トム・クルーズ主演最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(公開中)。7月21日に日本公開を迎え、200万人を動員し、早くも興行収入30億を突破と大躍進を続けている。第4作『ミッション:インポッシブルローグ・ネイション』(15)以降、トムとタッグを組んできたクリストファー・マッカリーが監督を手掛ける本作では、世界を恐怖に陥れるAIの暴走を食い止める2本の鍵を巡り、イーサン・ハント(トム・クルーズ)がおなじみのIMF(インポッシブル・ミッション・フォース)のメンバー、ルーサー(ヴィング・レイムス)、ベンジー(サイモン・ペッグ)、イルサ(レベッカ・ファーガソン)と共に奔走。謎の女性グレース(ヘイリー・アトウェル)や、30年前にイーサンがIMF加入の決め手となった因縁の相手、ガブリエル(イーサイ・モラレス)が出現し、行く手を阻む…。

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トムの体を張ったアクションやスパイものとして、長年映画ファンを唸らせてきた「ミッション:インポッシブル」シリーズ最新作。なぜこんなにも多くの人に愛される作品となりえたのか?本稿では、その所以を「トム・クルーズ」「吹替版」「ストーリー」「ラージフォーマット」の4つの切り口から語る、クロスレビューで考察していく。

■「トップガン」に続く、フィジカルとメンタル、どちらの強さも兼ねを備えたリーダー像…トム・クルーズは無敵になった(映画ライター・渡辺麻紀)

トム・クルーズが大きな注目を浴びたのは83年の青春映画『卒業白書』だった。上はシャツ、下は白ブリーフ&白ソックスといういで立ちでボブ・シーガーの歌を口パクするシーンが大評判となり、のちに様々な映画やアニメでパロディされるほどだった。

それから40年を経ているにもかかわらず、クルーズはいまでも第一線で活躍し熱い視線を浴び続けている。低迷していた時期もあったとはいえ、去年の『トップガン マーヴェリック』、そして今年の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』という2年連続の大ヒットは彼だからこそなしえた快挙。ほかのハリウッドのトップスターは絶対に真似できない偉業と言っていい。興行面とクオリティ面、この2つの項目をクリアできるスターと作品は、実はそんなに多くない。

では、クルーズのどこがそんなに凄いのか?それは彼の初期の頃から変わらない、映画に対する真摯で情熱的な姿勢だ。彼はまだ大スターではなかったときも、大スターになってからもその姿勢を貫き、常に全力投球で映画作りと向かい合っている。そして、その全力投球が“リアルなアクション”という形で結実したのが「トップガン」、そして今回の「ミッション」なのだ。

この2本がみんなの度肝を抜いたのは、クルーズの身体を張ったアクションだった。スタントは使わず、デジタルにもほぼ頼らず、誰もやったことのないパワフルなアクションを、文字どおり身を呈して創り出す。「ミッション」では手錠につながれたままの2人がチェイスする、ユーモアも加わったカーアクション。バイクを駆って崖からダイブしパラシュートで列車に飛び移る複合的なアクション。そして、あのオリエント急行をこれでもかとフル活用した列車アクション。屋根の上で、そして車内で、まるで違うアクションを見せ、しかも手に汗握らせてくれる。アクションシーンでこれほど興奮したのは久しぶりだった。トムが本当に体を張っていることが伝わってきたからだ。

そして今回、さらに熱くなってしまうのは、クルーズ扮するイーサン・ハントの仲間意識が明確に打ち出されたところ。「仲間の命は私の命より大切だ」という言葉どおり、正義のみならず、仲間のためにも命をかけてくれる強くて信頼できるリーダー。考えてみれば「トップガン」もそうだった。スカイアクションがリアルでクールなだけじゃなく、マーヴェリックが命を預けられる上官だったからこそ、観客はその熱さに触れたくて劇場に通ったのだ。

