フワちゃんのエンターテイナーとしての魅力をいち早く見出し、ブレイクのきっかけとなったYouTubeチャンネル「フワちゃんTV」を共に立ち上げたことでも知られる、放送作家・長﨑周成。

参考:【写真】長﨑周成の撮り下ろしカット

 YouTubeのみならず、地上波テレビ番組やNetflix Japanの番組、CM、お笑いライブなどメディアを横断し、あらゆるエンタメコンテンツの仕掛け人として活躍している。2020年には笑いの仕事を作るオンラインコミュニティ「WLUCK(ワラック)」を設立した。 

 学生芸人から放送作家になり、現在は自身の会社やコミュニティの運営にも携わる長﨑は、メディアの垣根がなくなった最前線のエンタメをどのように見ているのか。彼が考える「面白い」企画や、メディアミックスの未来について話を聞いた。

・アイデアには自信があったが、一番の演じ手は自分ではなかった

――長﨑さんは学生芸人として活動されていたそうですが、なぜ放送作家に転身しようと思ったのでしょうか?

長﨑周成(以下、長﨑):実は、最初から放送作家になりたかったんですよ。でも舞台に立っているのが面白くてやめられなくて、大学4年生になっても進路に悩んでしまって。周りは芸人として活動を続けていく人が多いので、「続けないの?」と言われてグラついていましたね。

――たしかに、学生ながら『M-1グランプリ3回戦に進出するなど結果を残していたことで、周りからも芸人としての活動継続を期待されていたかと思います。

長﨑:芸人を辞める判断として決定的だったのは、僕自身を面白いと思ったことがあまりなかったこと。自分が考えることの面白さにはわりと自信があったんですけど、それをいざ自分がやると途端につまらなくなると感じていたんです。

 当時周りにいた人が圧倒的に面白かったことも、僕が芸人を辞めた理由のひとつですね。大学時代ライブに一緒に出ていた霜降り明星や、ママタルトの檜原(洋平)、あとはYouTubeチャンネル「岡田を追え!!」の岡田康太さんとか。自分とは違って、表現者としてもめちゃくちゃ面白かった。「うわ~おもろ~」ってお客さんと同じように思ってましたね(笑)。

フワちゃんが世に出ていくための「パスポート」を作る

――フワちゃんとはなぜ仲良くなったのでしょうか?

長﨑:引きました。もともとギャルは不得手なので(笑)。でも、引いてる暇がないくらい衝撃的な距離の詰め方をしてくるんですよ。失礼なことも多分にありましたけど、それを「まあいいか」と思えるほど圧倒的な明るさを持っている。だから、出会ってすぐに「この人とは楽しい関係を築ける」と思いました。

――とはいえ、「友達として仲良くなれる」と「コンテンツとして面白くなりそう」はまた違うじゃないですか。「面白さ」を見出したのはどのような部分だったのでしょうか?

長﨑:当時すでに放送作家の仕事をやっていて気づいたんですが、芸人がテレビなどで世に出ていくためには「パスポート」のようなものが必要なんです。

――パスポートとは?

長﨑:モノマネでもギャグでも、キャラクター自体でも、世の中に覚えてもらいやすい印象的で説明がしやすい要素。でもフワちゃんって、それが言語化しづらかったんです。それでも魅力を感じられたのはなにか、パスポートとして提示できるものはなにかと考えたとき、フワちゃんのInstagramがすごく良いことに気づいたんです。

――どんな点が良かったのでしょうか。

長﨑:Instagramでフワちゃんが表現する「かわいい」を動画に落とし込んで、その編集のキャッチーさをフワちゃんの色としてやっていくことが、強い魅力になると思いました。そこには圧倒的な明るさと元気がある。クリエイターとしてのスキルと、本人が持つキャラクターのギャップが、テレビに出ていくためのパスポートになると思えたんです。

――本人のキャラクターが強いぶん、クリエイターとしての独創性もかなり求められると思いますが、クリエイターとしてのフワちゃんはどんな人だと思いますか?

長﨑:フワちゃんは自分の中に強いこだわりがある人で、それは今も昔も変わりません。YouTubeを始めたばかりのころ、予告編としてこれから出していくコンテンツのダイジェスト版を公開したんですけど、そこで紹介している動画のいくつかをお蔵入りにしていますからね。初心者YouTuberなのに(笑)。

――え、予告に入っているコンテンツをお蔵入りに?

長﨑:そうです。でも、たしかにそのコンテンツはあまり面白くなかった。僕としては、やりようによっては公開できると思ったんですが、フワちゃんはそこまでして出したいと思えるものではなかった。そういうことは以降もよくあるので、フワちゃんが「自分が心から面白いと思うもの以外は世に出したくないタイプ」だということはよくわかりました。

――そんなフワちゃんから、クリエイターとして影響を受けた部分はありますか?

長﨑:世の中のすごく面白いコンテンツには、「なんでこの企画が通ったんだ?」と思うものがあるじゃないですか。絶対に面白くなるけど説明が難しくて、どうやって厳しい大人のフィルターを突破してきたのかという意味で。

 そんなとき、アイデアを練ることで通過できる形にアレンジするとか、汗をかいて必死に通すとか、ちゃんと「こっちのほうが絶対に面白いからやるべき」という意志を貫くマインドは、フワちゃんから影響を受けていると思います。

・「面白い」が広く伝わるよう入念に会議を重ねる

――笑いの仕事をつくるオンラインコミュニティ「WLUCK」を始めたのはなぜですか?

