酔った勢いでキスされたり、股間を押し当てられ不快だった。無理やり触られたトラウマをずっと心に抱えていた三森みさ(@mimorimisa)さん。6年後、性被害のネットニュースを見て、突然フラッシュバックが発症。以降、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が現れ、体調不良の日が続く。最新の心理療法で生きやすくなった経験を漫画にし、多くの人に広めたいと、現在クラウドファンディングを募っている。

【漫画】本編を読む

※本作には、性被害やPTSDの描写が含まれます。閲覧にはご注意ください。

■苦しい体験で悩んでいる人に、少しでもラクになれる方法を拡散したい

「だらしない夫じゃなくて依存症でした」「母のお酒をやめさせたい」などの著者、三森みささん。自身の実話をベースにアルコール依存やカフェイン依存、ゲーム依存症などの啓発漫画を描く。難しい「依存症」を乗り越えるまでのリアルな実態を描き、大きな反響を集めている。

今回は、酔った男性に無理やり迫られた性被害のトラウマPTSDを発症。その後、精神的な辛さが続いたが、臨床心理士の元で受けた最新の「トラウマ療法」で辛い現状を克服することができた。その体験談を漫画にしたい!と、クラウドファンディングをスタート。発症のきっかけになったエピソードをTwitterに投稿すると、壮絶な体験談に3万以上のいいねが集まり、話題となる。今回は、制作の経緯など詳しい話を三森さんにインタビューした。

ーー三森さんは、ゲーム依存、カフェイン依存、アルコール依存症などの漫画も手がけていますね。今回、トラウマを克服できる治療法を漫画にしようと思ったきっかけはなんですか?

「長い間、自分が苛まれていたから」が一番の理由です。依存症とトラウマは綿密な関係にあると言われています。例えば、トラウマから発生するフラッシュバックや感情コントロールの難しさ、体調不良などを酒や薬物などで抑え込む…というのは珍しい話ではないと、自分の周りにいる依存症の人を見ていても感じることがあります。

私は13歳の時からゲーム依存症にかかり、そこからあらゆる依存を転々としてきました。今になって思えばゲーム依存症も、両親が別居で家族バラバラになったトラウマがあり、フラッシュバックや悪夢を抑え込むための依存症でした。26歳の時から依存症の治療を行うことで、依存症の問題自体は激減しました。一方で、依存することで誤魔化し続けていた根本的なトラウマの問題が表出し、フラッシュバックなどは治りませんでした。

「一生このままなのか」と思っていましたが、トラウマ療法によってかなり改善しました。同時に、考え方を変える方法だけでは突破できない壁があることも痛感しました。私が受けた治療法がすべてだというつもりはありません。しかし、考え方を変える方法だけではなく、別のアプローチの方法があることも知ってもらえれば、苦しんでる人の治療の選択肢が広がるだろうと思います。

ーーフラッシュバックがあんなに壮絶なものとは知りませんでした。漫画を読んで初めてどのようなものか知ることができました。実際のリアルなイメージを漫画にしているのですか?

イメージというか、体験談ですね。当時のしんどさをそのまま描いたら、ああなったという感じです。ただ、私は子供の頃からもトラウマを抱えていて、フラッシュバックの経験は何度もありました。小さい頃から当たり前のようにフラッシュバックをしてたので、その異常さに気づかなかったのですが、その中でもあんなに苦しいフラッシュバックは初めてでしたね。いろいろ積み重なって、重篤化してしまったんだろうなと思います。

ーーTwitterに掲載された漫画は、フラッシュバックする序章部分ということですよね。制作費用ができたら、どのような漫画に仕上げていく予定ですか?

ここから先、心療内科につながり性被害の問題と子供時代の問題を持っていることを指摘され、専門機関を紹介されます。それ以降、漫画自体は、この専門機関でのトラウマ療法の内容自体がメインとなります。ただひたすらトラウマ療法をやってる場面が並ぶので、ドラマ性などはありません。

従来の考え方を変えるアプローチに加え、身体にアプローチをする心理療法では、実際にどんなことをやったのか、どんな感じだったのかを交えて描いていく予定です。また、同じように悩んでる方に向けて、私自身が知ってよかったトラウマに関する知識を簡単に解説するページを心理士監修のもとで入れたいと思っています。

ーークラウドファンディングをやってみての感想は?

精神疾患や性被害はまだまだ偏見が多く、カミングアウトが難しい現実があります。そうであるが故に、病気や犯罪被害を相談できない苦しみを当事者は抱え込んでしまいます。そのなかで、想像以上に賛同をいただきまして、大変びっくりしました。実体験を描くだけなのに、こんな賛同をいただいて大丈夫かな?という気持ちもありつつ、とてもありがたく思っています。応援していただいた分、いい作品に仕上げていきたいと思いました。

ーー同じように性被害や依存で苦しんでいる人に伝えたいことがあればお願いします。

犯罪被害に遭うことも病気にかかることも、とても理不尽で苦しいことです。私は「なぜ自分がこんな目に」という気持ちがなかなか抜けきれず、自分の運命を呪うことがたくさんありました。一方で精神医学の発展や社会の偏見も少なくなってきて、苦しみのトンネルから抜けられる日が早まってるとも感じます。しかしどんなに環境が整っていても、本人が今の状況を改善したいと思わなければ、いい方向には作用しないとも、経験上感じています。自分の人生を立て直すことができるのは、最終的には自分自身の力です。充実した医療・環境は、それができるようになるまでの手助けでしかないと思っています。どうか心の奥底にある「自分の人生を回復させたい」という気持ちと、苦しみの中を生き抜いてる自分への敬意を、忘れないでほしいです。

抱えていた性被害のことを知人の男性に相談したら、「触られたくらいで、ぎゃあぎゃあ言うなよ」「相手も酒飲んでたんだし」と、程度の軽いものとして扱われた言葉も「受け流せない自分が悪い」と、自責の念に追い込む結果になった。なぜ、被害者がここまで辛い思いを抱え続けなければいけないのか。漫画を読んで、初めてPTSDの壮絶さを知る人も多く「経験者にしかわからない苦しさがいくらか理解できた」と言う声も。また、今PTSDに苦しむ人たちからも、治療方法を知りたいと賛同の声が集まっている。

取材協力:三森みさ(@mimorimisa)

記憶から消えてなくならない。辛すぎるフラッシュバック/画像提供:三森みさ(@mimorimisa)