少女の歌声を聴いた、ダンス&ボーカルグループ「GENERATIONS from EXILE TRIBE」のメンバーが次々に呪われる!「呪怨」シリーズ、『牛首村』(22)、『忌怪島/きかいじま』(公開中)などで知られる清水崇監督の最新作『ミンナのウタ』(8月11日公開)は、GENERATIONSのメンバー全員が本人役で主演し、現実とフィクション、リアルとファンタジーを交錯させながら観客を未体験の恐怖へと誘う体感型ホラームービーだ。

【写真を見る】新世代のホラーアイコン“さな”が誕生!セット美術に白濱亜嵐も驚愕

MOVIE WALKER PRESSでは、夏の猛暑を一気に凍りつかせる話題作の撮影現場に潜入。異様な緊張感に包まれたクライマックスの撮影の模様を、清水監督のコメントと共にお届けする。

ラジオ局の倉庫で30年前の古いカセットテープを発見したGENERATIONSの小森隼が、ラジオの収録中に奇妙なノイズ音と少女の歌声を聴いた直後に突然失踪。その後、ほかのメンバーも次々に怪奇現象に襲われる。リーダーの白濱亜嵐とマネージャーの凛(早見あかり)、彼女が雇った元刑事である探偵の権田(マキタスポーツ)はやがて、すべての悪夢の元凶が30年前にカセットテープをラジオ局に送ってきた少女“高谷さな”(穂紫朋子)であることを突きとめる。

東京郊外のスタジオでその日撮影されていたのは、白濱と凛、権田の3人がそんな“高谷さな”が住んでいた、いまは廃墟となっている“呪われた家”を訪ねるシーンだ。スタジオに足を踏み入れると、そのいちばん奥に問題の家のセットが見え、中を覗くと、目の前に瓦礫とゴミや枯れ葉で汚れた2階へとまっすぐ続く階段があり、その前には落下したらしい2階のドアが倒れていた。

実はこのセット、“さな”が両親と暮らす30年前のシーンの撮影でも使用したもの。それを美術部が数日かけて現在の朽ち果てた、異様な空気を感じるものにリノベーションしたのだ。朝8時、段取り開始にあわせてキャストも次々に入ってくるが、綺麗な状態のセットも知っている早見が変わり果てた階段を見るなり「スゴい!」と声をあげ、白濱やマキタも同様におどろいた様子。

傍にいた清水監督も、「このセット、ワクワクするね」と満面の笑顔を見せ、「(GENERATIONSの)小森さんがラジオでレギュラー番組を持っていると聞いたので、そこにあるカセットテープが届いたとしたら?というところが出発点です」と本作の誕生のきっかけを教えてくれる。「送り主の純粋な想いが、邪悪なものに変わっていく感じや、僕が高校生ぐらいの時に騒ぎになった、有名歌手のライブ音源にヘンな声が入っていた…という怪談めいた話をモチーフにすることを思いついて、全体の骨格が見えてきたんです」。

そんな話を聞くなか、段取りが始まった。「お邪魔しますよ。誰もいるわけねぇか?」。恐る恐る家の中に入った権田が、倒れているドアを横にどかし、階段を上りかけたところで白濱が彼の腕を引っ張り、玄関横の汚れた鏡に視線を促す。凛もそれに従い、3人が鏡を食い入るように見たところで、例の“さな”の鼻歌が聴こえてきて、3人も同調するように歌いだす…というのがこのシーンの流れだ。

本作ではタイトルからも分かるように、その“さな”の歌ももう一人の主役。しかも、劇中でGENERATIONSのメンバーも無意識のうちに口ずさむようになるとあって、撮影前に楽曲が完成している必要があったのだが、「僕が提案したのは『ローズマリーの赤ちゃん』の“ローズマリー子守歌”や、『悪魔の棲む家』の冒頭でかかる、子どものメロディのような曲」だと清水監督はいう。「そこから、ハミングで歌う、どこか寂し気で耳に残る歌詞のないメロディを作ってもらったんです」。

段取りが終わったところで、清水監督から白濱に「亜嵐くんは権田さんの腕を飛びつくように引っ張って!」と指示が飛び、「権田さんは階段を上り始める前にみんなの顔を見てください。凛はその時にアザができている首筋をさすって」といった細かい演出が入る。さらに、スタッフにも「玄関のドアが音を立てずに自然に閉まるようにしたい。3人が鏡を見たときに鏡がちゃんと見えるようにして」といった微調整を怠らない。些細なことだが、そのちょっとした動きやディテールの違いだけで、おぞましい空気や恐怖の生々しさが変わってくるのだろう。清水監督のホラーの秘密を知れた気がして、うれしくなってしまった。

