長浦京の小説を、行定勲監督が実写化したアクション大作『リボルバーリリー』(8月11日公開)。大正時代の東京を舞台に、16歳からスパイ任務に従事し、東アジアを中心に3年間で57人の殺害に関与した経歴を持つ元敏腕スパイの小曾根百合(綾瀬はるか)が、父親から託された陸軍資金の鍵を握る少年の細見慎太(羽村仁成)に助けを求められ、帝国陸軍に追われながら逃避行を繰り広げる姿を描いていく本作は、長谷川博己、羽村仁成、シシド・カフカ、古川琴音、清水尋也、ジェシー佐藤二朗、豊川悦司を筆頭とする実力派キャストの豪華競演でも話題を呼んでいる。本稿では、本作でダークヒロイン役に挑み、いまや日本を代表するスターに成長した綾瀬はるかの足跡を振り返ってみよう。

【写真を見る】とある少年、慎太とともに陸軍から追われる身となる百合(『リボルバー・リリー』)

■行定勲監督作で映画初出演、その後はコメディエンヌとして活躍

2000年にホリプロスカウトキャラバンで審査員特別賞を受賞した彼女は、翌年に女優デビュー。2002年には『リボルバーリリー』同様、行定監督によるオムニバス映画『Jam Films』(02)の1本『JUSTICE』で映画初出演。ここでは妻夫木聡扮する高校生が憧れる、緑のブルマが似合う女子高生“星さん”を演じているが、セリフはほんの一言。当初はグラビアなどでも活躍したが、大ヒット映画のテレビ版「世界の中心で、愛をさけぶ」のヒロインを演じて注目され、2007年には「ホタルヒカリ」でテレビの連続ドラマに単独初主演。仕事はできるが家に帰れば“干物女”の主人公を演じて、そのコメディエンヌぶりが人気を集めた。このドラマは2010年に続編、2012年に映画版も作られ、彼女の代表作の一つになっている。

2008~2009年には話題作に多数出演し知名度を獲得

また映画女優としては、2008年にビッグウェーブが起こった。この年彼女は、韓国映画のリメイク『僕の彼女はサイボーグ』を始め、『ザ・マジックアワー』、『ハッピーフライト』、『ICHI』と4本の作品に出演。なかでも一般的に目を引いたのは『ハッピーフライト』のコメディエンヌぶりだが、いまから振り返れば女性版の座頭市を演じた『ICHI』は、彼女がアクションでその非凡な才能を示した初期作品として注目に値する。これらの演技で日刊スポーツ映画大賞の主演女優賞に輝き、若手女優の中で頭一つ抜けた存在になった。

2009年にも、「試合に勝ったら、先生のおっぱいを見せてあげる」と言って、思春期の中学生の妄想をスポーツをやらせるバネにする、新米の中学校教師を演じた『おっぱいバレー』(09)でブルーリボン賞主演女優賞を受賞。またこの年には大ヒットしたタイムスリップ時代劇「JIN−仁−」で、主人公を助ける看護師のヒロインも演じた。

■確かな演技力と高いアクションスキルで評価を集める

順調にトップスターへの道を歩む彼女は、2013年に大河ドラマ「八重の桜」でヒロインに抜擢された。同志社を創設した新島襄の妻、八重の半生を、幕末から明治を背景に描いたこの作品で、綾瀬は幕末期には会津藩の砲術師範の娘として銃を持って戦い、明治期には夫とともに同志社創設に奔走する、文武に秀でた意志の強い女性を見事に演じきった。ここで八重の最初の夫、川崎尚之助を演じたのが、『リボルバーリリー』で綾瀬扮するヒロイン小曾根百合をサポートして活躍する弁護士、石見役の長谷川博己。岩見が百合に恋心を抱いている設定も含めて、彼らの過去の共演作とのつながりを踏まえて映画を観ると、一層味わい深いものがある。

その後も長澤まさみ、夏帆、広瀬すずと4姉妹を演じた是枝裕和監督作『海街diary』(15)で毎日映画コンクールヨコハマ映画祭の主演女優賞を受賞、血のつながらない娘と絆を深めていく堅物の母親を演じて社会現象も起こすヒットになったドラマ「義母と娘のブルース」など、その演技力は高く評価されたが、彼女を語る上で外せないのがアクション女優としての一面だ。

