先日、イーロン・マスク氏がTwitterの名前を「X」と改称し、さらに青い鳥アイコンも黒地のXに変更して、大きな話題と困惑を呼びました。

マスク氏は自社のスペースXテスラのモデルXなど、かなり「X」がお好きなようですが、私たちは他にも日常の至るところで「X」の文字を見かけます。

X-MENXファイル、Xファクターのように、たいていは「未知なるもの」の意でXが使われています。

では、数ある文字の中でなぜ「X」がこの役割に選ばれたのでしょうか。

「X=未知」の慣習はいつ、どのようにして始まったのでしょう?

目次

  • 古代文明で「未知なるもの」はどう表現された?
  • 最初に「未知数=X」と使った人物とは?

古代文明で「未知なるもの」はどう表現された?

未知なるもの「X」の起源を知るには、数学の歴史を追うのが一番です。

私たちが学生時代に習った代数学(未知数を文字に置き換えて方程式を解く学問)では、xを未知なる数字として使うルールがあります。

このルールがどう始まったのかが分かれば、「X=未知なるもの」となった謎が明らかになるかもしれません。

専門家によると、多くの古代文明ではすでに秀才たちによって代数学が発明されていました。

しかし、まだ未知数を「x」と表記する習慣はありません。

例えば、古代エジプトでは、代数の未知なる量を示すために「aha」 と呼ばれる文字(ヒエログリフ)が使われていたそうです。

ahaには「質量」や「固まり」といった意味があり、具体的には「ahaにahaの1/7を加えた値が19であるときのahaの値はなにか?」のように使ったという。

「aha」が使われているRhindパピルス
Credit: en.wikipedia

この頃は他の文明でも未知数を短い単語で表すことが多かったですが、次第に省略記号を使う習慣が現れてきます。

3世紀の数学者アレクサンドリアのディオファントスは、未知の数を「arithmos」 と呼び、実際の数式の中では「s」に似た古代ギリシア文字を使いました。

それからインドの大数学者ブラフマグプタ(598〜665年頃)は、未知数に色の名前を振って、その最初の音節を数式に用いています。

例えば、kâlaka(黒) からkâ、yavat tava(黄色)からya、nilaka(青)からniなどです。

つまり、未知数を何らかの記号で表す習慣は古代からあったわけですが、それではこれが「x」になったのはいつ頃だったのでしょう?

最初に「未知数=X」と使った人物とは?

現在の有力な仮説によると、最初に「未知数=x」となったきっかけはイスラムの数学にあるという。

この説では、未知数に使われたアラビア語の単語が「何か(something)」 を意味するal-shayunであり、それが最初の 「sh」 音の記号に短縮されたと言われています。

そしてスペインの学者がアラビア語の数学を自国に輸入するために翻訳していた際、「sh」の音を表す文字がなかったため、代わりに「k」の音を選び、これをギリシア文字の「χ(カイ)」で表しました。

このχが後にラテン語が作られたときの「x」になり、「未知数=x」となったというのです。

しかし数学史に詳しい専門家は、この仮説には裏づけとなる文書がなく、あくまで推測の域を出ないと話します。

また未知数としてのxは中世の数学で散発的には使用されていたようですが、これまでのところ一貫した使用記録はありません。

それゆえ、xはこの時点で誕生したかもしれませんが、数学上のルールとしてはいまだ定まっていなかったわけです。

ルネ・デカルト
Credit: ja.wikipedia

ところが、現代のような「未知数=x」の使われ方が定着したきっかけは明瞭に分かっています。

それはフランスの哲学者で数学者でもあったルネ・デカルト(1596〜1650)によるものです。

デカルト1637年の主著『方法序説』において、不特定の定数についてはアルファベットの最初の小文字(a、b、c)を、変数については最後の小文字(x、y、z)を使う表記を確立しました。

さらにデカルト数式の中の未知数にyとzではなく「x」を積極的に使ったのですが、それはフランス語にxを使う単語が少なく、印刷所にxの植字が大量に余っていたからだと言われています。

その真偽はどうであれ、デカルト以降、「未知数=x」の表記ルールが世界的なスタンダードになったのです。

数学を超えて、未知なるもの「X」へ

その後、Xは数学の範囲を超えて、「未知なるもの」を指し示すための記号としても使われるようになりました。

最初に挙げたX-MENXファイル、Xファクターのように、フィクション作品やテレビ番組への影響も著しいですが、科学的な例を挙げると「X線」が有名ですね。

X線は1895年にドイツ物理学ヴェルヘルム・レントゲンによって発見されましたが、その光が「目に見えない不可思議な存在」であることから「X」の名が与えられました。

ヴィルヘルム・レントゲン
Credit: ja.wikipedia

今日では「未知なるもの=X」がすっかり定着し、日常的に「謎の物体X」とか「超大物X」なんていう表現をよく見かけます。

こうした使い方ができるのは、デカルトの仕事によるところが大きいのかもしれません。

Twitterが消え「X」になった理由とは?

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参考文献

X marks the unknown in algebra – but X’s origins are a math mystery https://theconversation.com/x-marks-the-unknown-in-algebra-but-xs-origins-are-a-math-mystery-210440
いかに人類は「未知なるもの=X」と表現するようになったのか?