深夜、指示通りに公園のベンチに置き配しようとしたら、突然スマホから機械音が出てビックリ!
深夜、指示通りに公園のベンチに置き配しようとしたら、突然スマホから機械音が出てビックリ!

連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長チャリンコ爆走配達日誌】第10回

ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!

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夏まっさかり。皆さんはクソ暑い日々をどのように過ごされていますか。

私は、太陽の出ている間に配達すると死んでしまうので、日没後の夕食の時間帯を中心に活動するという、まるで「鬼」のようなライフサイクルを送っております。『鬼滅の刃』の「ねずこ」さんのように太陽を克服したいのですが、48歳のおじさんには克服できそうにありません。

さて、この季節になると、ちまたでちらほらと聞こえてくるのが怖い話。

配達員が体験した怖い話だと、配達先までまだ3kmもあるのに「到着予定時間があと3分と表示されているのですが」というメールが届いた話。大きめのパックの中央に握りずしが1貫しか入っていない商品を渡された店の注意書きに「握りずしが倒れたり、容器の端に寄ってしまうといったお客様からの声が増えております。おすしを倒したり寄ってしまわないよう丁寧に運んでください」と書かれている話。など、トラブルにまつわるエピソードがほとんど。

ですが、ごくまれに夏場に求められるような怖いことも体験するので、今回はそんなゾワッとくる話を書こうと思います。

あれは2021年、東京オリンピックが開催されていたある真夏の夜のこと。この日は夜遅くまで競技が行なわれていたため、世界各国のマスコミの方が宿泊する東京・有明あたりのホテルへの配達が深夜1時過ぎまで続きました。配達がひと段落し、自転車で戻っていると、とあるコンビニからマンションへの配達依頼が来ました。

コンビニで商品を受け取り、夜中の2時すぎに目的のマンションに到着。建物の入口でインターホンを押し、ロックを解除してもらってからエレベーター乗り場へ。すると、深夜で周囲に誰もいないのにエレベーターの「↑」のボタンが押されています。そしてエレベーターに乗ると配達先の階数「13」のボタンが押されていました。

最近のマンションはセキュリティーがしっかりしていて、建物入口のインターホンとエレベーターが連動。住人がインターホンを押した人の入場を許可するとエレベーターが自動で動き出すというシステムを導入するところもあるので、この時点で驚きはありませんでした。

エレベーターに乗り「閉」のボタンを押してボーッとしていると、2階で止まって扉が開きました。が、2階から乗る人はいません。再び「閉」のボタンを押してボーッとしていると、3階にも止まりました。もちろん3階から乗る人もいません。エレベーターの操作板を見ると「13」のボタンだけが光っています。「閉」のボタンを押してエレベーターが動き出すと、今度は4階に止まりました。

可能性があるとしたら、誰かが各フロアのエレベーター乗り場で「↑」のボタンを押しているということですが、深夜のマンションには人の気配がありませんし、誰かのいたずらだとしても、私が乗るより一瞬でも早く2~4階の「↑」のボタンを押したら、私が乗る前にエレベーターが上に動き出してしまいます。私が乗ると同時に各階の乗り場の「↑」を押さなければ、エレベーターがこのような動きはないのです。

その後も各階に止まっては「閉」のボタンを押すことを繰り返しました。7階、8階、9階......。このあたりでふと気づきました。目的フロアは13階。「十三階段」や「13日の金曜日」にも出てくる数字です。ということは13階に到着した時、誰かが待っているのではないかと。

一瞬、エレベーターを降りることも考えましたが、インターホンとエレベーターが連動したマンション。降りてしまうと配達先へ行くには、一度1階まで降りて外に出て再び配達先の部屋のインターホンを押さなければなりません。深夜2時過ぎにそんなことをしたら確実にBAD評価がつきます。

心霊的な恐怖よりもBAD評価を恐れた私。2階から12階まで「閉」を押し続け、ついに13階に到着。ドアが開くとそこには人が立って......いるわけもなく、手順通りに部屋のドア前に置き配。無事配達を終えたのですが、建物の入口から部屋に到着するまでが遅すぎたからなのかBAD評価がつけられていました。

去年、2022年の夏にもこんな出来事がありました。夜9時過ぎに湾岸エリアで自転車を漕いでいる時に入ってきたのが、東京・晴海にある店からの配達。商品を受け取り、配達員用アプリの地図画面で配達先を確認すると、地図が示していたのはオリンピックの選手村があった晴海フラッグの先にある海岸。

選手村としての役割を終え、分譲住宅として改装工事が行なわれている晴海フラッグ。昼間は工事車両なども通り人通りがあるのですが、人が誰も住んでいないので日が落ちると真っ暗に。高層マンションが建ち並ぶのに真っ暗で静かという不気味な空間となります(2024年春に入居が始まると解消されるでしょう)。

そんな空間を自転車で10分以上走って公園に到着。指定された海岸に立つと突然、注文者からのメール。スマホの音声をONにしていたので、機械音でメッセージが音読されます。

「アナタノ ゼンポウニ ミエル ベンチニ オイテクダサイ」

指示通りにベンチの上に置き配して帰りましたが、機械音が出た時はオシッコが漏れそうになりました。

こんな感じで、夜の配達には怖い思い出もあるのですが、昼間の配達で熱中症になる危険性を考えると、夏はどうしても夜の配達が中心となってしまいますね。

渡辺雅史(わたなべ・まさし) 
フリーライターとして雑誌や書籍への執筆をするほか、ラジオ番組やテレビの番組の構成作家としても活躍。趣味は鉄道に乗ること。国内の全鉄道路線に乗車したほか、世界20の国・地域の鉄道に乗車。

文/渡辺雅史 イラスト/土屋俊明

深夜、指示通りに公園のベンチに置き配しようとしたら、突然スマホから機械音が出てビックリ!