コレラは汚染された水や食べ物により感染し、激しい下痢や嘔吐を伴い、酷い脱水症状などで死に至ることもある恐ろしい病気だ。先進国では海外からの帰国者などを除けばまず見られないが、水道設備の整っていない途上国を中心に年間300万人から500万人が感染していると、世界保健機関(WHO)は見ている。

そんな恐ろしい病気の感染が、北朝鮮の首都・平壌に近い平安南道(ピョンアンナムド)の一部地域で拡大していると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

平安南道北部にある穀倉地帯「十二三千里平野」が位置する文徳(ムンドク)、平原(ピョンウォン)、粛川(スクチョン)ではコレラやパラチフスの感染者が増えている。水質の悪さが原因だと情報筋が伝えている。

当局は浄水場を運営しているが、「水道水からカルキ臭がしていたのはいつのことか記憶があやふやだ」(情報筋)というほど、薬品を使った消毒が長年行われておらず、砂と砂利のフィルターで浄化する原始的な方法に頼っている。そのため、雨が降れば水道水が泥色となり、当然のことながら殺菌など行われていない。

この地域では今年6月にも、田植え戦闘に動員された都市部の学生たちが川の水を飲んだことで感染症になり、参加者のほとんどが発熱や吐き気、下痢などの症状を訴える事態となっている。

内閣は同月、産業廃水を浄化せずに放流している道内の工場に検閲班を派遣し、水の汚染に関する調査を行わせたが、その後の進展については伝えられていない。

同じ平安南道でも、東部の山沿いの地域にある陽徳(ヤンドク)、孟山(メンサン)などでは、水質が良いため、感染は広がっていないとのことだ。ちなみに陽徳は、金正恩総書記ご自慢のスパリゾート「陽徳温泉文化休養地」を擁するなど、古くから名水の地として知られている。

感染者への治療だが、いつものように医薬品の不足により、まともに行われていない。情報筋によると、発熱にはアスピリン中国製の「正痛片」(アセトアミノフェンアスピリンカフェインの混合薬)、下痢には止瀉薬やアヘンチンキを市場で買って服用するが、一般庶民にはその経済的余力がないという。ちなみにコレラは、正しい治療を行った場合、致死率は1%以下に下がるが、それができない場合には、5〜60%に達する。

北朝鮮で安全な水へのアクセスが確保できているのは、調査によって異なるものの、全人口の6〜7割ほどと見られる。地域によっては、日本植民地統治下で作られた老朽化した水道設備を使っていたり、水道設備そのものがなかったりする。国民の健康を守る基本的なインフラより、核兵器やミサイル開発に巨額の資金を投入するのが、北朝鮮という国なのだ。

北朝鮮の防疫活動(2022年6月2日付労働新聞)