08年のリーマンショック後、ともに暴落した日米の株式市場。積極的な金融緩和を行ったアメリカは10年時点でリーマンショック前の水準にまで株価を戻したのに対し、弱気な日本がトレンド転換させるまでには長い時間がかかりました。本稿では、阿部智沙子氏の著書『最強の株の買い方「バーゲンハンティング」入門』から一部を抜粋し、日本株式市場のリーマンショックからの復活と再びの底割れ、その後「解散総選挙」を経ての完全復活までの道筋をたどりながら、“絶望”のマーケットにみられた「買い」検討可能なサインについてみていきます。

最安値からの反発の後、「その最安値が本物の大底か」を試す動きが出る

よく、「大底をつけるときには『コツン』という音が聞こえる」などと言われたりします。

しかし、実際に体感する音は、そんな可愛いものではありません。下落相場の最終局面では、最安値を更新した直後に強いリバウンドがあったり、それがすぐに強烈な下落に変わって最安値をさらに更新したりと、ドカドカ爆音を立てるかのように乱高下します。

後々になって「大底」と確定される最安値をつけた後でも、大リバウンドしたかと思えば、大きく下げて最安値水準まで戻してしまうケースが多く観測されます。ダブルボトムや逆ヘッド・アンド・ショルダーなど、チャートの教科書に出てくる底値圏形成パターンはその状態を指しています。

一旦反発した株価が、先につけた最安値水準をめがけて下げることは「安値を試しに行く動き」などと表現されます。要は、先につけた最安値が本物の大底なのか、それを確かめるかのような下落です。確かめに行った結果、先の最安値を下回ることがなければ、その最安値が大底である条件が取りあえずひとつ満たされることになります。

とはいっても、そこから本格的な上昇相場にV字型で転換するわけではありません。

日経平均株価のITバブル崩壊後のように、底打ちかと思われたダブルボトムを抜けて下げることもあります。また、それが結果的に大底圏を形成するパターンになったとしても、その後何度か安値を試す動きを繰り返し、なかなか上昇相場に転換しないケースが多いのが現実です。

そうした安値を試す動きは、株を買っている参加者にとって虚しい以外の何ものでもありません。何しろ、やっと株価が上向いて損益が改善してきた、と安心したのも束の間、それまでの上げ幅がチャラになってイチから出直しです。

それが一度ならず二度ならず、今度こそは、と期待しても裏切られるともなれば、凹みに凹まされて、果ては、心の糸が切れたような精神状態にもなります。

しかし、株を持っていない人からすれば、安値を試しに行く動きは大底圏で買える機会の再来にほかなりません。それが何度か繰り返されれば、大底圏で買値をしっかり固めることができます。しかも、「先につけた最安値」という下値の目印もあります。安値買いを堪能できる、大歓迎の局面です(図1)

米国市場は早々に好転。日本市場は延々と脆弱な相場が続く

リーマン・ショックの大暴落の後、09年から次の上昇相場が始まるまでの約4年間が、まさにそうした状況でした。

08年10月27日まで最安値を続けていた日経平均株価はその後、乱高下しながらも反発の様相となっていましたが、09年早々に反落。その下落は08年10月の最安値とほぼ同水準で3月10日に止まり、ダブルボトム型のパターンを形成します(図2)。

そこから相場の好転を思わせる値動きにはなりますが、1万円に到達した途端に大きく下げる。その後、1万円を超えたところがまた大きく下げる。そこから何とか1万1000円を超えるまで上値を切り上げたところが、10年4月にギリシャの財政危機が欧州諸国に連鎖する懸念が拡がったことを背景に大下げ。ここから日経平均株価は上値・下値をジワジワ切り下げる動きに変わります。

