「もしやスペイン、助かっちゃった?」そんな風に私が肩をすかされていたのは金曜日、午前3時から女子W杯準々決勝を戦ったスペインオランダを延長戦で破った後、日本がスウエーデンに1-2と惜敗してしまったのを知った時のことでした。いやあ、グループリーグ最終節では4-0と日本女子にボロボロにされていたスペインですが、16強対決のスイス戦では見事に1-5のgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)勝利体質が復活。オランダ戦でもよく攻めて、いえ、前半はアルバ・レドンド(レバンテ)のヘッドがポストを直撃した後、35分にはエステル(レアル・マドリーと契約終了)のラストパスをアルバがゴールにしたものの、エステルオフサイドだったため、得点にはならなかったんですけどね。

後半にはパレデス(バルサ)がベーレンステイン(ユベントス)をエリア内で倒したとして、一旦はペナルルティとされながら、VAR(ビデオ審判)により撤回。ラッキーにも失点から逃れると41分にも再び、VARの恩恵を受け、サルマ(バルサ)のクロスがエリア内でヴァン・デル・グラクト(アヤックス)の腕に当たったプレーでPKをもらうことに。これをマリオン(バルサ)がしっかり決めてくれたため、そのまま1-0で勝つのかと思いきや、ロスタイム1分にグラクトに汚名返上の同点ゴールを挙げられて、まさかの延長戦に突入したんですが、大丈夫。

延長戦後半終了4分前、ロングボールを追ったサルマが決勝点を決め、2-1で勝利したスペインは来週火曜午前10時(日本時間午後5時)から、オークランドのエデン・パークで女子代表史上初の準決勝をプレーできることになったため、もしかしたら日本とのリベンジマッチは私も快適な時間帯に見られるかもしれないと思っていたんですが、まさか相手がスウェーデンになるとは!もちろんスペインにしてみれば、同じヨーロッパの代表の方が慣れているだけにやり易いところもあるはずですが、延長戦を戦った後で中3日の試合。決勝トーナメントに入ってから、スタメン変更がバッチリ当たっているビルダ監督も今度はちょっとメンツ選びに苦労するかもしれませんね。

まあ、そんなことはともかく、いよいよリーガ23-24シーズン開幕の週末が到来したんですが、よりにもよって、こんな時期に最悪の不幸に襲われたチームがあるんですよ。それはマドリーで何と、木曜のバルデベバス(バラハス空港の近く)での練習で絶対守護神クルトワが左ヒザ靭帯を断裂してしまったから。いえまあ、金曜の試合前日記者会見でアンチェロッティ監督は、「Seguiremos con Lunin porque tenemos confianza en él/セギレモス・コン・ルニン・ポルケ・テネモス・コンフィアンサ・エン・エル(ルニンを信頼しているから、彼を使い続ける)」と何度も繰り返して、当面は第2GKをスタメンで使い、クルトワの代理GK電撃獲得は否定していたんですけどね。

問題はそのルニンだって、ケガする可能性があるだけでなく、この土曜午後9時30分(日本時間翌午前4時30分)にプレーするアスレティック戦の招集リストに入った控えGKは元マドリーバレンシアのGKだったサンティ・カニサレスの息子、RMカスティージャの第2GKルカ・カニサレス21才とフベニルB(上から4番目のユースチーム)のフラン18才だということ。そう、1部経験のない若い子たちにいざという時、マドリーのゴールを任せて、アンチェロッティ監督は本当に平気なのかってことですよ。

ルニン自体にしても、これまでマドリークルトワのparadon(パラドン/スーパーセーブ)で救われてきた試合が幾つもあるため、同じことを期待するは酷ですしね。そのため、世間は夏の移籍市場が閉じる前にマドリー入りする候補をボノ(セビージャ)、ママルダシビリ(バレンシア)、デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッドと契約終了)、ケパ(チェルシー)、ダビド・ソリア(ヘタフェ)、ケイロル・ナバス(PSG、昨季後半はノッティンガム・フォレストにレンタル)と思いつく限り並べることに。一応、クルトワも手術を受けて、6~8カ月後、3月とか、4月には戻るかもしれないため、油の乗り切ったGKはそこから控えになるのは嫌でしょうしね。そう簡単には決まらないかもしれませんね。

