離婚は寄り添ったパートナーとの別れで寂しさもある一方、人生の再スタートでもあります。うまく対応することで、より良い人生の第二章を歩むことも可能です。だからこそ、慎重に、綿密に策を講じることが肝要です。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービスによせられた質問をもとに、離婚時における「修羅場」への的確な対応について、杉本真樹弁護士に解説していただきました。

浮気疑惑の夫からまさかの離婚通告…茫然自失の妻

相談者は、宿泊勤務に従事する30歳の既婚女性。小学生と未就学児の2人の子どもがいます。

夫婦関係は円満でしたが、数ヵ月ほど前から相談者の泊まり勤務の日に、ご主人が深夜に頻繁に数時間の外出をしていることに気付きました。

なんとなく気になり、夫のスマートフォンの位置情報で動向を調べたところ、相談者の泊まり勤務の日はほぼ(週に3回程度)決まって、自宅からほど遠くないマンションに数時間滞在していることが判明したのです。

ご主人のスマートフォンからはさらに、半年ほど前から出会い系サイトで「浮気相手募集」の名目で相手を募り、メッセンジャーアプリで不倫相手と思しき女性とのやりとりの記録なども出てきました。

いまのところ相手の素性などはまだ判明しておらず、既婚者なのか独身なのかも分からない状況です。相談者はさらに裏付けを取るべく探偵事務所に依頼し、調査を進めています。

相談者にとって許しがたいのは、自身が泊まり勤務で子育てに不安があるなか、ご主人が日勤だから安心して子どもを任せられていたにもかかわらず、実際には小さい子どもを置き去りにして深夜に家を空けていたことです。

相談者にとっては完全な裏切り行為。そんなご主人を到底許すことはできず、すでに離婚する決意も固めています。

ところが、事態は思わぬ方向へ展開します。

調査を開始して半月ほど経ったある日、あろうことか夫の方から別れ話を持ちかけられたのです。

ご主人の言い分は、「家から出て行け!」という信じがたいもの。ご主人の不倫について探偵を雇い、調査を進めている事がバレて、逆上した可能性もありますが、相談者は「気づいていないはず」とのこと。

それでもご主人の主張は日に日にエスカレートし、「なぜ出て行く準備をしてないんだ!」「今からお前の荷物を放り出してやろうか」などついには暴言で脅すようになってきたそうです。

相談者は無視を徹底していたのですが「無視してればいいってもんじゃない!」と、語気を荒げ、出て行くことを強要するほどに。降りかかる火の粉に相談者は、「あなたは出て行けと言える立場じゃ無い! 有責配偶者だ」と喉元まで出かかりましたが、グッと堪えていました。

ところが、最近になって宿泊勤務中の相談者にご主人からLINEが届きます。

「なぜまだ荷物をまとめていない。本当にもう帰ってくるな!」と最後通告のように書き殴られていたそうです。

まさかの状況に相談者は、すがるようにココナラ法律相談「法律Q&A」に次の3点について相談しました。

(1)有責配偶者からの離婚請求により離婚する場合、共有財産の分与を放棄させることも可能と思われます。夫婦での貯金など、どちらがいくら出したかは不明瞭な状態でも放棄させられるのでしょうか。

(2)慰謝料は夫と不倫相手の双方に対し請求しようと考えています。慰謝料請求をしたことで夫が離婚請求を取り下げた後、私が夫に対し離婚請求を行った場合、共有の財産分与の放棄を要求する事は可能ですか?

(3)探偵事務所からの調査報告書が上がった後、どういう方針・タイミング・順序で慰謝料請求や離婚手続きを行うのが最善なのでしょうか。

今回のような相談内容の論点

ご離婚の問題は、複数の論点が重なり、混乱されるご相談者様も少なくありません。今回のように、夫が離婚したいと考える理由を知っている場合には、感情的なところも相まって冷静に考えることは難しいと考えられます。

今回のご相談内容は、次のように整理できます。

(1)財産分与にあたり、配偶者の財産に不明瞭な部分がある場合の対応

(2)有責配偶者の財産分与における分与の割合の考え方

(3)(不貞)慰謝料請求の伴う離婚にあたっての段取りなど進め方

離婚の際の財産分与や慰謝料請求

1.財産分与にあたり、配偶者の財産に不明瞭な部分がある場合の対応について

(1)まず、財産分与について確認し、不明瞭な場合の対応について解説します。

財産分与とは、簡潔に言えば、ご離婚あたって、夫婦生活をしていくにあたって共有となっていた財産を清算してそれぞれに分けることです。

財産分与を検討するにあたっては、夫婦共有財産がどの程度あるのか、分与するにあたって割合をどうするのかが論点となります。夫婦共有財産がどの程度あるのか、については、基準時と評価額、財産についての各資料が問題となります。

