当直中の性行為、懲戒解雇できますか? そんな質問が弁護士ドットコムに寄せられた。

相談者の職場には、宿泊を伴う当直業務がある。問題の人物は双方とも既婚者で、「状況証拠は十数回あり、現場を押さえてる証拠は2回分あります。1度注意されたものの、また繰り返した模様です」。

職場には「職場の名誉を棄損し、利益を害してはならない」「職場の秩序や規律をみだしてはならない」といった職務規定もあることから、相談者や同僚は懲戒解雇を含む処分を望んでいる。法的にはどう考えられるのだろうか。小田紗織弁護士に聞いた。

●「解雇は重すぎる」と判断された事例も

——職場での性行為により懲戒処分を受ける可能性はありますか。その場合、懲戒解雇もあり得るのでしょうか

社内不倫関係に周囲が気付いている場合、不安、不快ですし、従業員間の人間関係が悪化し、円滑・適正な業務に支障が生じると考えられるのもやむを得ません。

裁判では、不倫は不適切かつ損害賠償義務を負う民事上違法なものであり、会社が当事者を注意・指導するのは当然であるとしつつも、あくまでも私生活上の行為であることから、具体的にどういった処分が相当かは、個別事案ごとに慎重に判断されています。

——実際に裁判になることもあるのでしょうか

ある裁判では、会社が男性従業員を普通解雇したところ、男性従業員が会社に対し地位の確認等を求めた裁判(大阪地裁・平成28年5月17日判決)では、懲戒処分事由や配転事由には該当するが、解雇は重過ぎると判断されています。

この男性従業員は不倫相手のために勤務シフトの変更を行うなど不倫相手を優遇し、上司からこの点を注意されても従わず、また、会社のパソコンを利用して不倫相手と業務に無関係なメールを多数行っていました。さらには、不倫相手との交際上のトラブルから社内で不倫相手をビンタする、不倫相手に復縁を求めるメールを連続送信するなどしていました。

この事例で「解雇は重過ぎる」と判断された理由には、この会社は、人事異動により当事者が職場で接触することができないよう対応することも可能な規模であることが考慮されています。

●解雇が「有効」と判断されたケースとは

——解雇が「有効」とされることもありますか

昔の裁判例ですが、解雇が「有効」と判断されたケースもあります。

バス会社の男性従業員(運転手)が未成年の女性従業員(車掌)と不貞関係になり、女性従業員が妊娠、中絶、退職に至り、会社が男性従業員を普通解雇した事例(東京高裁 昭和41年7月30日判決)です。

会社従業員間の風紀を乱し、職場の秩序を破ることにより、不貞相手の女性従業員を退職させ、他の女性従業員の不安・動揺、求人についての悪影響を招来し、バス事業を営む会社の社会的地位、信用、名誉等を汚し、会社に損害を与えたとして、解雇は有効と判断されています。このように時代背景、業種、規模、当該当事者の職種、立場等によっては解雇も有効と判断されたケースもあります。

●相談者のケースは?

——相談者のケースでは、どのように考えられますか

このように事例を参考にして考えると、ご相談のケースで職場で性行為をしていたとしても、普通解雇が相当といえるかは、次のような事実があるかがポイントになります。

・会社の規模、他に会社内で接触することができないように対応する手段がないか
・人間関係へ実際に具体的な悪影響があったか(単に周囲が不快に感じているだけでは足りない)
・会社の業種から社内不倫、職場での性交渉により会社の信用が具体的に失墜したか

さらに、懲戒解雇となると、懲戒解雇と懲戒解雇事由が就業規則などで定められており(ご相談のケースでは職務規程はあるようですが、懲戒に関しては不明です)、懲戒解雇が相当であるという悪質な事情や事業への重大な影響があるかがポイントになります。ご相談の内容だけでは、解雇までは難しいという印象です。

ご相談のケースですと、職場内で当直業務中に職場で私的な行為に及んだ点で、減給又は戒告が相当ではないでしょうか。もちろん、就業規則に懲戒処分として減給・戒告が定められていることが必要です。

なお、公務員が職場内で性交渉をしたことが判明し、免職された事例がニュースになることがありますが、これは公務員は国民からの信用が重要であり、また、職場環境が国民の税金に拠るというところがポイントではないでしょうか。

【取材協力弁護士】
小田 紗織(おだ・さおり)弁護士
法科大学院1期生。「こんな弁護士がいてもいい」というスローガンのもと、気さくで身近な弁護士を目指し活躍中。
事務所名:神戸マリン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.kobemarin.com/

職場のW不倫カップルが当直中に性行為、十数回の証拠アリ 懲戒解雇できますか?