11年の東日本大震災時の急落はその直後に大きく戻していますが、大震災前の高値には届かず下落再開。脆弱きわまりない動きは11 年終盤まで続いています。

米国市場を見てみれば、そのときには不安定ながらも上昇トレンドの様相です(図3)。大下げする場面があっても、下値を切り下げずに反転し、上値を切り上げる。10年時点で08年7月の水準にまで到達しています。この頃、「米国が下げれば日本も下がる。米国が上げても日本は下がる」とよく言われていたものです。

なぜ日米がこうも違っていたのかといえば、やはり経済・金融政策の差でしょう。

09年以降、なりふり構わず金融緩和政策を強力に推し進めていた米国に対して、当時の白川方明日銀総裁はそれほど金融緩和に積極的ではない。むしろ、デフレ脱却に向けた金融緩和に消極的と受け取られかねない見解もありました。

この温度差は、日米金利差縮小要因であり、ひいては円高ドル安要因です。実際に、ドル円レートは11年10月に75円台をつけるという超円高になっています。これが株安の大きな背景です。

少々話が逸れますが、この超強い円で米国市場のS&P500を換算してみたのが図4です。日経平均株価に比べればまだいいとしても、魅力的な動きとは到底言えません。米国市場が上昇トレンドの様相になっていても、円高ドル安のもとで米国市場に投資するとこうした結果になります。

勢いある上昇は3ヶ月にして終了。TOPIXは“リーマン”最安値割り込む

ドル円レートが75円台をつけた後、円安ドル高方向に戻す動きが出ます。と同時に、日経平均株価の脆弱な動きにも変化の兆しが現れました。その変化が誰の目にも明らかになったのが12年1月です。

市場全体が“押し目待ちに押し目なし”のような勢いで上昇し、3月には大震災後の戻り高値を超えるに至っています。10年4月以降、前につけた高値を上回ったのはこれが初めてです。

このとき「長年待っていた夜明けがついに来た。ここから本格的な上昇相場が始まる!」と確信し、心を踊らせた人も多かったことでしょう。

ところが、4月に入るとその勢いが幻だったかのように消え失せてしまいます。

5月には下げが加速し、6月4日日経平均株価は1月の上昇スタート地点まで全戻し。本格的な上昇相場への転換を確信していただけに、それが超絶な“ぬか喜び”に終わったショックは甚大でした。このショックにさらに拍車をかけたのがTOPIXです。TOPIXは4月からの下落が強烈で、全戻しどころか、こともあろうに09年3月につけたリーマン・ショック時の最安値をわずかながらも6月4日に下回ってしまったのです(図5)。

「明けない夜があるのではないか」と本気で考えたのは、忘れもしない12年6月4日のことでした。

最安値を下回るというのは、下降トレンドがまだ継続している、下落相場が再開することを示唆します。ここからリーマン・ショックの下落相場が再開したら、どこまで下げるのか。日経平均株価は5000円で済まないのではないか。そのとき個別銘柄の株価はどういうことになるのか。自分の損益がどうのこうのはもはや通り越して、もう絶望。日本の株式市場に何の希望も見出せない。

言いようのない虚無感に襲われたことをいまでも時々思い出します。

「解散」「総選挙」で夜が明ける以前に現れていたささやかな吉兆

「夜明け前が一番暗い」という相場の格言がありますが、後になって振り返れば、TOPIXの最安値がまさにその夜明け前だったようです。

その後、日経平均株価もTOPIXも不安定ながら安値を更新することはなく、底這いのような動きになります。この底這い状態の結末がはっきりと見えたのは5ヶ月後。

11月14日、当時の民主党代表・野田佳彦内閣総理大臣安倍晋三自民党総裁との党首討論で、衆議院議員削減法案に賛同してもらえるならば16日に衆議院を解散する考えがある、と表明する大サプライズ。

これが伝わった翌15日から日経平均株価は連続ギャップアップで上昇し、総選挙前日まで上値を切り上げ続けます。

12月16日に行われた総選挙自民党が圧勝。「選挙が終われば上昇も一服だろう」との見方も出ていましたが、選挙結果が出た後も、押しをはさみながらの上昇基調が続き、大納会高値で12年を終えています(図6)。