ちなみに開幕戦に出られないマドリーの負傷者は他にもいて、アメリカツアー中、お留守番していたセバージョス、ダラスのクラシコ(伝統の一戦)で負傷したメンディ、そして途中でマドリッド送還となったギュレル(フェネルバフチェから移籍)なんですが、18才のトルコ人選手には更に悪いニュースも。そう、部分断裂したヒザの半月板を保存療法で治す方針だったのが、改善が見られないため、手術することになったからですが、その方法によってはリハビリに何カ月も必要なのだとか。7~8週で戻れるコースもあるみたいですけどね。まだ若いんですから、ここはしっかり治しておいた方が先々のためになるかと。マドリーの中盤はクロースモドリッチがアスレティック戦の先発予想から外れるぐらい、チュアメニ、バルベルデ、カマビンガ、ベリンガム(ドルトムントから移籍)らで充実しているだけに全然、焦る必要はありませんって。

そしてアンチェロッティ監督が、「プレシーズンにはシュート精度が欠けていたが、夏場はFWにまだフレッシュさがないだけだ。Arriba estamos muy bien, tenemos opciones/アリバ・エスタモス・ムイ・ビエン、テネモス・オプシオネス(前線の状態はとても良くて、オプションもある)」とベンゼマ(アル・イティハド)の代わりに背番号9を着ける選手の補強も否定したため、ますます世間はエムバペ(PSG)を忘れることになったんですが、いやあ。クルトワの神の手が当てにできないとなると、結果的にマドリーは昨季以上のゴール量産をしないと勝てなくなりそうな気もしますが、とりあえず、土曜のサン・マメスでのお手並み拝見といったところでしょうか。

一方、日曜午後9時30分にコリセウム・アルフォンソ・ペレスバルサを迎える弟分のヘタフェでは開幕直前にこの夏、入団したばかりのアルティミラ(サダベルと契約終了)をベティスが契約破棄金額の150万ユーロ(約2億4000万円)を払って、横取りするという出来事が。これには金曜に会見したボルダラス監督も「満足していたし、期待もしていたから、ha sido un palo gordo que se haya marchado/ア・シードー・ウン・パロ・ゴルドー・ケ・セ・アジャ・マルチャードー(彼の移籍は大きな打撃だった)」と嘆いていたんですが、確かにアルティミラはプレシーズンマッチでも2得点している21才の将来有望なMFでしたからね。

おまけにベティスはアンデレテも狙っているそうで、木曜にはアルゴビアも2部のレバンテに移籍。都合、8人退団、新戦力は3人だけとなると、ボルダラス監督だって、「昨季は沢山、補強したが、残留が決まったのは最終節だった。今季はもっと難しいだろう。Por lo tanto, no nos fijamos objetivos tan altos/ポル・ロ・タントー、ノー・ノス・フィハモス・オブヘティボス・タン・アルトス(だから、ウチはあまり高い目標は掲げない)」となってしまうのは仕方ない?どうやら昨季王者のバルサの方は金曜に新たなpalanca(パランカ/梃入れ)が成立。リーガのサラリーキャップのせいで木曜まで11人しかいなかった登録選手がギュンドガン(マンチェスター・シティと契約終了)、オリオル・ロメウ(ジローナから移籍)以下、アラウホ、セルジ・ロベルト、イニャキ・ペニャ(契約更改組)とだんだん、増えていっている様子ですからね。

ただ、ヘタフェも最後のプレシーズンマッチ、フィテッセ戦に4-1で勝利と感じは悪くなかったため、いくらチャビ監督のチームが火曜にガンペル杯で今季、全面改装に入ったカンプ・ノウの代わりにホームとなるオリンピック・スタジアムで新チームをお披露目。ハリー・ケーンの出ないトッテナムに4-2と快勝していたとて、恐れることは決してありませんが、コリセウムに3000人しか観客のいなかったフィテッセ戦と違い、バルサ戦はすでにチケット完売っていうのは、ヘタフェファンがチームの応援に駆けつけるのか、バケーションでマドリッドに来ている観光客なのか、ちょっとわかりませんよね。

え、それで月曜午後9時30分から1節のトリを務めるアトレティコはどうしているんだって?いやあ、2週間の世界一周ツアーから戻って、水曜からマハダオンダ(マドリッド郊外)の練習場で猛暑の中、練習を再開。木曜はダブルセッションという、熱中症が多発しそうなことをしていたんですが、実労戦力は変わっていません。ええ、お留守番をしていたヒメネス、モリーナ、そして長期リハビリ中のレイニウドはまだグラウンドには姿を見せず、金曜の練習試合ではジョアンフェリックスが混ぜてももらえなかったという情報も。うーん、いくら移籍を本人もクラブも望み、先日のマルカ(スポーツ紙)のインタビューではシメオネ監督にも「yo no voy a hablar más de Joao de lo que ya dije/ジョ・ノー・ボイ・ア・アブラル・マス・デ・ジョアオ・デ・ロ・ケ・ジャー・ディヘ(今まで言ったこと以上のことをジョアンについては話さない)」とまで言われてしまった彼ではあるんですけどね。

