売れている商品でも、仕入れ値・時間のかかるものは利益に繋がりません。そのうえ不良品を生んでしまう原因になり、お客様にも迷惑がかかります。企業の経営者や個人事業主向けに、経営の一方策として「捨てる」ことの重要性を問う本連載。組織変革プロデューサー・小早祥一郎氏著書の『8割を捨てて2割に集中する 捨てる経営 (捨てると会社の本質が見えてくる→どうすれば儲かるのかわかる!)』(スタンダーズ)より、一部抜粋して紹介します。本稿では、儲からない商品を捨てるメリットについて、実際にあった事例を交えて解説します。

儲からない商品を捨てる  売上=利益ではない

儲からない商品は人を幸せにしない

世の中にあるさまざまな製品やサービスの中で、儲からない商品、つまり、やれどもやれども報われない商品というのは、あってはならないと考えます。特に、値段の安さを前面に出した商品や、品数の多さを強調した商品は、要注意です。それで適正な利益が出ていれば問題はありませんが、そうではない場合、どこかに無理が生じます。お客様は喜んでくれても、提供する側が疲弊してしまいます。

いや、実は適正な利益が得られない商品は、お客様にも迷惑をかけるのです。無理を生 じた分だけ、それが商品の不良や手抜きとなって現れるからです。

「売上」の持つ魔力

それでも、世の中から儲からない商品がなくならない要因のひとつは、「売上」というものが持つ魔力なのではなかろうか、と思っています。

どんな商品でも、それが売れれば「売上」が立ちます。その金額が大きければ大きいほど、それを失うことが怖くなります。しかし、ご承知のとおり、売上=利益ではありません。いくら売上金額が大きくても、仕入値が大きければ儲かりませんし、売上金額に比して、手間暇がかかりすぎるようなものも、儲かりません。

ならば、仕入原価や労務費を抑えればいいわけですが、それには限界があります。それが限度を超えると、不良や手抜きの原因となります。

結局、商品構成そのものを、高品質で高価格、高利益(高付加価値)なものに切り替えていくしかないのです。そのためには、まず、売上に対する執着を捨て、自社の商品構成の中で、儲からない商品を「捨てる」ことです。

低付加価値商品を捨てた会社の事例

残業時間が減り年間休日が増えた

F社は、加工業です。業績は悪くなかったのですが、悩みは、忙しくて時間的な余裕がないことでした。そして、長時間働くわりには、思ったほどには儲からない、ということでした。

原因は、低単価商品の受注割合が多いことでした。現状把握をしてみると、だいたい低単価商品6に対して、中単価商品が3、高単価商品1くらいの割合だったのです。そこで、低単価商品をゼロにし、中単価商品と高単価商品だけにしようという目標を立てたのです。

幸いにも同社には、他社にない高度な独自技術があり、取引先にも評価されていました。同社は、勇気をもって、少しずつ低単価商品の注文を断り、そのぶんだけ中単価商品や高単価商品の受注を増やしていきました。現在では、中単価商品と高単価商品が大半を占める商品構成になっています。

結果、残業時間が減り、休日出勤をすることもなくなりました。年間トータルの稼働時間が減ったにも関わらず、利益は伸ばすことができました。

メニューにない注文を断る

H社は仕出し弁当を手掛けています。整理・整頓の活動を進める中で、倉庫に山積みされた容器が問題となり、容器を統合できないか、という話になりました。さらに、容器の統合だけでなく、メニューの数が多すぎるのではないか、という意見も出てきました。

ところが、話を進める中で、そもそも、メニューに載っていない注文も受け付けている、ということがわかってきました。しかも追加料金なしで、です。お客様のご要望に沿うように、と言えば聞こえはいいですが、その代償として、現場の作業員の負担が大きくなり、勤務時間が増えるだけでなく、ミスや配達遅れなどが頻発して、お客様に迷惑をかけているのです。

改善の第一歩として、まずはメニューにない注文を断ろう、ということになりました。勇気をもって、メニュー外の注文を断る代わりに、メニューに載せてある商品については、品質を上げて、ミスをなくし、自信を持ってご提供できるようにしよう、ということになりました。

「捨てる」のが先

こうした商品構成の見直しの際に、多くの経営者が「高付加価値商品が育ってきたら、低付加価値商品を捨てよう」と考えます。しかし、そううまくはいきません。なぜなら、これまで低付加価値商品に注ぎ込んできた経営資源(人・物・金)を割くことなく、高付加価値商品を育てることは不可能だからです。高付加価値商品を育てるには、そこに経営資源(人・物・金)を投入しなければなりません。

だからまず、低付加価値商品を捨てるのが先なのです。これまで低付加価値商品で作ってきた売上を失うのは、とても怖いことです。しかし、「捨てれば得られる」のです。

〈まとめ〉

儲からない商品を捨てて、自信を持って提供できる高付加価値商品にシフトすれば、品質は向上し、社員の満足度は上がる。

※画像はイメージです/PIXTA