父が逝去し、トラブルのもととなったのは、生前の父が集めていた骨董品と、先々に母しか入る予定のないお墓の今後。母と娘2人の意見が大きく食い違ってしまい、調停申し立てをすることに……。本記事では、実務に精通した弁護士陣による著書『依頼者の争族を防ぐための ケーススタディ遺言・相続の法律実務』(ぎょうせい)より、墓じまいと骨董品の形見分けにおける円滑な対処法を解説します。

墓じまい、骨董品の形見分けはどうする?

【相談の概要】 父Aが亡くなり、法定相続人は、母B、姉C及び私Dです。亡Aの遺産については、不動産・預貯金・株式等があり、BとC・Dとの間で意見の食い違いが大きく、調停を申し立てるしかないと考えています。遺産のほか、姉Cも私も嫁いでおり、Bも高齢であるため、今後、家の墓(亡Aが祭祀承継者)をどうすればよいのかが問題になっています。

なお、同墓には、亡A及びその両親が納骨されていることは明らかですが、それ以前の詳細は不明です。亡Aには兄弟姉妹がおらず、B、C及びDの他には承継をする者がいません。また、亡Aは骨董品(皿・壺)を集めるのが趣味であり、その中には私にも思い出があって欲しいものがありますが、すべてBが管理しています。このようなものは遺産に入るのでしょうか。そしてどのように分けるのでしょうか。

【相談を受けた弁護士の回答】

1 墓の問題

墓は、祭祀承継者がその使用権等を承継するところ、祭祀承継者について、亡Aによる指定がなければ、(慣習によることは実際にはないため)家庭裁判所に審判を申立てて決めてもらうしかなく、祭祀承継者が決まれば、その者がこの墓の処理を決めることになります。

祭祀承継者の指定の審判は遺産分割とは別個の審判事件であるため、遺産分割調停とは別途申立てが必要になるが、遺産分割調停において当事者全員の同意があれば、同調停において、祭祀承継者を指定して祭祀財産を取得させるとの条項を入れることは可能とされています。

このため、まずは、遺産分割調停の中で話し合いを持ちかけてみるのもよいでしょう。また、墓を承継するのが全員現実的に難しいとなった場合には、墓じまいも検討されます。

2 骨董品の分け方

骨董品など動産を遺産分割の対象とするためには、特定が必要となりますが、骨董品の特定は難しく、今回のようにBが保管している骨董品の特定はさらに難しいようです。特定できない場合には、調停・審判による遺産分割の対象からは外され、形見分けとして分けることを勧められることが多いようです。

1.祭祀承継者

(1)祭祀承継者指定の調停・審判

墓石・墓碑など遺骨を葬っている設備は、「祭祀財産」の一つである墳墓であり、祭祀財産(墳墓のほか、系譜・祭具)は、相続財産を構成せず、祖先の祭祀の主宰者(「祭祀承継者」)に帰属し、祭祀の主宰者は、第一に被相続人の指定により、第二に慣習により、第三に家庭裁判所の審判により定まるとされています(民法897条、家事事件手続法39条・別表第2の11項)。

今回は、被相続人の指定がなく、慣習が存在するということは現実的には見受けられないため、これを定めようとする場合には、家庭裁判所に対する審判申立てをすることになります。

祭祀承継者指定は調停前置主義(家事事件手続法257条)の対象事件ではありませんが、事案によっては、裁判所の職権により調停に付されて調停での話し合いを求められる可能性があります。審判における祭祀承継者決定の基準については、次の高裁決定が参照されますので、これを前提に具体的事情・経過を詳細に明らかにする必要があります。

「この点については、承継候補者と被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理等の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが、

祖先の祭祀は今日もはや義務ではなく、死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから、被相続人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち、他方、被相続人からみれば、同人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である。」(東京高決平成18年4月19日判タ1239号289頁)

祭祀承継者が定まれば、その者において、墓の使用権等の権利を有するとともに管理料等の支払義務を負うことになります。

(2)遺産分割調停における協議・調停条項

上記(1)のとおり、祭祀承継者指定は審判事件ですが、遺産分割調停において、当事者全員の合意があれば祭祀承継者の指定の条項を含めての調停成立は可能とされていますので、遺産分割調停を申し立てるということであれば、まずはその中で協議することが有効な場合があります。