ただ、さすがにここまで来ると気の毒だなと私が思ったのはこの夏、3回目となるジョアン背番号変更で、最初はグリーズマンバルサからUターンしてくる前に着けていた7番を取り返し、空いた8番を同様にチェルシーレンタル移籍する前に着けていたサウールが取り戻すことに。そこでツアー中は17番をもらっていたんですが、いえ、結局、ケガや何だかで、プレシーズンは1試合もプレーしていないんですけどね。この開幕前にはそれをハビ・ガラン(セルタから移籍)と取り替えて、最後は18番になったって、これって、万が一、移籍前にジョアンアトレティコユニを買っておきたいと思う奇特なファンがいたら、困ってしまわない?

それよりもっと深刻なのは木曜にアトレティコのユニの正面にあるロゴのスポンサーがホェールフィン(中国の仮想通貨業者)から、リヤド・エアー(サウジアラビアの第2フラッグキャリア、営業開始は2025年)に代わったことで、何せ、今まで今季の赤白ストライプがうねらなくなった新ユニは可愛い鯨のロゴ付きで販売していましたからね。この先、違うマークのものしか買えないとなると、鯨の入った今季ユニはプレミアム物になって、凄い高値がつくんじゃないかと想像しちゃうんですが、実は昨夏に結んだホェールフィンとの契約も元々は5年。経営悪化による撤退らしいですが、まだ運航もしていない航空会社っていうスポンサーもちょっと不安かもしれませんね。

そしてレンタル移籍先のアラベスで腓骨骨折と足首脱臼の重傷を負い、手術を受けた三男のジュリアーノをビトリアの病院までお見舞いに行っていたシメオネ監督の今季の推しはモラタで、同じインタビューでは「Morata es el más 9 de todos y lo necesitamos./モラタ・エス・エル・マス・ヌエベ・デ・トードス・イ・ロ・ネセシタモス(モラタはチームの誰よりCFで、ウチは彼を必要としている)」と移籍の可能性をきっぱり否定。18ゴールは挙げないといけないとも言っていたんですが、これはオフサイドのルールが変わるまで難しいかも。何はともあれ、月曜に1部最短Uターンをしたグラナタを゛シビタス・メトロポリターノに迎える試合までには無事にソユンチュ(レスターシティと契約終了)の選手登録も完了して、「Jugar bien es ganar. El resto son párrafos de mentiras/フガール・ビエン・エス・ガナール。エル・レストー・ソン・パラフォス・デ・メンティーラス(いいプレーというのは勝つプレー。他は皆、ウソの言葉だ)」という、シメオネサッカーを披露してくれといいのですが。

そうこうするうちに金曜午後7時30分から開幕節のトップを務めたラージョのアルメリア戦が終わり、いえ、やはりRdT(ラウール・デ・トマス)のケガが治るにはまだ時間がかかると聞いて、ちょっと不安だったんですけどね。加えてプレシーズマッチ5試合連続で5得点したアルバロ・ガルシアがゴールを入れなかったにも関わらず、フランシスコ新監督のチームは0-2で今季初白星をゲットしたんですよ。ただ、その得点は前半20分にはイシが、28分にはエヌテカがPKで決めたもので、ルビ監督からビセンテ・モレノ監督になったアルメリアの自滅っぽくもあったんですが、何せ、昨季は散々、PKを失敗していたラージョですからね。

終盤にはRMカスティージャから700万ユーロ(約11億円)で移籍したばかりのアリバスまで投入してきたアルメリアに得点を許さず、零封できたのも、CBアリダネ(オサスナと契約終了)、左SBエスピーノ(同カデイス)ら新顔が加わった守備陣には朗報ですし、木曜にはコメサニャ(契約終了でビジャレルへ移籍)の代わりとして、キケ・ディアスモンティエルとのバーターでバジャドリーからレンタル移籍。あとはそれこそ、カメージョ(アトレティコ)が再レンタルで到着すれば、ラージョの補強は終わるようですが、その間も勝ち点を増やしていくのに越したことはありませんからね。昨季を限りにイラオラ監督が退団、ボーンマスに行ってしまった時はどうなることかと思ったファンもきっとこの調子なら、今季も気合を入れて、エスタディオ・バジェカスに応援に来てくれるんじゃないでしょうか。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。