8月9日に放送されたNHK朝ドラらんまん」第93話で、東京大学改め帝国大学の植物学教室の田邊彰久教授(要潤)夫妻をモデルにした新聞小説の影響で、田邊宅に野次馬が押し寄せるというシーンが描かれた。

 主人公・槙野万太郎神木隆之介)の妻・寿恵子(浜辺美波)は、中野質店を訪れた際、新聞の連載小説に目を留め、店主(小倉久寛)から小説の内容がいかがわしいものであること、「主人公は田口という大学教授で女学校の教授もやっている」「田口は里江という女生徒に手を出してしまう」といったあらすじを聞き、表情をこわばらせたのだ。

「寿恵子は、小説が田邊教授と妻の聡子(中田青渚)がモデルなのではとピンときたのでしょう。その足で田邊教授宅に向かうと、屋敷の前には大勢の野次馬が集まって、『教師にあるまじき不埒、田口出てこい!』『破廉恥校長、顔見せろ』『女学校なんか作るから世の風紀が乱れる』などと罵倒したのです」(テレビ誌ライター)

 田邊家の女中は「あの小説はデタラメです、やめてください」と野次馬に説明するが、聞く耳を持たない群衆はさらにエキサイト。石を投げ窓ガラスを割る輩まで出る始末に…。

 翌10日に放送された第94話では寿恵子は田邊宅にあがり、おびえる聡子と娘たちに寄り添うのだ。

「この時、寿恵子が聡子と娘たちに語りかけた言葉が、まるで今のネット社会のことを言っているようだと、視聴者の間で話題になっているのです」(前出・テレビ誌ライター)

 なぜ石を投げられなければならないのか、疑問に思っている聡子の幼い娘たちに、寿恵子は優しくこう説くのだ。

「投げてもいいと思っているのよ、あの人たちは。自分たちが正しいと思ってるから。でもね、その人たちが間違っていることもある。あの人たちはね、本当のことなんて何ひとつ知らないのよ。知らないのに、人に石を投げつけているの。そんな人たちと、お父様お母様、どちらを信じる?」

 前出・テレビ誌ライターが説明する。

「寿恵子の言葉を聞いて、2020年5月に亡くなった女子プロレスラーの木村花さんの件を思い起こした視聴者は少なくなかったようです。木村さんはリアリティ番組『テラスハウス』(Netflixフジテレビ系)に出演していましたが、番組内での言動を巡って凄まじい誹謗中傷を受けていました。リアリティ番組とはいえ、それなりの演出があったはずなのに、それを知らない視聴者が木村さんの言動を非難。それを苦にして木村さんはみずから死を選ぶという取り返しのつかない結末に。今回の寿恵子の言葉は、ネット上で誹謗中傷をする人間への継承、そして誹謗中傷に苦しんでいる人たちへのメッセージだったのでは」

 コトの真相を知らない第三者が、不確実な情報を元に他者を誹謗中傷することはあってはならず、木村さんの死後も、ネット上で相変わらずくり返されている誹謗中傷を何とかしなければ―。寿恵子のセリフに、そんな思いを制作サイドが込めたと考えてもあながち間違いではなさそうだ。

(石見剣)

アサジョ