北朝鮮は、2021年から射程1500~1800キロの地上発射巡航ミサイルを、2022年3月には潜水艦発射巡航ミサイル(射程同じ)、そして、2023年3月には射程1000キロの大型魚雷の実験を行っている。

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 祖国解放70周年パレードには、これらのミサイルのほかに、新型の極超音速滑空体や大型の無人偵察機、および無人攻撃機を登場させた。

 登場した無人機はこれまでのものと異なり、大型で米国製に酷似している。

 なぜ、これらの兵器を開発するのか、米国製に酷似しているのか。

 北朝鮮はこれまで、弾道ミサイルの開発に専念してきた。

 短距離、中距離、ICBMの実験を成功させた。短距離ミサイルは、低高度で軌道を変化させることも可能になった。

 極超音速滑空体も2タイプ実験し、まだ成功しているとまでは言えないが、確実に進化している。

 これらは、米国本土・米国の島嶼・韓国・日本の領土の戦略基地(地上目標)に向けて、攻撃をするものだ。

 だが、これだけだと2000キロ離れた洋上から北朝鮮に向けて攻撃可能な米軍・韓国軍の空母、イージス艦潜水艦および爆撃機からの巡航ミサイル攻撃に対しては、何も手出しができず、やられっぱなしになる。

 これら米空母とイージス艦には、せめて一撃を与えたいと考えているのだろう。

 北朝鮮が考えている対米海軍戦略を解明するために、最近になって実験を行っている兵器や7月の軍事パレードに出現した兵器、特に各長射程兵器とこれに繋がる兵器の特色や狙い、そしてこれらを総合的に考察したい。

1.2000キロ巡航ミサイルの攻撃目標

 北朝鮮は、2021年から地上発射の長距離巡航ミサイルの発射実験を行っている。

 2023年3月、潜水艦発射戦略巡航ミサイル「ファサル(矢)Ⅰ・Ⅱ型」を潜水艦から発射した。

 それぞれ射程は1500~1800キロで、2から2.5時間飛翔したという。

 機能面では、米軍の「BGM-109トマホーク」(射程1500~2500キロ)、中国軍の「DH-10」(東海10)(射程2000キロ)、ロシアの「3M-54カリブル」(射程:2000~2500キロ)に類似している。

「ファサルⅠ・Ⅱ」と見られる巡航ミサイル

(図が正しく表示されない場合にはオリジナルサイトでお読みください)

