宮藤官九郎が企画・監督・脚本を務めたドラマ「季節のない街」が8月9日よりディズニープラス「スター」にて全10話一挙配信スタートした。宮藤が長年温めていた企画だという本作の魅力を、第1話のレビューや視聴者の反応も交えて紹介する。(以下、ネタバレを含みます)

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■「季節のない街」とは

同作は、山本周五郎の同名小説をベースに連続ドラマ化。12年前に起きた“ナニ”の災害で建てられた仮設住宅を舞台に、18世帯のワケあり住人たちを描く青春群像エンターテインメントとなる。

原作小説は、1970年黒澤明監督が「どですかでん」のタイトルで映画化したことでも知られており、映画は1972年の第44回アカデミー賞外国語映画賞(現・国際長編映画賞)にノミネートされた。大学生の時に黒澤監督作品をまとめて見たという宮藤は同作の印象が残り、原作小説も読破。その後も何かあるたびに映画を見たり、小説を読んだりしていたという。

そして大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(2019年、NHK総合ほか)の脚本を書き終えたあと、所属会社の社長に次にやってみたいこととして、原作小説の映像化を願い出た。その念願がかない、脚本のみならず、全10話のうち5話で監督も務めている。

■原作小説&黒澤映画を宮藤ワールドへ

原作小説が書かれたのは1962年、黒澤監督による映画が劇場公開されたのは1970年。小説では周囲から取り残された別世界のような、誰もがその日暮らしに追われる貧しい「街」の住人たちの悲喜こもごもをつづる。映画では、がれきの山がある様子でその貧しさを視覚化した。

約60年前の物語となるわけだが、それを宮藤は現代に置き換えた。電子マネーが普及し、Wi-Fiもある。その中で、月収12万円を超えると仮設住宅を即刻立ち退きというルールがあり、そこで暮らす人々はギリギリの生活を送っているということで原作の世界観を漂わせる。

宮藤は劇団☆新感線タッグを組んだ舞台「メタルマクベス」で、シェイクスピアの超有名な原作を、メタル音楽を加えて80年代と近未来が交錯する世界へと脚色した。シェイクスピアの薫りを残しつつの見事な転換に感服するばかりだ。

本作では、仮設住宅が設置されるきっかけとなった災害は“ナニ”と表現し、明言はされないが、日本各地で起こった、また今後も起こりえることとしてイメージができる。それが仮設住宅で暮らさなければならなくなった確固たる理由で、そこで独特のコミュニティーが形成されることも。宮藤の再構築する力が存分に発揮されている。

■豪華俳優陣が紡ぐ人間ドラマ

一応順番は付いているが、何話から見ても楽しめるような構成になっているのも特徴的な本作。第1話の「街へいく電車」は、“半ズボンの男”が“白ズボンの男”に案内されて仮設住宅にやって来るところから。すると、住宅の一戸から男が女に「帰ってくんなよ」と投げ出される。投げ出された男を演じるのは荒川良々、女を演じるのはMEGUMIだ。何を言っているか分からない荒川のおかしみの宿った演技が光る。荒川は、宮藤と同じ劇団の大人計画に所属。これまでも多数の宮藤作品に多数出演もしており、信頼関係はいうまでもなく、宮藤の世界へと視聴者を誘う。

半ズボンの男は、本作の主人公・田中新助(池松壮亮)で、のちに半ズボンにちなんで“半助”というあだ名で呼ばれるようになる。実は半助も被災者だ。白ズボンの男は、半助に仕事を依頼する三木本(鶴見辰吾)。その仕事は、三木本に聞かれたことを報告するというもので、ちょっと怪しい感じだ。

そんな半助の目線で住人たちが語られていくのだが、第1話で焦点が当てられるのは“半助”と名付けた六ちゃん(濱田岳)。六ちゃんは、天ぷら店を営む母・くに子(片桐はいり)と2人暮らし。毎日、他の人たちには“見えない”電車の運転手として仮設住宅の敷地内を「どですかでん」と走行音を口ずさみながら走り回り、“電車ばか”といわれている。そんな六ちゃんをくに子は心配し、毎日祈りをささげるが、六ちゃんは逆に母のことを祈る優しさを持つ。

六ちゃん役は、宮藤が濱田に「ぴったり」とオファーしたというが、見えない電車を整備する姿は見えないのに見えたと感じる濱田の演技のすごさが味わえる。

あることで疑われて警察に連行されそうになった六ちゃん。そこに、住人たちがわらわらと出てきて、口々に「どですかでんって走ってたよ」と証言するのだ。無関心のように描かれていたが、日常になっていただけ。

このエピソードから群像劇としての今後の展開に期待が高まる。それを紡ぎ出すのは、三浦透子、高橋メアリージュン、ベンガル、坂井真紀、藤井隆ら早々たる面々だ。そして、けん引するのは、半助と、半助を青年部に引き入れるタツヤ(仲野太賀)と酒屋の息子のオカベ(渡辺大知)。3人の青年が主体になるというと、宮藤の大ヒットドラマで続編映画の公開が控える「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系)をほうふつとさせる。

■皆川猿時が半助の飼猫・トラの“外の姿”に

また、前田敦子が元ご当地アイドル役に、宮藤や荒川と同じ大人計画所属の皆川猿時が半助の飼猫・トラの“外の姿”を演じるというのも、宮藤らしい展開が待っていそうではないか。これまでドラマ、舞台、映画とたくさんの作品を発表してきた宮藤だが、そんな彼のキャリアスタートに深く関わる原作だけに、その根底にあったものを詰め込んだ面白さに出合えるはずだ。

1話は約30分ずつ。全10話一挙配信されているが、SNSには「どんどん観たくなっちゃうけどもったいない」という声や、一話視聴時点で「傑作の予感」との感想も。稀代のヒットメーカーが長年温めてきた作品とあって「期待通り」「面白い」と、称賛の声が上がっている。

◆文=ザテレビジョンドラマ部

宮藤官九郎念願のドラマ「季節のない街」が配信スタート/※提供写真