長﨑:個人で活動をし続けてきて、実現できる企画の規模に限界を感じたんです。大きい企画に呼んでいただくことはあっても、自分発信でやりたいことをやりたい規模で実現することは難しい。そこで笑いに特化した「チーム」を作りたいと思ったんです。

――「笑い」を仕事にするにもいろいろあると思いますが、WLUCKではどのような取り組みをしているのでしょうか。

長﨑:WLUCKは「笑いの専門商社」のようなもので、お笑いに関する仕事であればなんでもやるスタンスではあります。前提としてお笑いが好きなメンバーだけが集まっていて、面白いことをしたいエネルギーが集中しているチームなので。

――「なんでもやる」と言いつつ、全ての企画を実施できるわけではないと思います。やる、やらないの判断はどのようにしているのでしょうか?

長﨑:まずはなんでも気軽に「面白いからやろう」で始めつつ、その「面白い」が広く伝わるよう入念に会議を重ねています。その過程で実施に至らなかった企画はありますね。面白さの伝え方、告知の仕方、芸人さんに楽しんでもらうための要素など、かなり話し合って作り込んでいるので。

――「『面白い』が広く伝わるよう入念に会議を重ねています」とのことですが、『AUN~コンビ大喜利王決定戦~』などのWLUCK主催ライブを拝見していると、ライブの演出自体はかなり芸人さんに委ねられていることを感じます。

長﨑:ライブは映像コンテンツと違って、あとから編集できるものではありません。だから現場で起きることは基本的に、運営が恣意的にコントロールするものではないと思っています。始まったらそこからは、芸人さん、お客さん、運営が三位一体で作っていくもの。それでも「コンビ大喜利王決定戦」という、自由に振る舞っても戻ってこられる軸があるようにはなっています。

――おのおの自由に振る舞いつつ、企画の軸に戻ってこられるのはなぜなのでしょう。

長﨑:やっぱり大会である以上、芸人の方々は「勝ちたい」という気持ちが乗っかっていると思います。どれだけ自由に振る舞っても、大喜利のお題が出た瞬間に皆さんの表情が変わるんですよね。貫ちゃん(高木 貫太/ストレッチーズ)も「AUNはコスプレ大会とガチ大喜利グラデーションなく行われる」と言ってました(笑)。皆さんがやりがいを感じて、楽しんでくださっていることを感じます。

・企画は「面白い」と同じくらい「らしさ」が大切

――長﨑さんが特にYouTube企画を考えるとき、重視しているのはどんな点ですか?

長﨑:YouTubeは「面白さ」と同じくらい「らしさ」が大事だと思っています。たとえばフワちゃんが「タピオカダイエット」企画をやりましたけど、同じことを他のYouTuberさんがやって面白くなるかといったら、フワちゃんよりもキャラクターにフィットしない可能性がある。

 その人がやるから面白いし、喜んでもらえる、そういう必然性が大事だと思っています。僕個人としても、相手の「らしさ」を充分に理解できているかはものすごく重視したいですね。

――YouTubeの企画は、企業のプロモーションなど、必ずしも出演者が軸になっているものばかりではないと思います。その点はどのように考えますか?

長﨑:企業のYouTubeコンテンツを作るなら、その企業やブランドがどういうものなのかを深く理解するところから始めます。世間的なイメージは受け取り側の感覚であって、企業がどんなブランドメッセージを届けたいのかはまた違うものだったりしますから。

 その上で、コンテンツとして何を見せるかを考えるようにしています。まず相手のことや、相手が求めている必須要件、企画の通過ポイントを書き出して「ベタをおさえる」。その上で、自分が一番推したい企画から順に提案することが多いです。

――企画提案の仕方としては、手堅い企画から出していくものだと考える人も多そうです。

長﨑:僕としてはやっぱり相手の想像を上回りたいですし、まずウケないと不安なので。相手を引きつけて、話を聞いてもらえる状態を作りたい。

 一番推したい企画も、単に変わっているだけじゃなく実現性も兼ね備えたものです。2番目は短めに、3番目は実現性よりも企画の面白さに寄せたもの、それ以降は実現性に寄せたもの……といった具合に提案することが多いですね。

 変わっていて面白いことも考えられるし、実現性に寄せた手堅いものも考えられる、そういった幅広さを効果的に見せるために、提案の打順はとても大事にしています。

――実現可能性の考え方にもいろいろあると思っていまして、それこそ「逃げを作る」ようなこともあると思うんです。

長﨑:それに関しては「僕じゃなくていいな」と思っています。相手が自分に求めている役割を考えると「なんか面白いことをやってくれるだろう」という期待があると勝手に信じているので。

 仮にそうでないとしても、相手が自分に何を求めているかを意識することは大事だと思います。その仮説が当たろうが外れようが、自分の軸をブレないようにすることは意識していますね。

――YouTuberがテレビで活躍したり、テレビで活躍する方々がYouTubeに参入したりすることも、珍しくなくなってきました。これからのテレビとインターネットの関係性はどうなっていくと思いますか?

長﨑:これまではどちらかのフォーマットを踏襲したものが多く見られましたが、今後は裏方の垣根もなくなってきて、より新しいコンテンツが増えていくと思います。

 たとえば僕が去年担当した『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』(テレビ東京)は、梨さんというインターネットを中心に活動するホラー作家の方を演出の大森(時生/テレビ東京)くんが呼んでいましたし、テレビの演出家や映画監督の方がインターネットの動画コンテンツを手がけることは、今以上に当たり前になっていくのではないでしょうか。なっていくし、逆も然り。テレビの演出をテレビ業界以外の人がやることもあるかも。

 もちろん、得意なフィールドに専念したい人もいると思います。その道に進むのは今後さらに覚悟が必要になると思いますが、専念し続けたからこそ生まれる面白さもあると思いますし、いつか他のメディアと交わったときに発揮される魅力もまたあるのではないでしょうか。

(文・取材=鈴木 梢)

長﨑周成(撮影=三橋優美子)