インド政府はこのほど、ノートパソコンやタブレット端末などの電子機器の輸入を免許制にすると発表した。直ちに実施するとしており、米アップルや米HP、米デル・テクノロジーズ、韓国サムスン電子などが打撃を受けそうだ。米ウォール・ストリート・ジャーナルロイター通信などが8月4日までに報じた。

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メーカー、現地生産拡大を迫られる可能性

 アップルは、電子機器受託製造サービス(EMS)世界最大手である台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業などと提携して、インドでスマートフォン「iPhone」の生産を拡大している。だが、ウォール・ストリート・ジャーナルによると、パソコン「Mac」やタブレット端末「iPad」はインドで生産しておらず、これら製品の同国向け販売は対インド輸出品に頼っている。パソコン大手のHPやデルは、現地生産を行っているが、その数量は限定的だ。今後、これらメーカーは現地生産やその拡大を迫られる可能性がある。

 ロイターによると、インドでは現在、企業がノートパソコンを自由に輸入することできる。だが新規制の下では、これら製品の輸入に特別なライセンスの取得が必要になる。業界関係者によると、新モデルが発売されるたびにライセンスを得る必要があり、手間と時間がかかることになる。インドではヒンズー教の新年を祝う祭り「ディワリ」が、毎年10月から11月にかけて開催され、電子機器製品が多く売れるが、新規制はこの繁忙期に影響を及ぼす可能性があるという。

 インド政府当局者はこの新規制について「一部の輸入ハードウエア製品にセキュリティー関連の懸念があり、我が国のデジタル安全保障上の観点から措置を講じた」と述べた。「副次的な効果として、企業がインドでの製造を検討し始める可能性もある」と付け加えた。

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、これはモディ政権が掲げるインド製造業振興策「メーク・イン・インディア」への参加を促すものだとみられている。この振興策に基づくプログラムでは、電子機器などのテクノロジー製品の現地生産に対するインセンティブを提供し、対象となる企業は投資額から数百万ドル(数億円)を回収できる。インド政府は当初、その対象をスマホに限定していたが、最近は他の消費者向け電子機器や半導体、ドローン(無人機)などにも拡大するようになった。

 今回の新しい規制で対象となるコンピューティングデバイス(パソコンやサーバーなど)のインドにおける輸入額は、22年1~12月実績で約100億ドル(約1兆4300億円)になる。これは22年のインド全体の総輸入額の約1.4%に相当する。

パソコン供給源の中国にも照準

 米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、今回の新規制は、中国にも照準を合わせたものとなる。インドノートパソコン輸入の主要な供給源は中国だからだ。

 インドと中国は20年、北部ラダック地方にある係争地域で軍隊が衝突したことにより緊張が高まった。この衝突では、インド兵20人と中国兵4人が死亡した。両国の軍隊はその後、最新兵器を装備した5万人以上の兵士を国境沿いに展開するようになった。

 同紙によると、インドはその報復として、同国市場からスマホアプリを含めさまざまな中国製品を締め出す強硬策を打ち出した。その中には、北京字節跳動科技(バイトダンス)の動画投稿アプリ「TikTok」や、騰訊控股(テンセント)の対話アプリ「微信(WeChat)」などがある。

 また、中国からのあらゆる投資提案を厳格に検討する仕組みを導入し、通信機器大手の華為技術ファーウェイ)や中興通訊ZTE)などが、インドの大規模5G(第5世代移動通信システム)プロジェクトに参加することを禁止した。加えて、税・施行当局は、vivo(ビボ)、小米(シャオミ)、OPPOオッポ)などのスマホメーカーを脱税の疑いで調査した。だがこれらのメーカーは、その事実関係を否定をしている。

業界幹部ら「メーカーと消費者の両方に悪影響」

 香港の調査会社カウンターポイントリサーチによると、インドは、スマホとテレビについて、国内需要のほぼ100%を自国生産することに成功している。だが、IT(情報技術)ハードウエア製品全体で見ると、全体の約3分の2を輸入に頼っている。

 同国は製造業振興策であるメーク・イン・インディアを推し進めるために、関税を調整するなど、さまざまな輸入制限を導入してきた。今回の新たな輸入免許制は、その一環とみられる。

 しかし、同国の電子機器製造業が、まだ十分に発展していないことを考えると、この措置はメーカーと消費者の両方に悪影響を及ぼす可能性があると、業界幹部やアナリストらは指摘する。

 「思慮に欠ける判断だ。まず私たちと何らかの協議を行い、即時効力が生じる輸入制限を導入すべきではなかった」と、タブレット端末やノートパソコンも手がけるメーカーの幹部は話している。

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(写真:ロイター/アフロ)