株式市場がどれほど「解散」「総選挙」を待ちわびていたか。11月15日以降のギャップアップに次ぐギャップアップは、それが現実になった歓喜そのもののようではありませんか。  

そして13年はご承知の通り、安倍新政権のもと勢いのある上昇相場で始まっています。

苦渋に満ちた4年間、株式市場の暗黒時代はこうして幕を下ろしました。その一番の立役者は、やはり、大惨敗を覚悟のうえで解散を決断した野田総理大臣でしょう。

もっとも、暗黒時代とはいっても、株を持っていない人にとってはこの時期こそが願ってもない好機でした。「一番暗い夜明け前」の6月4日から底這いの動きをしていた場面が、大底圏で買う最後の機会となっています。

実際にそこで買いに出ることができたのか、と言えば、冷静に市場を見ていた人ならば十分なし得たと思います。

というのは、日経平均株価やTOPIXが脆弱きわまりない動きをしていた時期、そして12年6月に日経平均株価は年初からの上げ幅を全戻し、TOPIXは“リーマン”時の最安値を割り込むという極めてネガティブな展開となっていたときに、株式市場の中には前向きな兆しが現れていたからです。

そのひとつが、またしても東証2部指数です(図7)。09年3月以降、この指数も日経平均株価やTOPIXと同じように、上げては戻す動きを繰り返していましたが、東日本大震災時の大下げを除けば、下値は切り下がっていません。

その一方で、上値はわずかずつながらも切り上がっています。さらに、12年4月からのショック甚大な下落局面では、その前の安値、11年11月の2046ポイントよりも高い位置で下げ止まっています。この時点で、上値・下値が切り上がるという、上昇トレンドへの転換を示唆する形になっています。

6月4日に全戻しとなった日経平均株価は、場合によってはさらに下げたかもしれません。TOPIXは、結果としては09年3月安値と12年6月安値がかなり期間をおいてのダブルボトム型になっていますが、これも場合によっては底割れして最安値を更新していたかもしれません。

しかし、そのとき決して市場全体が総崩れになっているわけではない。市場の中心ではない、中小型株・新興株に明るい兆候が現れている状況ならば、仮に日経平均株価やTOPIXが底割れして下げたとしても、もはや下値は限定的と見込むことができます。買いに出ることを大いに検討していい場面です。

なお、非常に残念なことに、市場の実態を知る貴重な手掛かりを与えてくれていた東証2部指数は、新市場区分移行によってこの世から姿を消してしまいました。また、後に出てくる日経ジャスダック平均も、東証2部指数に勝るとも劣らない、市場実態に近い値動きをする実感の強かった指数ですが、ジャスダック市場の廃止にともない算出終了となっています。

指数を算出していた東京証券取引所や日本経済新聞社としては、対象市場が廃止されたのだから株価指数をなくすのは当然と、何ら躊躇することなく算出を終了したと思います。しかし、相場情報としての有用性という観点からすれば、歴史と実績を持つこの2つの株価指数が葬り去られた損失は計り知れません。

新市場区分移行後、東証2部市場とジャスダック市場に上場していた銘柄の大半は東証スタンダード市場に上場しています。その東証スタンダード市場指数は22年6月27日からまともに4本値が算出されるようになり(それ以前は16時に引け値だけを公表するという、株価指数としてはちょっと信じ難い算出でした)、これが東証2部指数と日経ジャスダック平均の代替になることを期待していたのですが、どうも違うようです。

まだ新市場ができてから1年も経っていないので断言はできませんが、東証スタンダード市場指数は、東証プライム市場指数に近い値動きになっています。

おそらく、日本オラクル(4716)をはじめ、時価総額の大きい旧東証1部上場銘柄が複数、東証スタンダード市場に入ってきたからでしょう。これらの旧東証1部上場銘柄がTOPIX構成銘柄であることも関係していると思われます。