X(旧Twitter)など、インターネット上での誹謗中傷被害が後を絶ちません。もし誹謗中傷を受け、相手を名誉棄損罪で訴えたい場合、どのような条件であれば罪に問うことができるのでしょうか? 本記事では、伏字・イニシャルで相手に誹謗中傷されたケースを例に名誉毀損で相手を訴えるための条件について、Authense法律事務所の弁護士が詳しく解説します。

「名誉毀損」とは?

名誉毀損とは、事実を適示するなどして、相手の社会的評価を下げる行為です。インターネットで個人が簡単に情報を発信できるようになったことから、名誉毀損は、いまや社会問題となっています。なかには、完全な匿名であるとの誤解などから、安易に名誉毀損に該当する内容の書き込みをする人もいます。

名誉毀損は民事上の損害賠償請求の対象となる可能性があるほか、刑法上の名誉毀損罪に問われる可能性もある行為です。 名誉毀損の被害にあった場合には、相手がわからないからといって諦めるのではなく、弁護士へご相談ください。

名誉毀損に対してとりうる法的手段

名誉毀損の被害にあった場合には、主に「刑事」と「民事」の2つの法的手段が検討できます。これらをともに追及することもできますし、いずれか一方のみの責任を追及することも可能です。いずれの責任を追及するのかは状況や被害者の希望する内容によって異なりますので、あらかじめ弁護士へ相談のうえ、追及する責任を検討するとよいでしょう。

刑事上の責任と民事上の責任の概要は、それぞれ次のとおりです。

刑事告訴をして刑法上の罪に問う

名誉毀損をした相手に刑事上の責任を追及するためには、相手を刑事告訴することが必要です。名誉に対する罪は、いくつかありますが、今回は「名誉毀損罪」と「侮辱罪」をとり上げます。これらはいずれも「親告罪」であり、相手を罪に問うためには、被害者が刑事告訴をしなければなりません(刑法232条)。

名誉毀損罪侮辱罪のそれぞれの内容は、次のとおりです。

名誉毀損罪

名誉毀損罪とは、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」が問われる罪です(同法230条)。 名誉毀損罪に該当した場合には、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処される可能性があります。名誉毀損罪の成立要件については、後ほどくわしく解説します。

侮辱罪

侮辱罪とは、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者」が問われる罪です(同法231条)。「事実の摘示」は要件とされておらず、より抽象的な侮辱であっても対象となる可能性がある点で、名誉毀損罪と異なります。侮辱罪に該当した場合には、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処される可能性があります。

従来、侮辱罪の刑罰は「拘留又は科料」のみでした。 しかし、インターネット上での誹謗中傷が社会問題となっているなか、これでは軽すぎるとの声が高まり、令和4年(2022年)7月7日から厳罰化されています。

損害賠償請求をする

名誉毀損に対して民事上の責任を追及する際には、相手に対して損害賠償請求をすることとなります。 損害賠償請求とは、相手の行為によって被った損害を、金銭で支払うよう請求することです。

損害賠償請求は、まず、名誉毀損をした相手に対して直接請求を行うことが多いです。しかし、請求を無視されたり、到底受け入れられないような減額を求められたりする場合もあるでしょう。 その場合には、裁判で損害賠償請求をすることとなります。

なお、損害賠償請求が裁判で認められたにもかかわらず相手が支払わない場合には、強制執行を行い、強制的に取り立てることが可能です。

名誉毀損で刑事告訴をするための要件

名誉毀損の被害にあった場合、名誉棄損罪が成立するための要件は、次のとおりです。

「公然と」であること

名誉毀損罪の1つ目の成立要件は、「公然と」行われたものであることです。たとえば、SNSへの投稿や、YouTubeやブログへのコメント、インターネット上の掲示板への書き込みなどは、これに該当する可能性が高いでしょう。

一方、通常他者が見ることのない1対1でのメールやダイレクトメール(DM)で被害者に対して直接なされた発言は「公然と」とはいえないため、原則として名誉毀損罪は成立しません。

「事実を摘示」したこと

名誉毀損罪の成立要件の2つ目は、「事実を摘示」したことです。たとえば、「〇山A男はバカだ」という発言は抽象的であり、「事実を摘示」したとはいえないため、名誉毀損罪が成立する可能性は低いでしょう(ただし、侮辱罪などの対象となる可能性はあります)。

一方、「〇山A男は違法薬物をやっている」という発言は「事実を摘示」しており、この要件を満たす可能性があります。なお、ここでいう「事実」とは「本当のこと」という意味ではなく、虚偽の内容であっても構いません。

「人の名誉を毀損」したこと

名誉毀損罪が成立するためには、「人の名誉を毀損」したことが必要です。ここでいう「人」には自然人のみならず法人も含まれると解されるため、会社などを対象とした発言であっても、名誉毀損罪が成立することになります。

そして、「名誉を毀損」とは、相手の社会的評価を低下させることです。そのため、仮に発言の対象とされた被害者がいくら傷付いたとしても、社会的評価が低下する内容ではないと判断されれば、相手を罪に問うことはできません。

同定可能性があること

名誉毀損罪が成立するためには、同定可能性が必要であるとされています。同定可能性とは、その投稿が誰を指しているのかわかることを意味します。なお、これは「〇田一郎」など一部を伏せ字にしたからといって、同定可能性がないといえるわけではありません。仮に伏せ字イニシャルであっても、見た人が誰のことであるの判別できるような場合には、同定可能性があると判断される可能性があります。