(2)基準時については、別居を伴う場合には、別居開始時点と考えることが多いです。

本件では、夫の抵抗に耐えかねて別居となった場合には、その時点を基準とすることとなると考えられます。

(3)評価額については、夫婦で共通認識が取れればよいですが、取れない場合には、根拠資料が必要になります。

例えば、ご自宅が持ち家の場合、固定資産税評価証明書から評価額、住宅ローンがある場合には金融機関の債務残額の分かる資料が必要となります。

本件でも、夫の財産を調査するにあたり、せめてとっかかりとなるような情報についてはご相談者において把握しておきたいところです。

(4)財産資料について、配偶者が開示しない場合には、あると主張する側において調査する必要があります。

別居を開始しており、配偶者の財産がない事案で、かつ配偶者が財産資料を開示しない場合には、配偶者の財産を把握することが非常に困難になるケースが少なくありません。

本件でも、夫の財産を調査するにあたり、せめてとっかかりとなるような資料についてはご相談者において取得しておきたいところです。

2.有責配偶者の財産分与における割合の考え方について

(1)財産分与の割合について、2分の1ずつが基本的な考え方となります。それは、財産分与が離婚の場面での夫婦共有財産の清算のための制度となるためです。

離婚についての有責性は、財産分与ではなく、慰謝料の金額の中で考慮されるべき事情となります。そのため、本件でも2分の1ずつとすることが基本的な考え方となります。

(2)もっとも、財産分与については、大きく分けると3種類に分けて考えることができます。①清算的財産分与、②扶養的財産分与、③慰謝料的財産分与です。

このうち、③慰謝料的財産分与の観点で考慮することもあり得ますので、この場合には、先の2分の1ずつを傾けるための事情として主張することも考えられます。

本件でも同様に、慰謝料的財産分与として配偶者の不貞の事情を考慮する場合には、2分の1ずつの考え方を傾けることはあり得ますが、放棄の主張までを通すことは少々ハードルが高くなります。

(3)また、2分の1ずつという基本的な考え方は、夫婦で話し合いをする中で傾けることは可能です。

本件でも、配偶者が自身の有責性を認め、財産分与の中で考慮する場合には、2分の1ずつの考え方を傾けることが可能となります。

3.(不貞)慰謝料請求の伴う離婚にあたっての段取りなど進め方について

(1)探偵事務所の調査報告書の内容次第になります。当該調査報告書の内容が、証拠としてご相談者に有利な場合には、これをもって不貞の事実の根拠として慰謝料請求することを検討することとなります。

証拠として有利なものかどうかは、裁判例の基本的な考え方からすると、配偶者と不貞相手において性行為があったことを推測させる程度によることとなります。

本件でも、調査報告書の内容がご相談者に有利な場合には、不貞についての慰謝料請求を検討することとなります。

(2)そのうえで、配偶者が話し合いに応じる態度の度合いによって段取りが変わります。

まず、配偶者が柔軟に話し合いに応じる態度を示している場合には、夫婦間での離婚についてのお話合いを打診することも考えられます。この場合にも下記のように話し合いが順調に進まない場合も念頭に置いておく必要はあります。

他方、配偶者が話し合いに応じる態度を全く示さない場合には、最終的には証拠を持って請求することができるよう段取りを組む必要があります。

例えば、先のように財産に関わる資料が全くない場合、不貞の事実に関わる資料が全くない場合などには、証拠資料の収集と配偶者と同居し続けることによる精神的ストレスなどとのバランスを考えながら、進める必要があります。本件では、夫から出ていけと日々言われている状況ですので、ご相談者の精神的なストレスは非常に大きいものと考えられます。

他方、手元にある財産や不貞の事実に関わる資料とのバランスを見ながら、別居に応じるのかなどを検討していくこととなると考えられます。

また、不貞慰謝料についての夫の考えを知ってから進めたいと考える場合には、まずは当該慰謝料の請求から開始することも考えられます。

このような判断は、お一人で考えることは困難と思われますので、専門家にご相談しつつ一緒に検討する方法がよろしいと考えられます。

(3)そのほか生活費としての婚姻費用について、配偶者から支払われない場合には、配偶者に対し早めに請求する必要があるなど、ご状況に応じて対応するべき事項があります。

(4)なお、証拠の内容によりますが、本件で配偶者の不貞の事実を認められるだけの証拠があり、配偶者の有責性が認められる場合には、配偶者からの離婚請求は、有責配偶者からの離婚請求として認められないこととなります。

最後に

このように、ご離婚に際しては、複数の取り決めるべきこと、話し合うべきことが複雑に絡み合い、夫婦間の協議では、整理が難航することが少なくありません。

また、ご離婚のことは、なかなか人に相談することに抵抗を感じることもありますので、最初の状況整理だけでもお近くの専門家にご相談されることをお勧めします。

(※写真はイメージです/PIXTA)