アメリカ・ジョージア州の郡刑務所に、軽犯罪で収監されていた男性が、不衛生極まりない独房内で放置され続けた結果、トコジラミ(南京虫)に体中を吸血され、去年9月に死亡した。
遺族は、独自の解剖結果から男性が「生きたままトコジラミに食べられた」として、郡を相手取って訴訟を起こしていた。
今月、ジョージア州フルトン郡委員会は、男性の遺族に400万ドル(約5億7千万円)の和解金を支払う決定を下した。
2022年6月に軽犯罪単純暴行容疑で逮捕され、ジョージア州フルトン郡刑務所の独房に収監されていたラショーン・トンプソン(35歳)は、9月12日に独房内で全身トコジラミに覆われた状態で死亡していた。
同郡刑務所職員が提出した事件報告書によると、保釈金がなかったトンプソンは、逮捕から3か月後の9月12日に、無反応で独房のトイレに倒れているところを発見されたという。
トンプソンが統合失調症を患っていると判断した郡刑務所は、拘留中にトンプソンを刑務所の精神科棟に移送する計画をしていたが、実現されなかった。
トンプソンは、劣悪な環境の独房内で、何のケアもされず置き去り状態にされ、最終的に大量のトコジラミに吸血されまくり、命を落としたようだ。
トコジラミのエサはヒトや動物の血液で、肌が露出しているところを吸血する。吸血されてすぐにかゆみが出ることは少なく、繰り返し刺されることでアレルギー反応を起こしかゆみがでる。
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死因不明とされ、独自の解剖を求めた遺族
フルトン郡検視局は今年1月、トンプソンの死因を「不明」とした。だが、それに納得しなかった遺族は、独自の解剖を希望した。
そこで、元NFLクォーターバックのコリン・キャパニック(現在は市民活動家)の非営利団体からの要望を受けた、ハーバード大教授のロジャー・A・ミッチェル・ジュニア医学博士が、解剖を担当することになった。
その結果、トンプソンの体には重度のトコジラミが寄生していたことがわかった。遺族が指摘した通りだった。
つまり、トンプソンの死因は「不潔な環境で放置されたことによるトコジラミを起因とした合併症」であることが判明したのだ。
まったくケアされず、脱水症状や栄養失調も起こしていた
5月に、遺族の弁護士から発表された解剖報告書では、トンプソンは郡刑務所に収監されていた3か月間で、体重が約15キロ減少し、死亡時には重度の脱水症状と栄養失調を起こしていたという。
同報告書はまた、死亡の前月に統合失調症の治療に必要な投薬やケアをまったく受けた記録がないとも述べている。
この報告がなされた会見では、公民権弁護士のベン・クランプ氏が、トンプソンは「拷問部屋」で暮らしていたと述べ、トンプソンの死を「米国史上最も嘆かわしい拘留中の死亡事件」と呼んでいた。
実は、トンプソンが亡くなる数日前、少なくとも2人の刑務所職員がトンプソンの独房の状態や健康への懸念について、ほかの職員に警鐘を鳴らしていたが、それでも放置状態は続いていたようだ。
ミッチェル・ジュニア医学博士は、解剖記録の中で次のように綴っている。
43日間にわたり、トンプソンへのケアが提供されたことを示す文書記録は、最小限だった。
投薬記録には、2022年8月11日から2022年9月13日まで投薬が行われていなかったことが示されている。
提供されたタイムラインに基づくと、トンプソンは明らかに28日以上にわたって体に重度の昆虫侵入を患っていた。
重度かつ相当な感染が蓄積するまでの間、トンプソンはまったく入浴許可を与えられていなかった。
死因は殺人にほかならない。トンプソンは、死ぬまで放置されたのだ。
トコジラミによる感染は命をも落とす危険性
大量のトコジラミにいる環境にさらされ続けると、危険な量の血液が吸血される危険性があると専門家は言う。
トコジラミを専門とするケンタッキー大学の昆虫学者マイケル・ポッター氏は、独房内の状況について、こう語っている。
トンプソンの遺体の写真を見ましたが、20年の私の経験の中で、これほど最悪なレベルのものを見たことがありません。
トコジラミに刺されて死に至ることは非常にまれですが、長期間全身を刺され続けると、貧血になる可能性があり、治療せずに放置すると死に至る可能性があります。また、危険なアレルギー反応を引き起こす可能性もあります。
Family says man who died in Fulton County Jail was eaten alive by insects, bed bugs
遺族らが郡を相手に訴訟を起こし、400万ドルの和解金
トンプソンさんの死後、遺族は郡を相手取って訴訟を起こした。
結果として、8月2日、ジョージア州フルトン郡委員会は、6対0で400万ドル(約5億7千万円)の調停和解を承認した。
理事会からは和解に関する詳細は明らかにされていないが、ハーパー弁護士は、「フルトン郡委員の投票がそれ自体を物語っている」と述べた。
米国司法省は先月、フルトン郡刑務所内の虐待や育児放棄などの一連の報告を受けて、内部調査を行うと発表した。
フルトン郡保安官パトリック・“パット”・ラバット氏は、このように述べている。
トンプソンさんのご遺族に、改めて心からお悔やみを申し上げます。
いくらお金があっても愛する人を失った悲しみを和らげることはできませんが、私たちはこの和解が家族にとっての正義の手段となることを願っています。
私たちはトンプソン一家と、施設の代替を求める彼らの要求を支持し、今後も献身的に取り組んでいきます。
このようなことが二度と起こらないよう、必要な改革を実現するための取り組みを行っていきます。
私たちは、引き続き郡刑務所に拘留されている男女の健康と福祉を最優先に考えていきます。
Lawyer: Georgia inmate “eaten alive” by bed bugs. #CGTNAmerica https://t.co/C0ikFxfsQX
— CGTN (@CGTNOfficial) April 21, 2023
トンプソンの死に関する調査を受け、フルトン郡刑務所に対し、警備巡回のプロトコルの更新、精神衛生部門へのスタッフの追加、過密状態を緩和するために数百人の受刑者を他の施設に移送するなど、いくつかの措置が講じられたという。
なお、トンプソンの死を受けて、郡刑務所の看守長と看守長補佐、刑事捜査課の看守長補佐は全員辞任した。
この死亡事件の原因に関する捜査の詳細は、再検討のためジョージア州捜査局に引き渡されたということだ。
References:Family of Man 'Eaten Alive by Bed Bugs' Agrees to $4M Settlement | Inside Edition/ written by Scarlet / edited by parumo
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