違法性阻却事由に該当しないこと

ここまでで挙げた要件をすべて満たす場合であっても、「違法性阻却事由」に該当する場合には、犯罪は成立しません(同法230条の2)。名誉毀損罪における違法性阻却事由は、次のとおりです。

1. 公共の利害に関する事実に係るものであること

2. その目的が専ら公益を図ることにあったと認められること

3. 真実であることの証明があったこと

これらをすべて満たした場合には、名誉毀損罪は成立しません。

名誉毀損で刑事告訴をする流れ

名誉毀損で相手を刑事告訴する場合の基本の流れは、次のとおりです。

名誉毀損の証拠を残す

名誉毀損の被害を受けたら、まずは名誉毀損の証拠を残しましょう。 証拠がなければ、相手に対して法的措置をとることは困難であるためです。インターネット上での名誉毀損の場合には、投稿のスクリーンショットを残すことなどで証拠を保全します。

スクリーンショットで撮影すべき主な箇所は、次のとおりです。

名誉毀損に関する投稿の全文

・投稿の日付

・投稿のURL(SNSなどの場合)

・相手のアカウント名やユーザー名

なお、スマートフォンからの場合には、スクリーンショットではこれらの情報がすべて撮影できない場合もあります。その場合には該当するWebページ自体のデータを保存することも検討するとよいでしょう。

誹謗中傷問題に強い弁護士に相談する

名誉毀損への法的措置への対応は、時間との勝負であるといっても過言ではありません。 そのため、できるだけ早期に、誹謗中傷や名誉毀損問題にくわしい弁護士に相談してください。

発信者情報開示請求をする

インターネット上での名誉毀損の場合には、投稿をした相手がどこの誰であるのかわからないことも少なくありません。 実務上、相手が誰なのかを特定してから刑事告訴をすることが多いです。相手を特定するためには、次の2段階が必要となることが一般的です。

1. コンテンツプロバイダ(X(旧Twitter)社など)から、IPアドレスやタイムスタンプなどの開示を受ける

2. 「1」で入手した情報をもとに、アクセスプロバイダKDDINTTなど)から、契約者情報の開示を受ける

しかし、コンテンツプロバイダやアクセスプロバイダに任意で情報の開示を請求しても、応じてもらえることはほとんどありません。 そのため、裁判所に対して発信者情報開示命令の申立てを行い、裁判所から開示命令を出してもらう必要が生じます。

刑事告訴をする

相手の特定ができたら、警察に刑事告訴を行います。告訴は口頭でも可能であるものの、通常は告訴状を提出して行うことが多いです。

刑事告訴が受理されると、その後警察にて事件の捜査がなされます。逃亡の危険性がある場合など一定の場合には逮捕して身柄が拘束されることもありますが、名誉毀損関連の事件では逮捕されるケースはまれであり、在宅のまま捜査が進むことが多いでしょう。

その後、検察に事件が送致されます。 送致されると検察にて取り調べなどが行われ、起訴か不起訴かが決まります。不起訴となると、裁判は開かれず、相手が刑罰を受けることはありません。一方、正式起訴がされると刑事裁判が開かれ、相手の有罪・無罪が決定します。

名誉毀損で刑事告訴するのにかかる費用

名誉毀損で相手を刑事告訴する場合には、どの程度の費用が掛かるのでしょうか? まず、刑事告訴自体には費用は掛かりません。しかし、刑事告訴の手続きや相手を特定するための手続きを弁護士に依頼した場合には、弁護士報酬が必要です。

弁護士報酬の金額や計算方法は依頼先の弁護士によって異なりますが、刑事告訴の手続きを依頼した場合には、おおむね30万円から50万円程度である場合が多いでしょう。別途、成功報酬がかかる場合もあります。

ただし、損害賠償請求も併せて行うかどうかなど状況によって報酬が変わる場合もあるため、詳しくは依頼を検討している先の弁護士にあらかじめ確認することをおすすめします。

名誉毀損で刑事告訴をする時効

名誉毀損で刑事告訴をしたい場合には、できるだけ早期に取り掛かることが必要です。 なぜなら、刑事告訴には時効や、事実上の期限があるためです。注意すべき主な期限は、次のとおりです。

告訴期限

告訴期限とは、被害者が警察に告訴する期限です。名誉毀損の場合、告訴時効は、犯人を知った日から6ヵ月とされています(刑事訴訟法235条)。

公訴時効

公訴時効とは、検察が起訴する期限です。名誉毀損の場合、公訴時効は、犯罪行為が終わったときから3年間とされています(同法250条2項6号)。

ログの保存期間にも注意

インターネット上での名誉毀損の場合には、告訴時効や公訴時効以上に、「ログの保存期間」に注意しなければなりません。ログの保存期間とは、コンテンツプロバイダやアクセスプロバイダで、投稿などのログ(記録)が保存される期間です。この期間を過ぎてしまうと、いくら発信者情報開示請求をしてもすでに記録がない以上、情報の開示を受けることができなくなります。

ログの保存期間はプロバイダによって異なりますが、おおむね3ヵ月から6ヵ月程度とされていることが多いといわれています。ログが残っているうちに発信者情報の開示を受ける必要があるため、名誉毀損への対応はできるだけ早期に取り掛かることをおすすめします。

刑事告訴する際には早めに弁護士へ相談を

名誉毀損の被害にあった場合には、相手を刑事告訴することが考えられます。しかし、刑事告訴をする場合、先に相手が誰であるのか特定することが多いです。また、ログの保存期間が短いため、できるだけ早く取り掛からなければなりません。そのため、名誉毀損をした相手を刑事告訴したい場合には、できるだけ早く弁護士にご相談ください。

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