ウクライナ戦の“英雄”とも讃えられるトルコ製の無人航空機「バイラクタル」を、ついに日本の陸上自衛隊が導入するかもしれません。陸自はこれをどう運用するのでしょうか。実は今回、バイラクタルの“ライバル”も比較検討されます。

バイラクタル、陸自導入か

陸上自衛隊中央会計隊は2023年8月4日(金)、トルコのバイカル・テクノロジーズが開発したUAS(無人航空機システム)の「バイラクタルTB2S」の調査を行う企業を選定する一般競争入札を実施しました。

バイラクタルTB2Sは、2022年2月に勃発したロシアウクライナの戦いでウクライナ軍によって使用され、偵察と攻撃の両面でロシア軍に大きな損害を与えたと言われているUAS「バイラクタルTB2」の改良型です。ウクライナで国民的な人気を博しているバイラクタルですが、陸上自衛隊はかねて、その導入を検討していました。

防衛省は、平時における隙の無い警戒監視体制の構築と、弾道ミサイルをはじめとする各種ミサイルから国民と国土を守る「総合ミサイル防衛」や、敵の防空システムなどがカバーする範囲の外側から攻撃できる、12式地対艦誘導弾(改)の装備化などにより実現が見込まれる「スタンド・オフ防衛能力」などの実装を打ち出しています。一方、これらによる抑止が機能せず、万が一敵の侵攻を受けたことを想定した「無人アセット防衛能力」という概念を、2022年8月31日に発表した令和5年度防衛予算の概算要求で発表しています。

これは、自衛隊の人的損耗を抑えつつ、非対称な戦い方により敵の侵攻を阻止・排除すべく、陸海空の無人装備品(アセット)の早期導入と実用化を目指すというものです。その後日本政府は2022年12月16日に発表した防衛力整備計画で、おおむね10年後を目標に、陸上自衛隊へ1個多用途無人航空機部隊、海上自衛隊へ2個無人機部隊、航空自衛隊へ1個無人機部隊を置くという目標も発表しています。

航空自衛隊は2022年12月15日に、RQ-4グローバルホーク」を運用する偵察飛行隊を新編しており、既に別表に記載されている目標を達成しているとも言えます。しかし陸上自衛隊の多用途無人航空機と海上自衛隊無人機、さらには無人アセット防衛能力を構成する陸海空の各種無人機の導入計画はスタートしたばかりです。

政府と防衛省は無人アセット防衛能力を早期に獲得するため、実績のある外国製無人機の導入を視野に入れており、陸上自衛隊の多用途無人機の候補としてバイラクタルTB2Sの調査が行われることになったというわけです。

陸自は無人機をどう使う? 改良型バイラクタルは◎か

陸上自衛隊の多用途無人機は、現在OH-1観測ヘリコプターが担当している情報収集と、AH-1S対戦車ヘリコプターAH-64D戦闘ヘリコプターが担当している近接航空支援の任務を引き継ぎます。防衛省陸上自衛隊は、これに加えて、対戦車ミサイルや精密誘導爆弾などの兵装の搭載も可能なMALE(中高度長時間滞空)に分類されるUASの導入を念頭に置いているものと見られます。

このたび調査されるバイラクタルTB2Sは、衛星通信機能の追加により、バイラクタルTB2よりも制御可能な距離が拡大されています。陸上自衛隊が多用途無人機に求めている性能を充たすUASだと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思いますし、ロシアウクライナの戦いをはじめとするいくつかの紛争で、その能力は証明されています。

防衛省は2022年12月22日に行われた令和5年度防衛予算案のメディア向け説明会で、陸上自衛隊の多用途無人機について、「あくまでも一例である」との前置きこそ付けてはいたものの、バイラクタルTB2の名前を挙げていました。

また、筆者は2022年11月にインドネシアの首都ジャカルタで開催された防衛装備展示会「インドゥ・ディフェンス2022」の会場でバイカル・テクノロジーズのスタッフから話を聞く機会を得ました。対応してくれたスタッフは慎重に言葉を選びながらも、防衛省陸上自衛隊がバイラクタルTB2に大きな関心を示していることは認めていました。

前に述べたメディア説明会における防衛省の説明や「インドゥ・ディフェンス2022」におけるバイカル・テクノロジーズのスタッフの口ぶりから見て、バイラクタルTB2Sの調査は無人アセット防衛能力という概念が打ち出された2022年の夏には決まっていたのではないかと筆者は思っています。

バイラクタルだけじゃない もう一つの比較候補

防衛省はバイラクタルTB2Sの調査と並行して、イスラエルのIAI(Israel Aerospace Industries)が開発したMALE「ヘロンMk.2」の調査にも着手しています。

ヘロンMk.2は2020年2月に開催されたシンガポールエアショーで発表された、IAIのUAS「ヘロン」シリーズの最新型です。エンジンの変更によりヘロンに比べて速度性能と航続性能が向上しており、広域監視システム「WASP」を搭載すれば、国境を超えることなく広域を監視する能力も備えます。

諸事情により実現はしませんでしたが、2015年1月に故安倍晋三元首相がイスラエルを訪問した際、イスラエル製のUAS自衛隊が導入し、そのUASを日本の航空機メーカーがライセンス生産をするための話し合いも行われたと筆者は耳にしています。

トルコイスラエル、ともに自衛隊が主要な防衛装備品を導入した実績のない国ですが、無人アセット防衛能力という概念の推進は、自衛隊の防衛装備品の構成や日本の航空防衛産業のあり方を変える可能性もあると筆者は思います。

トルコ製無人機バイラクタルTB2(画像:バイカル・テクノロジーズ)。