フィジカルとメンタル、どちらの強さも兼ね備えたリーダー像。トム・クルーズは無敵になったということだ。

■トム公認!安定の“森川イーサン”に、ツダケン低音ボイス…吹替版なら2度おいしい(映画ライター・タナカシノブ)

スパイ組織IMF所属の腕利きエージェント、イーサン・ハントの活躍を描くスパイシリーズ第7弾にはシリーズ最強の敵が登場。挑む相手が最強なら、日本語吹替版の声優陣も最強に。お馴染みから初めまして、さらにお久しぶりのメンバーまでシリーズ最強の吹替キャストが顔をそろえた、日本語吹替版の見どころを紹介したい。

シリーズを重ねるごとに、更新されるクルーズのアクションの限界。CG合成だけでの映像では表現できない迫真のアクションが堪能できるのも「ミッション:インポッシブル」の魅力だ。進化し続ける俳優、トム・クルーズの声を担当するのは、森川智之トム・クルーズ公認声優の安定感は抜群だ。カッコいいイーサンはもちろんのこと、追い詰められるイーサンも、焦るイーサンも、お茶目でコミカルなイーサンも魅力たっぷり。字幕版とあわせて観れば、森川演じるイーサンがいかにぴったりなのかを感覚で納得できる。声質は似ていないのに、イーサンという役がしっかりシンクロするところは、さすがのひと言。映画は字幕派でも、森川イーサン観たさに日本語吹替版を観るという声が多いのも大いに頷ける。

イーサン命懸けのミッションを支えるのがおなじみIMFチームのメンバー。伝説的ハッカールーサー・スティッケルは第1作から登場しているシリーズに欠かせないキャラクター。ルーサーの声を担当するのは手塚秀彰。イーサンが最も信頼できる友人であり、どんな時も冷静で優しい口調が特徴。イーサンとはまた違ったタイプで「なんとかしてくれる」という安心感を与えてくれる存在だ。

もう1人の天才技術者が、ベンジー・ダン。第3作の登場時にはIMF本部で内勤をしていたが、いまではすっかり現場で危険な任務に挑むキャラクターに。役割分担でいえばユーモア担当キャラだが、最新作では自分の命の危険を顧みず、大切な友人と多くの人々を守るためにとてつもないミッションに挑んでいる。ベンジー役は根本泰彦が担当。緊張感のある場面でもクスッと笑わせてくれる、適度なゆるさがたまらない。イーサンは「どうにかしてくれる」という安心感があるが、見守ってあげなきゃと応援したくなるところも魅力だ。

シリーズ最強の敵として登場する新キャラクター、ガブリエル役はシリーズ初参加の津田健次郎が担当。あのイーサンと死闘を繰り広げるなかなかの強敵で、クリストファー・マッカリー監督も「イーサンがこれまで直面した中で最大かつ最も打破しがたい脅威」とコメントするほど。予告にも登場する走る列車の上での対決シーンは、スピード感にあふれる見どころの一つ。腹の底から湧き上がるような低音ボイスに、じわりじわりと追い詰められるゾクゾク感が味わえる!

さらに、イーサンとの因縁を持つヘンリー・ツェーニー演じるユージン・キトリッジが第1作以来。なんと27年ぶりに再登場。キトリッジの声を担当するのは江原正士。淡々としながらも持論への同調を迫るさまは実に高圧的。第1作で見せたプラハのレストランでのシーンを思い出させるシーンでの江原の声の圧を存分に感じ取りたい。このシーンを含めて、第1作へのオマージュを捧げているシーンがあちこちに散りばめられているのも、本作の注目ポイントだ。

最新作にはパワフルで魅力的な女性陣も登場。イーサンの敵なのか味方なのかわからない。武器商人として暗躍するヴァネッサカービー演じるホワイト・ウィドウの声を担当したのは広瀬アリス。前作『ミッション:インポッシブルフォールアウト』(18)で初登場したウィドウを続投した広瀬は、実力派声優陣が勢ぞろいする日本語吹替版で、善人と悪人両方の顔を持つ策士をミステリアスに演じ切っている。

