2010年6月8日日経新聞で「日光東照宮など5億円申告漏れ、3法人に国税指摘」という記事がでました。「5年間で約5億円の申告漏れ」「追徴税額は1億円余」との報道は大きな反響を呼びました。ただ、この報道には違和感を感じると『税理士の坊さんが書いた宗教法人の税務と会計入門』(国書刊行会)著者の上田二郎氏はいいます。“元マルサの僧侶”という異色の経歴を持つ上田氏が、宗教法人の税務調査に対するマスコミ報道の実態と、そこに見え隠れする“マスコミの悪意”を暴きます。

宗教法人の税務調査に対するマスコミ報道

日光東照宮など5億円の申告漏れ――国税指摘

世界遺産に登録されている日光東照宮栃木県日光市)などを運営する3宗教法人が関東信越国税局の税務調査を受け、2009年までの5年間で計約5億円の申告漏れを指摘されたことがわかった。過少申告加算税を含む追徴税額は1億円余という。

申告漏れを指摘されたのは、いずれも日光市にある東照宮と二荒山神社、輪王寺の3宗教法人

宗教法人は、お布施など公益事業による収入は原則非課税である一方、駐車場経営や物品販売などの収益事業による収入は申告する必要がある。しかし、3法人は、駐車場経営による売り上げなどを公益事業として計上し申告せず、このうち輪王寺は数珠や線香などの物品販売も公益事業として処理していたという。

この報道に疑問を抱くのは私だけでしょうか? 表題では「日光東照宮など5億円の申告漏れ」と報じています。

東照宮も二荒山神社も輪王寺も別々の宗教法人ではないのでしょうか? 別々の法人なら、なぜ「3社で5億円の申告漏れ」と報じなければならないのでしょうか? 理由は明快です。「5億円の申告漏れ」という大きな見出しが欲しいだけです。

実際に、この報道の反響でも明らかなように、ネット上には宗教法人に対する課税強化を求める声が溢れています。

税務調査は基本的には外部の者には伝わらないはずです。国税関係の記事は、国税当局から国税担当記者へ発表されます。それでは国税当局が「3社で5億円の申告漏れ」と発表したのでしょうか?

国税に勤務した者として、その可能性は非常に低いと思っています。なぜなら国税当局は、国税担当記者から「沈黙の艦隊」と呼ばれているように、非常に口が堅く、慎重な発表が多いからです。

ある地域の宗教法人全体の調査結果として、追徴税額がどれだけあったとの報道ではなく、近くにある3宗教法人の結果だけをまとめて追徴税額がいくらあったといった報道には、不自然さを感じざるを得ません。

報道内容に見え隠れする“マスコミの悪意”

例えば、この記事を芸能界に当てはめたとします。ある芸能プロダクションの芸能人Aさん、Bさん、Cさんを調査したら、5億円の申告漏れがみつかったという記事になります。

Aさん、Bさん、Cさんの各々の脱税額はわからず、3人合計で5億円という内容の記事です。このとき、Aさん、Bさん、Cさんが所属するプロダクションは、どういう反応をするでしょうか?

また、「3法人は、駐車場経営による売り上げなどを公益事業として計上し申告せず、このうち輪王寺は数珠や線香などの物品販売も公益事業として処理していた」という報道についても、疑問を感じざるを得ません。

記事を読んだ大多数の人は、3宗教法人が駐車場収入(駐車場業)や数珠や線香などの物品販売(物品販売業)の売上を除外していたように思うのではないでしょうか。

税務調査に携わってきた者なら、法人の課税処理が5年分で終了し、加算税が過少申告加算税であった点から、悪質な脱税ではなかったと判断できます。

もちろん調査の詳細を知る立場にないので私の推測になりますが、3宗教法人は、駐車場収入や物品販売を正しく管理し、帳簿に収入として記帳していたはずです。ただ、宗教法人の区分経理を誤り、駐車場収入や物品販売収入を非収益事業の帳簿に記載していた結果、「この収入は収益事業だ」と指摘されたのではないでしょうか?

収益・非収益の事業区分は、専門家の税理士でも難しい作業です。ロウソクやお守りは同じ物品でも、販売形態によって収益になったり非収益になったりします。

駐車場の経営も、宗教法人が実際に管理運営していた場合は、駐車場収入として収益事業に計上しなければならないことは当然ですが、寺社周辺の土地を一括で貸付け、他人が駐車場として使っていた場合にも収益事業になります。

私は3宗教法人の駐車場収入の申告漏れは、古くから周辺住民に農地などとして貸付けていた土地を住民が駐車場に転用したため、収益事業と指摘されたのではないか、と想定しています。

過少申告加算税は、経理のうっかりミスなどに適用されるペナルティです。果たして、3宗教法人の調査結果が単なる区分経理の誤りだった場合、マスコミ報道に悪意を感じざるを得ません。

上田 二郎

僧侶/税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)