そして本番。前記の一連の芝居をカメラのアングルやフレームを変えながら何度も撮っていくが、段取りが完璧だから、どのカットもほぼ1発OKでサクサク進んでいく。

しかも撮影の合間も清水監督が冗談を言ったり、談笑が絶えなかったりと、ホラー映画の撮影現場とは思えないぐらい明るくて楽しい。ホラー好きの白濱が「僕、心霊YouTuberの方と一緒に心霊スポットのロケに行ったことがあるんですよ」と話し、それを早見が身を乗りだして聞いている…なんて姿も、この現場ならではだ。

撮影は続いて、鏡のなかの信じられない出来事を目撃し、声も出ないほど驚いた3人が目の前の現実世界とを何度も見比べながら脅えるくだりへと突入。

カメラが真正面からとらえた鏡を覗き込む3人に、ここでも清水監督が「なるべく動かず、なるべく瞬きなしで。(現場で流す歌の)ワンフレーズ目の終わりから口ずさみ始めて、そこから鏡越しに見る世界の、信じられない“地獄絵図”に目が釘付けになっていく感じです」と声がかかる。

と、速やかに入った本番では30年前の“さな”と両親のやりとりの音声が流れてきた。そう、白濱と早見、マキタの3人はその音声でタイミングを合わせ、鏡の中と目の前の階段上の扉がない“さな”の部屋を見比べながら、なす術もなく、ただただ脅えるのだ。マキタから「鏡のなかと2階を何度もキョロキョロしていいですか?」と確認があり、「いいですよ。凛さんはどうしましょう、足踏みをしている感じだとヘンかな」と清水監督が応えるなど、やりとりが繰り返されながら、一連の動作がカメラに収められていく。

けれど、なにもないところで怖がったり、脅えたりする芝居はそんなに簡単なことではない。「観るのとやるのとでは全然違いますね。ホラー映画は大好きで、いっぱい観てきたのに、怖がるお芝居は本当に難しい」。セットから出てきた白濱から、思わず本音が漏れる。すると、「恐怖シーンはリアクションのほうが大事だったりするんですよ」と清水監督。「ある有名なJホラー作品のラストで、主人公の男性が甲高い声で『ウワ~!』って叫ぶ場面があるんです。それを観た時に、そこまでの緊張感がすべて崩れ、ドン引きして“早く死んでくれ!”と思ったことがあったので(笑)、男性リアクションの時にはそうならない叫び方、怖がり方を僕は心掛けているんです」。

いよいよ、ここからシークエンスのクライマックスへと移っていく。現場に流れる“さな”の歌の調子が乱れ、しゃっくりが止まらなくなり、次第に苦しそうな声になっていく。ところが、異変に気づかない両親は「せ~の!」と勢いをつけて力いっぱいに“なにか”を引っ張り続ける。鏡のなかで行われる光景を見ていた凛がたまらず、「ダメ…そんなの…やめて!」と叫びながら“さな”の部屋目がけて階段を駆け上がり、白濱もあとを追う。ところが、彼の前でさっきまでなかったドアがバンッと閉まってしまい、残された2人は引き攣った顔のまま呆然と立ち尽くすことになるのだ。

準備が進むなか、清水監督から「ドアがもっと勢いよく閉まるようにして!」とオーダーが入ったことから、スタッフは風圧でセットが揺れてしまう問題をクリアするために試行錯誤を重ねていく。結果、本番の仕上がりには「OK!ドアの閉まり方、上手いですね」と清水監督もニッコリ。そののちに続く、“さな”をめぐる最恐のクライマックスに向けて弾みをつける形になった。

その詳細や“さな”の描写は映画本編でご覧いただきたい。ただ、清水監督が語ったメッセージを読めば、『ミンナのウタ』がただ無闇に怖がらせるホラー映画とは違い、現代を生きる若い世代に寄り添う物語であることが分かるはずだ。

「“さな”を善悪のはっきりした存在にしたくなかったんです。彼女は決して周囲に受け入れられないし、この社会が決めた善悪のなかで暮らしていくには、サイコパスとして捉えられてしまうでしょう。他人を傷つけて謝罪の念はありながらも、自分の心の赴くままに突っ走ってしまう。そんな、純粋なままで生き難いであろう、危うい性分と年ごろは13歳から15歳ころではないかと思い、“さな”を中学生の設定にしたんです。“さな”みたいな行動はもちろんとれないけれど、この子の気持ちもちょっと分かるかもって感じてもらえたらうれしいです。少なくとも僕はそういう演出をしています」。

さあ、あなたはGENERATIONSも巻き込んだ“さな”の恐怖と哀しみを受けとめることができるだろうか。映画館を出るころには、きっと“さな”が口ずさむ甘美なメロディをリフレインしているに違いない。

取材・文/イソガイ マサト

話題のホラー、その撮影現場で見たものは…/[c]2023「ミンナのウタ」製作委員会