本作のカギを握るグレース役は園崎未恵。アトウェルの声を演じ続けている園崎が、シリーズ初登場となる新キャラをクールに熱演。一匹狼からイーサンと共に行動することになり、そして“ある決断”を下すまで。本作で一番、自身の置かれる環境が変化したキャラクターの心情を繊細に丁寧に演じている。

さらに第5作『ミッション:インポッシブルローグ・ネイション』(15)で初登場したイーサンの戦友、イルサ・ファウストの姿も。声を担当するのは甲斐田裕子。元MI6(イギリスの情報機関)所属の諜報員であるイルサは、自らの方法で正義を貫くキャラクター。幾度となくイーサンと共闘し、その絆は恋愛や血縁を超えたものとなっている。交わす言葉は少なめでも、目に見えない絆をしっかりと感じさせる森川イーサンと甲斐田イルサのコンビネーションは絶品だ。

スクリーンいっぱいに広がる見たこともないアクションに目を奪われる本作は、吹替版で耳から情報を得ながらじっくりとストーリーや世界観を理解したい人には特におすすめ。字幕版、吹替版とセットで楽しみ、作品の魅力を存分にこれでもか!というくらいに堪能してほしい。

■すごいのはストーリーへの「集中力」…おなじみの「変装」と「偽装」も健在。2時間43分が一瞬の出来事のよう(映画ライター・斉藤博昭)

トム・クルーズの命知らずのスタントが毎回フィーチャーされる「M:I」シリーズだが、もう一つの大きなカタルシスがある。それはスパイ映画ならではのストーリーと描写。イーサン・ハントを中心としたIMFのチームが、相手をいかに「欺くか」というポイントが作品中の大きな見せ場となり、われわれ観客も「欺かれる」快感に酔ってしまう…というわけ。偽装のテクニック、鮮やかさは、ほかのアクション大作とは明らかに別次元で、そこに「M:I」の魅力を見つけることができる。

第1作から、イーサンがマスクで老人になりきり、情報を聞き出すなど多用される「変装」は、マスクの製造プロセスを描いたりと(第3作)、シリーズの“お約束”としてストーリーを盛り上げてきた。そのほかにも「偽装」のテクニックが要所で効果的に使われ、横取りされた機密ディスクに対して、イーサンがマジックのような手さばきで相手に偽物だと信じこませ、取り返す第1作から、シリーズの見どころになってきた。

この「変装」と「偽装」で、最新作で重要な役割を果たすのが新登場のグレース。あらゆる情報にアクセス可能なAIをコントロールする2つの鍵。その争奪戦を描くうえで、スリを得意とするグレースは最適キャラ。彼女がマスクの変装で鍵を手に入れようとするクライマックスの攻防は、まさに「M:I」シリーズの醍醐味だろう。

またストーリーの魅力として、回を追うごとに増してきたのが、エモーショナルな展開だ。衝撃のエピソードが用意されたのは第3作で、イーサンの教え子リンジーが敵に拉致され、なんとか救出するも、頭に仕掛けられた小型爆弾が爆発。こうした突発的な悲劇がたまに起こるので、シリーズファンも新作を観ながら「今回は誰かが犠牲になるのか?」という緊張感を強いられる。特に女性キャラクターが悲劇のターゲットになる傾向が大きく、イーサンと彼女たちの関係性がより胸を締め付けることに。新作でも、宿敵となるガブリエルが、30年前にイーサンにとって最愛の女性の命を奪ったことが明かされ、さらに現在の大切な仲間である女性がイーサンの目の前で最期を迎えるという、ショッキングなシーンも用意される。こうした運命を自覚するイーサンが元妻ジュリアをあえて遠ざけるなど、その悲壮な決意がサブストーリーとして効果的に活きている。

