%ですから、高収入のサラリーマンが負担する所得税率よりも低くなります。

したがって、年収1,000万円を超えるような方が副業や資産運用を行う場合は、プライベートカンパニーを設立してそちらで運用を行うことで、税率を低くできる可能性が高くなります」

――そうなんですね。ほかにメリットはありますか?

黒「2点あります。1つ目は、所得を分散できるということです」

――「所得の分散」というと節税スキームの話でよく聞く言葉ですが、どういう意味でしょうか。

黒「先ほどもお話しましたが、個人の税金は稼げば稼ぐほど高くなります。そのため、すでにサラリーマンとしての収入がある本人がさらに追加で全額給与としてもらうより、たとえば奥さまなど、無収入や低収入のご家族に給与を渡して利益を分散したほうが、世帯全体でみたときに税金が少なく済みます。

――1人が高額な税率で税金を支払うより、複数人に分けて低い税率で税金を支払ったほうが、家計全体の手取りが増えるということですね。

黒「そのとおりです。もう1つのメリットは、経費にできる範囲が広がるということです。たとえば、役員社宅です」

――これはどんなものでしょうか。

黒「役員社宅とは、法人名義で借りた物件を役員に社宅として貸し出した場合、法人の負担分は経費として計上できる、というものです。役員の住まいを法人名義で契約し、会社は役員から一定額の家賃を徴収するのですが、こうすると少なくとも家賃の50%を経費にすることができます」

――家賃20万円とすると、少なくとも月10万円、つまり年間120万円の経費を作れるわけですね。これは大きいですね。

黒「はい。また、生命保険料の支払いに関しても、個人では生命保険料は経費計上できず、最大12万円の生命保険料控除が受けられるのみです。一方、法人であれば生命保険料を一定の割合で経費にすることができます」

プライベートカンパニー設立は「争族」も防げる

2.相続税対策が必要な方

――具体的に、相続税がどのくらいかかる人ならプライベートカンパニー設立のメリットがあるんでしょうか。

黒「相続人が何人いるかによっても異なりますが、見込みの遺産額が1億円を超えてくるようであれば、設立を検討してもいいでしょう

――どうしてプライベートカンパニー相続税対策になるんでしょうか。

黒「先ほどお話したとおり、プライベートカンパニーを設立し、そこから給与を親族に支払うことによって、本来自分1人に入ってくるはずのお金を親族に分配することができます。

所得税・住民税の節税という意味でも有効ですが、相続発生前にご家族に資産を移すことできるという意味で、相続税対策にもなります」

――なるほど。「生前贈与」に近いお金の流れということですね。

黒「そのとおりです。通常の生前贈与では税率が最高55%になりますが、プライベートカンパニーからの報酬という形で親族にお金を支払うと、より低い税率の所得税・住民税しかかかりません。また親族への報酬もプライベートカンパニーの経費にできるので、その会社の法人税を抑えることもできます」

――つまり、より多くのキャッシュを残して親族に渡すことができるということですね。

黒「はい。さらに、『プライベートカンパニーからの報酬』として親族に移転した資産は相続税納税資金にもなるため、納税資金対策にもなるというメリットがあります。

――詳しく教えてください。

黒「相続税は、相続が発生した10ヵ月以内に現金一括で納付するというルールがありますが、この際、『納税資金が用意できず、大事な土地や住んでいる建物を納税のために手放さなければならない』といった事態が起こる可能性があります。

しかし、こうして資産をあらかじめ移転しておけば納税資金の用意ができ、大事な家や不動産を手放さずに済むことができます」

――現金一括で納付というのがキツイですが、その資金を用意できるわけですね。

黒「はい。また、相続争いの防止というメリットもあります」

――これはどういうことでしょうか?

黒「遺産相続は、しばしば親族同士でトラブルとなり、“争族”になるケースがあります。特に、不動産などの実物資産が遺産の大部分を占める場合、遺産分割の難易度が高く、トラブルにつながりやすくなります。

これに対し、プライベートカンパニーに一括して不動産を所有させていれば、株式を分配して相続させることができるので不公平感がなくなり、“争族”を未然に防ぐことが可能です」

――なるほど。株式であれば公平に分けやすいということですね。

法人設立は、「自社株の相続税対策」にも有効

3.オーナー社長

――3つ目は「オーナー社長」ですが、オーナー社長がプライベートカンパニーを設立することでどのように活用できるのでしょうか?

黒「これも相続に関するものですが、オーナー社長にとって大きな課題のひとつが、自社株の相続です。

自社株は、生前に親族に贈与することで相続税の節税になるのですが、生前に自社株を親族に贈与する場合は、自分の持っている経営権を一部家族に渡すということになるため、経営権の確保に影響が出るのが難点です。

簡単にいうと、一時期メディアで話題になった『大塚家具お家騒動』のような、経営への悪影響を与えるリスクを考慮する必要があります。

このような場合に、自社株をプライベートカンパニーに移し、その会社の株を贈与するというケースですと、株を贈与された親族は自社株を簡単に換金することができません。また、相続が発生した場合でも、対象となる資産はあくまでプライベートカンパニー(資産管理会社)の株式なので、自社株が社外に流出する可能性も減ります。

プライベートカンパニーを設立することで、経営権を安定的に確保しながら、自社株の相続税対策を進めることができるというメリットがあります。

「株式会社」か「合同会社」か…判断する際のポイントは?

――これまでみてきたように、「自分の会社を持つ」ということにはさまざまなメリットがありますが、一方、デメリットも押さえておかないといけません。一番のデメリットはなんでしょうか。

黒「これはやはり、設立や運営に、一定の費用と手間がかかることです」

――費用は具体的にどのようなものが挙げられますか?

黒「まずかかるのが初期費用です。これは、株式会社にするか合同会社にするかで、設立費用が異なります。

上記のように、株式会社の場合、登録免許税や収入印紙代、公証人手数料などで合計24万2,000円ですが、合同会社の場合合計10万円で済みます。また、株式会社・合同会社どちらであっても収入印紙代は4万円ですが、こちらは電子定款にすれば不要です。この他、司法書士など専門家への報酬も必要になります。

――なるほど。合同会社のほうがコストをかけずに作れそうですね。

黒「はい。ただ、信用力という点では株式会社が勝るので、対外的な信用が必要ということであれば株式会社かなと思います。

――ランニングコストについてはいかがでしょうか。

黒「法人の場合、たとえ決算が赤字でも、法人住民税の均等割分というのは毎年必ず納税する必要があります。また、法人として確定申告が必要となるため、そのための人件費や税理士などへのいわゆる『外注費』も追加で発生する可能性が高いです」

――プライベートカンパニーを設立すべき目安はありますか?

黒「課税所得が900万円を超えると、所得税・住民税合わせて税率が43%となり、法人実効税率の34%より負担が重くなるため、そのあたりを目安に法人の設立を考えるといいでしょう。

反対に、所得税の税率がたとえば10%など、所得が低く税率が低い方の場合は、無理に法人を設立せずに個人のままのほうがお得です」

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)