【遺産分割調停にて祭祀承継者を指定することを合意した場合の条項例】

「当事者全員は、被相続人の祭祀の承継者を申立人と定め、申立人は、その祭具及び墳墓の権利を承継する。」

2.墓じまい

今回のように、娘二人が嫁いでおり嫁ぎ先の墓に入る予定であり、今後亡Aが納骨されている墓にはBが入る他には入る人もいない、ということですと、誰かが一旦承継してもその後の承継者がいないということになりますので、墓じまいも検討されるところです。

墓じまいと言っても、現在ある墓内の遺骨を改葬する必要がありますので、現在ある墓を閉じるというだけでは終わりません。一般的には、

①現在ある墓から遺骨を取り出す(その際に、魂抜きの供養・閉眼供養等をすることがあります。)

②墓石等を撤去処分し更地にして管理者に返還する

③①の遺骨について市区町村の改葬許可を得たうえで合葬墓等に納骨する

ことが必要になり、③の合葬墓等への納骨に伴って寺院等に永代供養を依頼すると、永代供養料等の支払いを求められることが多いといえます。そして、この永代供養料等の金額は、寺院によってその多寡に幅があります。また、①②の作業には石屋を手配する必要があり、その費用がかかります。

このため、墓じまいを検討される際には、まずは墓を管理する寺院等に対し、合葬墓の有無・合葬墓に入れる遺骨の範囲(檀家に限るとする寺院もありますが、宗派等一切を問わず受け入れ可能とする合葬墓もあります。また、墓内の遺骨のほか、現在の使用権者までは将来亡くなったときにも入れるとする合葬墓もあります。)・墓じまいそのものの費用とその後の永代供養料等の金額等を問い合わせ、具体的な内容を確認する必要があります。

また、改葬許可を得るためには納骨されている者の特定が必要であり、寺院等によっては遺骨の数によって永代供養料等の額が変動することもありますので、予め寺院・管理者に対し、過去帳等の記録の確認を求めることは必須であり、場合によっては墓を一度開けて中の骨壺数・そこに記載されている名前を確認することまでした方がよい場合があります。

この点、都立霊園等の公営霊園では、合葬施設があり永代供養料等の支払いを要しない又は低額に定められていることが多いですが、被相続人から祭祀承継者への名義変更手続とそれに対する許可が必要とされる・合葬施設への移設の申込時期が毎年毎に一定期間に限定されているといった手続面での条件があることが多いですので、予め手続きを確認することは必須です。

3.形見分け

動産類も被相続人の遺産として遺産分割の対象になります。ただし、対象とするためにはまずは特定が必要とされます。今回のような皿・壺のほか、貴金属・絵画・書画・着物等の特定はそもそも難しい場合が多いのと、保管者がこれに協力しない場合には特定ができないことも多いでしょう。

また、価値があるものは遺産分割の対象になりますが、この価値についても、客観的に評価額が明らかになり、当事者全員が評価額を合意すれば遺産分割が可能な場合がありますが、評価額に争いがある場合にこれを評価する方法も問題になります。

遺産分割調停・審判においては、動産については、特定ができない場合・客観的価値がないもの・評価額が明らかにならないもの等は、遺産分割の対象財産から外され、形見分けとして当事者が適宜に分けるのが相当として、形見分けを勧められることになります。

ただし、調停においては、形見分けに関する次のような条項をもって、形見分けの実施を合意することができますので、調停の中で、形見分けの段取りや内容を一定程度(本来の遺産分割協議に支障が生じない程度)協議し、これがうまく実施できるよう進めることは有効な場合があります。

【形見分けを行う条項例】

被相続人の遺産のうち動産類については、申立人と相手方が立会いの下形見分けを行うものとし、その日時については当事者間で別途協議して定める。

東京弁護士会弁護士業務改革委員会

遺言相続法律支援プロジェクトチーム

(※写真はイメージです/PIXTA)