老後資金を「公的年金」だけで賄うことが難しくなってきており、その対策として「投資」が有効な選択肢となっています。そこで活用したいのが、掛金全額が所得控除になる「iDeCo」の制度です。ただし、条件によっては活用メリットがない人もいます。制度のポイントについて、ファイナンシャルプランナー岡崎充輝氏の著書『図解 50歳からでも間に合う かんたん資産運用術』(彩図社)より一部抜粋して紹介します。

iDeCoの運用は、国が推奨している制度ですから、メリットがたくさんあります。

iDeCoには大きく分けて3つのメリットがありますので、順番に説明していくことにしましょう。

メリット1. 掛金が全額所得控除される

一番大きなメリットは、掛金全額が所得控除の対象となる点です。つまり、税金が安くなるということです。

仮に毎月の掛金が1万円の場合、所得税10%、住民税10%とすると、年間2.4万円の税金が軽減されます。

年間12万円の掛金で2.4万円税金が安くなるので、つまり9.6万円の支払いで、12万円分の掛金をかけていることと同じというわけです。

メリット2. 運用益も非課税で再投資できる

2つめのメリットは、運用益が非課税で、丸ごと再投資できるということです。

通常、金融商品を運用すると運用益に課税されますが(20.315%)、iDeCoなら非課税で再投資できます(本来は特別法人税(積立金に対し年1.173%)がかかるのですが、現在は課税が停止されています)。

メリット3. 受け取る時も大きな控除がある

3つめのメリットは、貯めたお金を受け取るときに、大きな控除を受けられることです。

iDeCoで貯めたお金は、将来、「老齢給付金」という名前で受け取ることになります。

受け取り方法は、「年金」か「一時金」のどちらかを選択できます(金融機関によっては年金と一時金を併用することも可能)。

税金は、お金を受け取った時にかかります。残念ながらiDeCoの場合も、「年金」「一時金」どちらの場合も課税対象となります。

値上がり益だけでなく、元本部分も課税対象となります。ただ、前述したとおり、iDeCoは自分で自分の年金をつくるための制度ですから、大きな控除額が用意されています。

「年金」で受け取る場合の節税効果

「年金」は、老齢給付金を通常の老齢年金と同じように分割で受け取る形式で、5年以上20年以内の期間を自分で決められます。

この場合の給付金厚生年金などと同じ扱いになり「雑所得」として課税されますが、他の公的年金等の収入との合算額に応じて、「公的年金等控除」の対象となります。

「公的年金等の収入の合計額」が65歳未満だと70万円まで、65歳以上だと110万円までは税金がかかりません。

※「公的年金等の収入の合計額」とは主に以下の合計金額となります。

1. 国民年金法、厚生年金保険法、国家公務員共済組合法などの法律の規定に基づく年金

2. 恩給(一時恩給を除きます)や過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金

3. 確定給付企業年金契約に基づいて支給を受ける年金

4. 外国の法令に基づく保険または共済に関する制度で1に掲げる法律の規定による社会保険または共済制度に類するものに基づいて支給を受ける年金

国税庁「公的年金等の課税関係」より)

たとえば、65歳以上の人で公的年金等の収入の合計額が350万円の場合には、235万円(350万円×75%-27万5,000円=235万円)が課税対象となります。

「一時金」で受け取る場合の節税効果

「一時金」で老齢給付金を受け取る場合は、一括の受け取りとなります。この場合は給付金は退職金と同じ扱いになり、「退職所得控除」の対象となります。

退職金と同じ扱いなので、勤続年数(積立期間)が長いほど控除額が大きくなります。

・勤続年数20年以下…40万円×勤続年数(80万円以下の場合は80万円)

・勤続年数20年超…800万円+70万円×(勤続年数-20年)

たとえば、勤続30年の場合、退職金等と合わせて1,500万円まで非課税になります(20年超800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円)。

退職金は、税制上とても優遇されています。右の範囲内に収まれば、元本も利益も非課税となります。さらに、この範囲をオーバーしたとしても、超えた分だけが課税の対象となるので、税額は小さくなります。

繰り返すようですが、iDeCoでは値上がり益だけでなく元本部分も対象ですから、運用で儲かっていなくても、場合によっては税金がかかる可能性があります。売却時に出た運用益が全額非課税になるNISAとはここが大きく違います。しかし、それを考慮したとしても、大きな税額控除枠は魅力的です。

向いていない人もいる

ただ逆に言えば、税金をあまり払っていない方は要注意です。

たとえば、配偶者の扶養の範囲内でパートをしていて、年収を103万円以内に抑えて税金が発生しないようにしている専業主婦(国民年金の第3号被保険者)の方は、この税額控除の恩恵を受けることができません。

だからといって、103万円を超えて働けばいいかといえば、そうとも言えません。年収130万円(※)を超えると社会保険料を自分で納めることになり、トータルでは損をしてしまうおそれがあります。

※ 従業員が100人を超える企業にお勤めの国民年金の第3号被保険者の方の場合は「年収106万円」

103万円~130万円の間の年収で税金を払っている場合には税額控除の恩恵を受けることができますが、その他の生命保険料控除等を考えるとそれほどのメリットであるとは思えませんので、十分注意が必要です。

岡崎 充輝

株式会社ヘルプライフオカヤ

代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)