 日本国内の軍事目標までであれば、射程が1300キロもあれば十分だ。なぜ、1500キロ以上の射程を必要としているのか。

 これまで、巡航ミサイルは地上の固定目標が対象であった。

 したがって、米海軍艦艇や自衛隊艦艇が日本列島太平洋側に位置していれば、潜水艦によるミサイル攻撃を除き攻撃されることがなく安全だと考えられていた。

 しかし、米欧の技術やウクライナ軍の実証からすると、移動する艦艇を目標とすることが可能になりつつある。

 近い将来、北朝鮮のミサイルが対艦艇能力を備えれば、日本列島より太平洋側の米日軍艦艇を、射程的に攻撃できるようになる。

長射程巡航ミサイルの運用例と海上目標の射撃範囲予想

2.極超音速滑空体から対艦弾道ミサイルへ

 北朝鮮グライダー形の極超音速滑空体は、2021年9月に実験を行い「火星8号」と称していた。

 韓国軍当局によると、飛翔距離200キロ足らず、高度30キロ程度、飛翔速度マッハ3としている。

 韓国軍はレーダーで監視しているので、この数値は正しいと認めてよい。

 そうであれば、極超音速滑空体グライダー形の開発は進めているが、まだ滑空体としての数値に達成していないことから、成功はしていないと評価される。

「火星12号B」は、2023年7月の軍事パレードに登場し、武装装備展示会でも展示された。その説明書には、「火星12号B」とあった。

 火星12号に、極超音速滑空体を搭載したものをB型と呼称していると考えられる。

 北朝鮮が同ミサイルをパレード等に登場させたのは、極超音速滑空体のグライダー形の開発に成功、あるいは、近い将来には実験に成功することを示したかったのだろう。

火星12号B

中国DF-17極超音速滑空体

 この滑空体は、中国の「DF-17」(射程1800~2500キロ)という極超音速滑空体を搭載したミサイルに似ている。

 羽の広がりを取れば、ほとんどそっくりだ。北朝鮮は、中国のこのミサイルの性能・特性を持った滑空体を保有したいのだろう。

 中国では、極超音速滑空体と対艦ミサイルは、性能と機能の面でかなり近いものだ。

 中国は、滑空体のほかに「DF-21D」(射程1700~3000キロ)という対艦弾道ミサイルを保有している。

 米国の空母を狙って攻撃できるというミサイルだ。まだ、実験しているものの移動目標に命中できいないという意見も多数ある。

 北朝鮮は、滑空体の実験を繰り返すと共に対艦弾道ミサイルは実験レベルにも至ってないが、開発は進めているだろう。今後、飛翔実験が行われると予想される。

 すなわち、火星12号Bの開発と併せて、米空母を狙って撃てる対艦弾道ミサイルの開発を進めていると見て良いだろう。

 現段階までは、米空母からの攻撃には、何も対処できない状態である。

3.大型魚雷と無人攻撃挺の開発

 北朝鮮は、2023年3月と4月に核無人水中攻撃挺「ヘイル(津波)1・2」の実験を行った。実験では約1000キロ移動ができたという。

 北朝鮮が保有する潜水艦ではこの大型魚雷を発射できない。おそらく、水中発射弾道ミサイル北極星3号」の実験に発射台として使用した実験用浮き桟橋を同じく使用した可能性がある。

 今回のパレードに登場したのは、形状や配色からヘイル2型である。

パレードでの艇(左)と実験中の艇(右)

 ロシア海軍には、2022年7月に就航した弾道ミサイル潜水艦「ベルゴルド」に「核魚雷ポセイドン」が搭載されるという情報がある。

「ニューズウィーク」(2023/2/8)などの報道によれば、軍事専門家の見解として、「沿岸の都市や海軍基地を破壊し、空母のような主要な水上戦闘艦を標的にすることができる」というものだ。

 北朝鮮日本海側から発射すれば、日本海側の海上自衛隊基地を攻撃できる。核を搭載すれば、主要な都市を核攻撃できるということになる。

ヘイルの運用例

自爆型無人艇の運用予想

 北朝鮮は、多くの攻撃手段を持つことによって、米・韓・日の対処を難しくすることができる。私は、この兵器がユニークな兵器であると考える。

 だが、潜水艦や艦艇から発射できない魚雷が現実的かどうか疑問がある。また、私はこの戦略が飛躍しすぎているとも思う。

 現在、ウクライナでの戦争では、ウクライナが自爆型無人艇を使ってクリミア大橋や大型揚陸艦の一部を破壊した。

 無人艇の誘導はGPS誘導だが、さらにカメラを付けて、その映像を見ながら誘導し、命中させている。

 北朝鮮は、無人水中攻撃挺ヘイルにカメラを取り付けて、ウクライナの無人艇と同じ誘導が可能なように改造することもあるだろう。

 現実的には、北朝鮮は半潜水艇・小型潜水艦を多数保有している。これらを、ウクライナの自爆型無人艇のように改造すれば、米・韓・日の大型艦艇にとって重大な脅威になる。

 ただ、長距離移動が可能な自爆型無人艇を映像を見ながら誘導するには、それを送受信する通信衛星、艇を誘導する測位衛星の支援が必要だ。

4.米国製に酷似の無人機登場

 北朝鮮はパレードに、米軍の「MQ-9リーパー」(滞空時間:14~28時間)無人攻撃機と「MQ-4グローバルホーク」(滞空時間:36時間)無人偵察機に酷似の兵器を登場させた。

 グローバルホークに酷似の無人機は、パレード上空を飛行して登場した。このほかに、ロシアセルゲイ・ショイグ国防相が見学した「武装装備展示会2023」にも展示してあった。

パレードに登場(左)した無人機と飛行の動画(右)