一方で、メインのストーリーがどっしりと中心に位置し、余計な横道にあまりそれないのも「M:I」シリーズの特徴で、特に最新作では「2つの鍵を手に入れる」という任務に徹底して集中。悪い言い方をすれば「ストーリーがあまり進まない」のだが、にもかかわらず2時間43分、まったく飽きさせず、一瞬の出来事のように映画が終わる。サービス精神が旺盛すぎて、散漫になりがちなアクション大作も見受けられるなか、ストーリーへの「集中力」こそ本シリーズの持ち味だと、この最新作は教えてくれた。

■画面、音響、体感…どれを選んでも最上級の没入感「映画館で味わうべき映画」(映画ライター・神武団四郎)

秘密組織IMFが活躍する「M:I」シリーズのキモが、トム・クルーズのアクション&スタントであることに異論はないだろう。スタントマンを使わず超高層ビルの外壁をよじ登った第4作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)以降、クルーズCGIに対抗するかのように生身の過激なスタントを連発。毎作のように、撮影中のケガを含め命がけの舞台裏が大きな話題を呼んでいる。今作でも、高さ1,200mもの絶壁から助走を付けたバイクでジャンプする、猛スピードのスカイダイビングが公開前から大きな話題になった。

本作はタイトルに「PART ONE」とあるように二部作。前篇にあたる今作は、込み入ったストーリーは絡めずにアクション&スペクタクルで押しまくる純度の高いジェットコースタームービーになっている。ベーリング海での潜水艦シーンで幕を開け、暗殺グループと激しい銃撃戦を繰り広げるイエメン国境付近の広大な砂漠、三つ巴の追走劇を展開するアラブ首長国連邦アブダビ空港の世界最大のターミナルなど、広大な空間を体感させる見せ場が次から次に登場。画作りも観客を包み込むようにデザインされているので、かつてない没入感が味わえる。アブダビからローマに移ると、狭い路地をバイクや車で駆け抜ける過激なカーチェイス、続いて幻想的な夜のヴェニスの街角で格闘戦と多彩なシチュエーションが楽しめる。どれもロケーションを活かしているうえ、銃、車、格闘、ナイフなどアクションのスタイルも変えるサービス精神は嬉しい限りだ。

本編の締めを飾るのが、雄大なアルプスを背にしたスペクタクル。バイクイーサンのスカイダイビング、続くオリエント急行車内の攻防戦&バトルはクライマックスにふさわしい見せ場になった。特に1両ずつ崖から落下していく列車内を必死でよじ登っていくスリリングな脱出劇は、思わず「あ!」と声が出そうなくらいの臨場感。「アトラク的」どころか「アトラク越え」のスリルが堪能できる。ローマでのカーチェイスもそうだが、アニメか?と言いたくなるほどあり得ないアクションを実写で、しかも生身でやってしまう姿勢は感動的だ。

そんな本作のアクションはIMAX認定カメラで撮影されている。スクリーンのアスペクト比(縦横比)はIMAX特有の縦に広いフォーマットではなくワイドなシネマスコープだが、クルーズたち作り手の思いをストレートに感じたいならIMAXシアターを選びたい。ただしシリーズ屈指の臨場感度が味わえる本作、とにかく迫力ある映像を!という人にはScreenXがオススメ。正面だけでなく左右の壁までスクリーンが広がる破壊力は格別だ。アクション満載の本作をアトラク的に楽しむなら風やミスト、動くシートなどエフェクトで登場人物と一体化できる4DXがぴったり。とことんアトラクを極めたいなら、よりエフェクトの多いMX4Dのチョイスもアリだ。一方サウンドを極めたいという人はドルビーシネマをチェックしたい。本作は『トップガン マーヴェリック』でオスカーに輝いたチームが音響効果を担当。ドルビーシネマなら、爆音など大音響から格闘戦での息づかいまでリアルなサウンドが堪能できる。画面、音響、体感とどれを選んでも最上級の没入感が味わえる本作は、「映画館で観るべき映画」にこだわり続けるトム・クルーズの真髄が詰まった作品なのだ。

構成/編集部

動員200万人を突破し、大躍進が続く『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』/[c] 2023 PARAMOUNT PICTURES.