3週間の中断期間を経て、8月5日から再開した明治安田生命J1リーグ。第21節終了時点で勝ち点39の3位につけていた名古屋グランパスはその間、大幅な戦力入れ替えに踏み切った。

 まず攻撃陣のエース級だったマテウス・カストロサウジアラビアのアル・タアーウンへ移籍。長澤和輝もベガルタ仙台へ赴いた。その傍らで、アカデミー出身の森島司と久保藤次郎をダブル獲得。さらには2022年1月からユトレヒトへレンタル移籍していた前田直輝が復帰し、北海道コンサドーレ札幌からパリ五輪世代の大型FW中島大嘉をレンタルで補強した。

 多種多様なアタッカー陣を揃えた狙いは、もちろん2010年以来のJ1タイトル奪還に他ならない。国立競技場でのJ1最多観客数となる5万7058人が集結した中で行われた5日のアルビレックス新潟戦を見ても、先発FWのキャスパー・ユンカー、シャドウの永井謙佑、和泉竜司に加え、ベンチに前田、中島、酒井宣福、ターレスという豪華FW陣が陣取った。この選手層の厚さこそ、名古屋の本気度を物語っていると言っても過言ではないだろう。

 そんな名古屋だが、長谷川健太監督が「いい雰囲気を作ってくれたことが大きなアドバンテージになった」とコメントした通り、鋭い出足を見せる。開始早々の14分には、右センターバックの藤井陽也から右ウイングバックの野上結貴への縦パスを起点に華麗な崩しを見せる。

 稲垣祥がゴールラインまで侵入して野上からボールを受けると、藤井にリターン。次の瞬間、ペナルティエリアギリギリのところで和泉がキープ。そのままドリブルで切れ込み、マイナスクロスを送った。そこに飛び込んだのが森下龍矢。右足を巧みに合わせて値千金の先制点をゲットした。

 その後、和泉の負傷交代もあって、新潟に押し込まれる展開を強いられる。さらに58分にはユンカーがまさかのPK失敗。この停滞感を払拭すべく、長谷川監督は61分に前田と中島を投入。2トップに据えて攻撃を活性化し、貪欲に追加点を狙いに行ったのだ。

 この直後、2人にいきなりゴールチャンスが訪れる。中盤から上がった浮き球に中島がゴール前で反応。こぼれ球にも前田が食らいつき、シュートを打とうとしたが、惜しくも相手守備陣に阻まれてしまった。

「『ファーストタッチでゴールを決めたろ』と思っていて、本当にチャンスが来た。あそこは『足ごとゴールに入れたる』くらいの気持ちで振ればいけたけど、相手の足の中にボールがあったので決められなかった。でも、ああいう事故を起こせるのが自分の良さ。理不尽なゴールをチームにもたらせるポテンシャルを持っていると思うので、そこをもっともっと磨いていきたいです」と赤髪のFW中島は彼らしい言い回しで自身の存在価値を表現していた。

 2人が絡んだ決定機はもう一つあった。73分に自陣の深い位置で得たFK。河面旺成が蹴ったボールに中島が思い切り競りに行き、こぼれ球に前田が反応。そのまま一気に持ち込んでGKと1対1になったのだ。前田の左足シュートは惜しくも枠を外れたが、泥臭さの中島と速さの前田の融合した形が垣間見えたのは確かだ。

「あのシーン以外、何もやっていないし、あそこで決められなかったらスタートの11人はもちろん、メンバー入りの18人も難しくなってくる世界。もっともっとレベルアップしなければいけない」と前田は反省しきりだったが、中島の方は「直輝さんとはピッチ外でもずっと一緒におるし、コミュニケーションを取ることも多いですし、インテリジェンスが高い選手なのでやりやすい」と前向きにコメントしていた。

 同時期に加入した新戦力コンビは目下、寮で一緒に生活しているといい、お互いの良さを引き出し合う関係性は築けている様子だ。

 前田はユトレヒトでの1年半でケガや海外特有の難しさに直面し、紆余曲折を強いられた。「向こうでバリバリやってましたと胸を張って帰ってきたわけではないから、何とも言えないけど、失ったものばかりではなかった。オランダで何が変化したかを僕が今、口にしても皆さんが感じないと思うから、『こいつ成長したな』と思ってもらえるように、試合で見せていけたら」と本人も謙虚な物言いを見せていた。

 だが、身近にいる中島はそういった紆余曲折を直々に伝えられているはず。だからこそ、あえて名古屋で厳しい競争に参戦し、結果を出そうと躍起になっているのだ。

「競争があるのは札幌にいても、名古屋に来ても一緒。優勝を目指しているこのチームでチャレンジしたいと思った。直輝さんもそうですけど、謙佑さんもすごくうまいし、もっと合わせていけば自分もゴールを量産できるようになるかもしれない。そう思って頑張ります」

 新潟には1-0という辛勝だったが、確実に勝ち切るというタスクを2人は遂行した。再開初戦を経て、自らのストロングをチームに注入する作業をさらに進めていくことになる。長谷川監督がどう使いこなすかにもよるが、攻撃バリエーション増の有効なカードになるのは間違いないだろう。前田と中島の加入効果が13年ぶりのJ1制覇につながれば理想的だ。

取材・文=元川悦子

今夏の補強となった前田(左)と中島(右) [写真]=J.LEAGUE