平均よりもだいぶ多い年金を受け取り、貯蓄も十分。人生の最期まで勝ち組確定のエリートたち。しかし、そのようなエリートのなかには、70代、80代になってから転落してしまう人も珍しくないとか。なぜ余裕のはずの老後が一転、破産へと向かってしまうのか、みていきましょう。

年金受取額も貯蓄額も上位10%に入る「超エリートたち」

老後の生活を支える「年金」と「貯蓄」。厚生労働省令和3年厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金受給者の平均年金受給額は14万5,665円。その分布をみていくと、月受給額が21万円以上が全体の10.67%、月受給額が22万円を越えると7.0%。年間で250万~264万円、このあたり年金受給額になると、元・サラリーマンの上位10%となります。

一方で、「貯蓄額」の上位に入るのは、どのような人たちなのでしょうか。

総務省『家計調査 貯蓄・負債編』(2022年平均)によると、二人以上世帯の平均貯蓄額は1,975万円、中央値は1,168万円。さらに上位25%が2,585万円、上位10%になると4,634万円となります。

年金は毎年250万円以上を受け取っている、さらに貯蓄は4,600万円以上ある……これが年金の受取額も、貯蓄額も上位10%に入る、「エリート」や「勝ち組」といった称号とともに語られる人たちです。

年金受取額「年250万円以上」…現役時代の驚愕の給与額

年金を年250万円以上を手にする人たちの現役時代の給与を考えてみましょう。年金250万円ということは、国民年金部分を引いた厚生年金部分は170.8万円になります。

厚生年金は、加入期間が2003年3月までは①「平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数」、加入期間2003年4月以降は②「平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数」で計算。簡易的に計算すると、20歳から60歳まで働いたとして平均標準報酬額部分は65万円ほど。

現在、標準報酬月額(給与の額)は32等級に分かれ、最も上の32等級は65万円で月収63万5,000円以上が対象。つまり年250万円以上の年金を受け取る人は、会社員時代通して、月63万5,000円以上稼いでいたという、トップの中のトップだということです。普通の会社員からすると、少々浮世離れした世界の話になります。

エリートなら全員「老後の準備が完璧」というわけではない

圧倒的、エリートであり、勝ち組である人たち。その老後も「さぞかし余裕なんでしょうね」と、少々嫉妬混じりに聞いてみると、必ずしも「そうですね」という答えがあるわけではありません。

総務省『家計調査 家計収支編』で、高所得者の家計収支を確認すると(図表)、どの年収帯の消費支出をみても、世帯主の給与の手取り以上に消費していることが分かります。たとえば、世帯主の月収が65万~70万円の世帯(世帯主平均年齢50.3歳)であれば、1ヵ月に47万円程度の支出があるのが平均値です。

ただ、いつまでも高収入を保てるわけではありません。定年時には雇用形態や給与形態が変わり、給与は平均3割減。さらに完全に現役を引退し、年金生活に入った際にも、収入は3割減となります。月に47万円を消費する生活を続けたとすると、年金250万円、貯蓄4,600万円あったとしても、早々にお金が尽きてしまうのは明白。毎年の赤字額は314万円となり、貯蓄は15年もたず……80歳を前にして底をつき、老後破産を迎えます。

――そんな子どもでも分かるようなこと起きるわけがない!

――普通、高所得者なら不動産などの副収入があるだろう

そのような声も聞かれますが、その通り。たいていは収入減に向けて、少しずつライフスタイルの見直しを図ったり、消費欲を支えるだけの準備をしたりするものです。

しかし、なかには、一度上げた生活水準を下げることはできず、さらに預貯金以外に準備もなしという、なんとも残念なエリートの姿もチラホラ。このような場合、勝ち抜け確定かと思いきや、むしろ老後破綻確定なのです。

もちろん、老後を見据えたライフスタイルの見直しは、エリートに関わらずしなければならない必須事項。50代を迎えて、いよいよ現役引退後の年金生活がみえてきたら始め時です。まずは現段階のお金の流れを洗い出し、見直しを図っていく……悠々自適な老後を手に入れるためにも、長期的に取り組むのが正解です。

(写真はイメージです/PIXTA)