先述した『ICHI』を取っ掛かりに、大河ファンタジー「精霊の守り人」では女用心棒バルサに扮して、全編ソードアクションを披露。さらに西島秀俊と共演したドラマ「奥様は、取り扱い注意」では、公安の夫と結婚した元特殊工作員の妻に扮して、毎回超絶アクションを見せていた。この作品は2021年に映画にもなったが、ガンアクションや格闘技を交えたその動きは、作品をこなすごとに鋭さと速さを増し、アクションができる女優という彼女のイメージは、いまやすっかり定着した。

■“万能な表現者”へと上り詰める綾瀬はるか

コメディもやれば、可愛らしさものぞかせ、大河ドラマのヒロインのように意志の強さも持ち合わせていて、アクションも得意。この20余年で綾瀬は、ある意味表現者として万能になってきた。その彼女が2023年に力を入れているのが、アクション女優としての顔である。木村拓哉と共演した時代劇大作『レジェンドバタフライ』(23)では、戦国武将、織田信長の妻である濃姫役。斎藤道三の娘で武芸に秀で、新婚初夜から信長との夫婦喧嘩マウントをとってしまう、気の強い女性を演じた。どこか優柔不断な若き日の信長を精神的に引っ張っていくのが濃姫で、信長と心と体で拮抗するほどの“強さ”が必要なこの役は、綾瀬でなくては演じられなかっただろう。映画は政略結婚で結ばれ、互いに素直になれない2人が、信長が本能寺の変で没するときに愛を確かめあう、壮大なラブロマンスとして締めくくられる。

この負けん気の強い武将の妻に続いて、新作『リボルバーリリー』では、大正時代を背景に伝説のスパイ、小曾根百合を演じた。ある出来事によって一線を退いた百合は、いまは花街、玉ノ井でカフェ「ランブル」を経営している。その彼女を頼ってやって来た少年、慎太(羽村仁成)を守って、帝国陸軍に敢然と戦いを挑むのが、物語の大筋。百合は愛用のリボルバーを始め、格闘術の合気も駆使して、次々に襲い掛かる敵を倒していく。

その無口だが、相手を見据えるような“目力”と、肉体の強さで百合のキャラクターを語る、綾瀬の存在感が見事。“見せる”ためのアクションではなく、銃で撃っても無手で戦っても、無駄な動きを一切しないハードなアクションに徹していて、宣伝文句の“映画史上最強のダークヒロイン”にふさわしい。しかも動きやすい衣装ではなく、1920年代当時のフラッパーガール・スタイルのドレスに身を包んでアクションをやっているので、難易度はさらに高い。まさに彼女がこれまでやって来た、アクション演技の集大成的な作品である。映画の後半ではカフェの従業員を演じたシシド・カフカや古川琴音も戦いに参戦し、これに長谷川博己も加えた百合を取り巻くチームのアンサンブルも魅力的。アクションの見せ方に気になる部分はあるのだが、俳優たちの好演が作品を支えている。

綾瀬はるかの可能性は止まらない

このアクション大作を経て、綾瀬はるかはどこへ向かうのか。彼女の天然ぶりを活かしたコメディもまた見たい気もするが、いまならやはりアクションができる清野菜名や山本千尋と組んで、ダークな和製『チャーリーズ・エンジェル』(00)なんていうものを彼女にやらせたら、すごいものができるのではないか。そんな期待が妄想で膨らむ、常に可能性を秘めたスター。それが綾瀬はるかなのだ。

また、auスマートパスプレミアム会員なら、『リボルバーリリー』の上映期間中、土日平日いつでも、何度でも1100円(高校生以下は900円)で本作を鑑賞できる。同伴者1名まで特典が利用できて、対象劇場は全国のTOHOシネマズユナイテッド・シネマ/シネプレックスコロナシネマワールドなど。上映日の2日前0時から(TOHOシネマズシネマイレージ会員は3日前21時から)購入できる。オトクに映画館で楽しめる機会に、ぜひスクリーンで勇姿を堪能してほしい。

文/金澤誠

拳銃を構える鋭い眼光にドキリとする(『リボルバー・リリー』)/[c]2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