日本と同様に最新鋭の戦闘機としてF-35ライトニングII」の導入を進めるイタリア軍。ただ、日本は航空自衛隊に一本化しているのに対し、同国は海軍と空軍にそれぞれ配備しているそう。それゆえ運用に支障が出る可能性もあるようです。

史上初めてF-35Aを来日させたイタリア軍の内部事情

日伊共同訓練を行うため、2023年8月4日石川県の小松基地へと飛来したイタリア空軍のF-35ライトニングII」。第五世代のステルス戦闘機であるこの機体は、日本の航空自衛隊においても最新機として配備が進んでいます。

今回、イタリア空軍が本国から派遣したF-35は、いわゆる空軍型とよばれる「A」ですが、イタリアはこれとは異なるタイプも調達しています。それがSTOVL型のF-35Bです。

F-35はもともと、統合打撃戦闘機JSF)計画という名称で、アメリカ軍とその同盟国の機体を単機種で更新するために開発されました。アメリカ軍においても、戦闘機を運用するのは空軍、海軍、海兵隊と3つあり、それぞれが異なる運用方法を用いています。そこでF-35は、同じ機体をベースにして「A」「B」「C」と3種類の異なるタイプを開発しました。

「A」型はCTOL(通常離着陸)型と呼ばれる機体で、陸上にある滑走路から運用される標準的なモデルです。3タイプの中で最も採用した国が多く、生産数も多いのが「A」型であり、航空自衛隊が配備を進めているのもこのモデルです。

一方「B」型は、短距離での離着陸と艦船から運用ができるSTOVL(短距離離陸・垂直着陸)型です。これは強襲揚陸艦ヘリコプター母艦、滑走路長が十分にとれない前線飛行場などでも運用できるタイプで、アメリカ海兵隊が主に導入を進めています。日本も、いずも型護衛艦で運用可能な戦闘機として、取得を計画しているのがこのタイプです。

最後の「C」型は、大型空母からカタパルトアレスティングワイヤーを使って空母から発着艦する艦載機型です。このタイプは主翼に折り畳み機構を導入したり、発着艦時の衝撃に耐えられるよう前脚の車輪がダブル(2輪)になったりしているのが特徴です。このタイプはアメリカ海軍が導入を進めています。

イタリアは現在、トータルで90機のF-35を導入する計画ですが、このうちCTOL型のF-35Aは60機で、残りの30機がSTOVL型のF-35Bになるそうです。

ひとつの国が複数タイプのF-35を調達・運用するのは珍しいことではないものの、イタリア軍の場合はこのB型を空軍と海軍で個別に導入するのが特徴です。なぜ同じF-35Bを、空軍と海軍が別々に導入・運用しようとするのでしょうか。

F-35Bに絡む海軍と空軍、個別の運用思想

F-35Bは、F-35シリーズの中で最も機体構造に関して特徴があるタイプといえるでしょう。機体尾部のエンジンノズルは折り曲げて下方に向けることができ、胴体前部のリフトファンと合わせることで、短距離での離陸やヘリコプターのような垂直着陸が可能です。固定翼機でありながらもホバリング(空中停止)をすることまで可能です。

だからこそ、F-35Bは前述したように日本も海上自衛隊いずも型護衛艦で運用しようと調達を決めています。ただ、日本の場合は運用の効率化を目指して、F-35Bといえども航空自衛隊に全機配備することが決まっています。

一方、イタリア海軍の場合、すでに軽空母「カヴール」と「ジュゼッペ・ガリバルディ」を保有しており、これにF-35Bの運用が可能な強襲揚陸艦「トリエステ」も就役を控えています。これらの艦載機としてイタリア海軍は従来、アメリカ製のVTOL機であるAV-8B「ハリアーII」を運用しており、F-35Bはこれらの更新機として導入される予定です。

一般的に艦載機としてのイメージが強いF-35Bですが、小型空母から単独で離着陸できるSTOVL能力は、陸上基地の運用でも有効です。本来、戦闘機を運用するには大きな滑走路と支援設備が必要ですが、F-35Bの場合は小規模な空港設備からでも発進することができます。

近年のウクライナ紛争を鑑みてもわかるように、有事が発生した場合、空軍基地は巡航ミサイルなどの長射程兵器によって真っ先に狙われる可能性があります。そういったなか、出撃する場所の選択肢が多く運用面で冗長性のあるF-35Bは、空軍が陸上機として運用する上でも充分にアドバンテージがあります。

こうした理由から、イタリア空軍はF-35「A」型だけでなく、「B」型も同時に導入を進めているといえるでしょう。しかし、同じ機種を別々の組織で運用することに関して、イタリアではある問題が持ち上がっています。それは同国におけるF-35の運用が、はた目から見ると非合理的なのではないかという点です。

導入数の削減で互いにギリギリ、海軍と空軍どうするの?

イタリアはもともとF-35の開発計画に初期の頃から参加しており、機体の購入だけでなく、ヨーロッパ向けの機体製造と整備を行うFACO(最終組立・検査施設)もイタリア国内に建設しています。FACOはアメリカ国外ではイタリアと日本にしかなく、イタリアにとってF-35は戦力だけでなく防衛産業の面でも関わりがある重要なプロジェクトだといえます。

しかし、イタリアの財政問題や、2018年に発足したジュゼッペ・コンテ政権によって、イタリアF-35導入計画は大きな影響を受けます。特に同政権は国防予算の削減を政策に掲げており、その対策としてイタリア軍F-35の導入中止まで提言したほどです。最終的には導入機数の削減で折り合いがついたものの、その影響でイタリア軍が導入するF-35の総数は131機から90機まで減少、結果F-35Bは62機から30機となりました。

空軍と海軍はこの30機のF-35Bを折半することになりましたが、「A」型を別に持つ空軍はともかくとして、「B」型しかない海軍としては充分な数とは言えないでしょう。空母「カヴール」のF-35B搭載数はおよそ10機前後とされています。機体の一部が整備に入ることを考えれば、15機がいかにギリギリの数字なのかがわかります。

少ないF-35Bをより効率的に運用するため、空軍と海軍は各々のF-35Bを合同で各種訓練に参加させています。2021年に行われた演習では海軍の空母「カヴール」に、空軍のF-35Bが初めて着艦を行っており、この時は同じ甲板上に両軍の機体が並ぶこととなりました。

演習に参加した軍高官によれば、今後も空軍と海軍のF-35Bがそれぞれの演習や任務を参加する機会は増えるようですが、両者がより踏み込んで、機材や人材を共有化する統合運用についてはまだ正式な決定はされていません。メーカーであるロッキード・マーチンが発表したリリースによれば、海軍はF-35Bを運用する独自の基地を候補に挙げています。

現在、イタリア軍に納入されたF-35Bの数は6機程度と少なく、特に海軍の場合はようやく乗員の育成や部隊の立ち上げが始まった段階といえるでしょう。今後、訓練や任務の機会が増えることで、機数の不足は問題となってくる可能性があり、空軍と海軍で別個に運用する不都合を避ける意味から、イタリア軍内におけるF-35Bの在り方にも大きな変化がでるかもしれません。

イタリア海軍向けのF-35Bの初号機。機首部分に海軍機を示すシンボルが入っている(画像:アメリカ海軍)。