武装装備展示会2023に展示されたもの

 米国製と北朝鮮製の概観は酷似しており、さらに、国章や空軍の文字の表示の位置もほぼ同じ位置だ。

 北朝鮮は、両機とも実際に飛行している動画を公開しているので、飛行は可能であり、張りぼて(モックアップ)ではない。

 実際に、米軍機と同様の能力が「ある」のかとなると、北朝鮮が闇で導入したのであれば、またGPS誘導をロシアか中国に変更すれば、「ある」可能性が高い。

 独自に製造したのであれば、能力はかなり低いとみてよいだろう。

 グローバルホークに酷似の無人機の表面の金属板を比較すると、材質や光沢に違いがある。

 展示会に展示されたグローバルホーク酷似の無人機は、表面に小さな凹凸があり、米国製のものは、光沢があって凹凸がない。

 これらのことから、米国製無人機に酷似の無人機は、北朝鮮の自国製とみてよいだろう。

5.米国製に酷似した無人機の能力と運用目的

 北朝鮮製は、米国製と同じ能力があるのか。

 北朝鮮無人機が、2014年と2017年頃に韓国で墜落したことがあったが、小型で米欧のものに比べると、かなり時代遅れのものであった。

 それから5年以上が経ち、今回の米国製に酷似したものが登場した。

 米国製の大型の無人機には、映像を送受信する通信衛星と、GPS誘導と映像を見ながら誘導するための測位衛星が使われる。

 北朝鮮は、これらの衛星を保有していない。中国やロシアの衛星を使用すればできる。

 とはいえ、映像を見ながら無人攻撃機を目標まで誘導し、攻撃することは不可能であろう。

 しかし、大型の無人機を飛行させられることや、遠隔操縦で射撃が可能になったことは、各種性能に問題があるとしても、かなり進化しているといえる。

北朝鮮無人機

6.米国製酷似無人機の狙い

 北朝鮮が今回登場させた無人機は、なぜ米国製に酷似させているのか、そして大型なのか。

 現段階では、米国製酷似の無人機は米国製のものと同等ではない。だが、近い将来、ロシアと中国の衛星の支援が得られるということが前提ではあるが、映像を見つつ詳細な誘導や射撃ができるようになるだろう。

 米国製に酷似していることの利点は何か。

 それは、米・韓・日が軍事作戦する範囲を飛行していても、同盟国の無人機と形が似ていると、低空飛行であれば、北朝鮮無人機だと思われない可能性があるということだ。

 敵機の発見が遅れる可能性がある。

 とはいえ、米・韓・日の軍艦が、レーダー連動して機能する敵味方識別装置を使用して、その無人機を調べれば、瞬時に同盟国のものか、国籍不明機なのかを識別できる。

 このことから、この運用の成功の可能性は低い。だが、まれに、空母に命中させることができるかもしれない。

 なぜ、大型なのか。なぜ、米国製のように、20~30時間の滞空時間が必要なのか。

 その時間であれば、長距離巡航ミサイルや対艦弾道ミサイル(将来できれば)の攻撃目標を、約2000キロ範囲内を探知できることになる。

 日本を超えて、太平洋側まで探知が可能になるだろう。

将来の北朝鮮大型無人機の運用範囲

7.長距離ミサイルと大型無人機の戦略的運用

 今回列挙した兵器を使う軍事戦略はどのようなものになるのか。

 北朝鮮は、これまでは南進すれば韓国軍に勝利できる兵器、米国本土等に直接打撃できる弾道ミサイルを保有することを重点に兵器を整備してきた。

 ICBM(大陸間弾道ミサイル)のレベルアップもこれらの延長線上にある。

 だが、北朝鮮軍は、日本の太平洋側から攻撃してくる米海軍等艦艇からの攻撃、空軍機からの攻撃に対しては、対処する能力が全くないのが現状である。

 これらの欠陥にどのように対応するかが、これまでの最大の課題であった。

 このため、約2000キロ範囲内の米軍、特に海軍の行動を自由にはさせず、妨害し、空母などの接近を阻止する兵器を備える構想を持っていると考える。

 これは、新たに始めたもので、まだ完成してはいないようだ。

 新たな兵器の登場を見ていると、1つや2つだけでは、目的が不明であったが、いくつかの兵器の性能・特性を分析してみると、北朝鮮から約2000キロまでの範囲の米・韓・日海軍の大型艦艇を狙って撃破することを考えているといえる。

 この戦略は、全く新しいものではなく、中国の「A2(Anti-Access接近阻止)/AD(Area-Denial領域拒否)」(注)という中国軍事戦略の領域拒否ADの考えに近いようだ。

注:A2/ADとは、A2は日本の南西諸島や台湾を含めた第1列島線内に主に米海軍を進入させないこと、ADは日本からグアムなどからなる第2列島線から第1列島線までは、主に米海軍の活動を阻害する(自由に行動させない)戦略である。

 北朝鮮は、現段階では中国のように大規模にA2/AD戦略を実現するというものではないが、小規模に整え始めていると見た方がよいだろう。

 完全な領域拒否ではなく、部分的な領域拒否、あるいは一撃を与えるほどだけのものなのかもしれない。

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