「百薬の長」ともいわれるお酒。確かに適量のお酒は善玉コレステロールを増やしたり、心筋梗塞を予防する効果のある薬ともなり得ます。しかし、その一方で飲みすぎてしまうと肝臓がんや、認知症のリスクもあると東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師はいいます。今回は、「適度なお酒」とはどのくらいなのか、そして「お酒の飲みすぎ」がもたらすリスクについてみていきましょう。

「酒は百薬の長」…だからといって飲みすぎていいワケじゃない!

「酒は百薬の長」なんていう言葉があります。元々は中国古代の史書である「漢書」に記された由緒正しい言葉で、適度な酒はどんなクスリにも勝るという意味です。

確かにお酒を適量飲むことで、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の増加を抑えHDLコレステロール(善玉コレステロール)を増加させる効果や、心筋梗塞などの心臓病を予防する効果が確かめられています。

「酒はクスリ? じゃあ飲んでいいんだな? よし飲もう!」なんて言うように「酒は百薬の長」という言葉はお酒を飲む人にとっては非常に都合がいい言葉として愛されていますが、これはあくまで「適度に」飲んだ場合です。当たり前ですが、お酒は飲みすぎると非常に大きなデメリットもあり、「手軽に手に入る毒」になりかねません。

今回は「適度な飲酒」とはどの程度なのか、飲みすぎるとどの様なことが起きるのかについて解説をしていきます。

アルコールの適量とは

公益社団法人アルコール健康医学協会が発表しているアルコールの適量をみてみると、

ビール:500ml

日本酒:1合

焼酎:0.6合

ウイスキー:ダブル1杯

ワイン:180ml

缶チューハイ:1.5缶

となっています。

お酒を毎日飲んでいても「この量で十分間に合っています」という人であれば、特に問題はないでしょう。ただ、この量では物足りない、という人が圧倒的に多いのではないのでしょうか。

毎日お酒を飲む習慣がある人の多くは「酒は百薬の長」とは言えない状況になっているという現状があります。さらに、飲酒量がどんどん増えていくと、さまざまな疾患のリスクが上昇します。

アルコールをとりすぎるデメリット

アルコールを毎日摂取する人が、お酒を飲まない日を休肝日と呼ぶことからわかるように、アルコールの過料摂取は肝臓に負担をかけます。

口から摂取したアルコールは、胃で20%、小腸から80%が吸収されます。吸収されたのちに血流に乗って肝臓に入り、アルコール脱水槽素などにより分解されてアセトアルデヒドになります。このアセトアルデヒドがさらにアセトアルデヒド脱水蘇酵素により分解され、水と二酸化炭素に分解されます。

アセトアルデヒドは発癌性がある物質で、シックハウス症候群の原因にもなるなど、人体には有害な物質です。つまりアルコールは人体に有害な物質を経由して分解されていくので、その分解をおこなう肝臓には相応の負荷がかかるのです。

毎日多量のアルコールを飲むことで、肝臓に脂肪が溜まってしまう「脂肪肝」が引き起こされます。さらに飲酒を続けていくと、肝臓が萎縮して固く縮んでしまう「肝硬変」になり最終的には「肝臓がん」になることもあります。

また、アルコールのデメリットとして、脳への影響も重要です。

アルコール依存症の人や大量飲酒者は、脳の萎縮が高い割合でみられるということは以前からわかっていたのですが、最近の調査では、飲酒量が増えるほど脳萎縮が進むことがわかっており、断酒でその脳萎縮が改善することもわかってきました。

“若いころの飲酒”と“認知症”の関係を調べた調査がフィンランドで実施されており、非飲酒者、低頻度飲酒(月に1回未満)、高頻度飲酒(月に数回以上)に分類して高齢になってからの認知症の有無を調べています。最も認知症が少なかったのは低頻度飲酒者で、高頻度飲酒者になると、低頻度飲酒者の「2.6倍」認知症になる可能性が高くなることが示されています。

ここで、この実験の低頻度飲酒が「月に1回未満」というのが重要で、たとえ適量であっても毎日飲むことは脳に対して悪影響である可能性が高いのです。

もちろん毎日多量の飲酒をすれば認知症になる可能性は跳ね上がっていきます。月に数回以上という時点でも認知症の確率が上がるということは覚えておきましょう。

飲酒率と死亡率の関係

飲酒と死亡率の調査が厚生労働省によりおこなわれており、男女とも、1日平均アルコール消費量が日本酒1合未満である、23g未満の人は死亡率が一番低いということがわかっています。

そのため、「節度のある適度な飲酒」に関して、厚生労働省は1日平均値アルコールで約20gであると考えています。

[図表1]に純アルコール換算量をまとめましたが、人によっては少ないと思う人もいれば多いと思う人もいるでしょう。

こちらでも禁酒者よりも少しお酒を飲む人の死亡リスクが低いということであり、確かに「百薬の長」と言える効果があるのですが、少し飲みすぎるとすぐに「毒」としての性質も出てきてしまうことも知っておく必要があります。

国によっては、そもそもアルコール自体を禁止している国もあります。ここで問題になってくるのは、日本では法律で禁止されている20歳未満の飲酒経験が高いことです。

20歳未満の飲酒は、「未成年者飲酒禁止法」により禁止されています。違反した場合は50万円以下の罰金が課されることとされています。加えて、身体的精神的な影響も大きく、アルコール依存症発症のリスクも高いことがわかっています。絶対に20歳未満での飲酒は禁止です。

まとめ

今回は、アルコールが「薬」なのか「毒」なのかについて見ていきました。確かにアルコールを適度に飲むことは体にいいことも多く「酒は百薬の長」と言われていることも納得がいきます。しかし少し飲みすぎると「毒」としての性質も垣間見えるため、注意が必要です。

適切な飲酒量を守り、飲みすぎた次の日は休肝日を定めるなど、アルコールとうまく付き合っていきましょう。

医師の間では、薬には副作用があるのでしっかり考えて処方しなければいけないという意味で「クスリはリスク」という言葉が広まっています。漢書に記された言葉と並べるのは少し畏れ多い気もしますが、「酒は百薬の長だが、クスリはリスク」と言うのを今回の結語とさせていただきます。

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医  

(※写真はイメージです/PIXTA)