映画『トップガン』などで「フォックス〇〇」という言葉を聞いたことはないでしょうか。この言葉、実はミサイルの種類を味方に知らせるために大事なものとなっています。

FOXはミサイルを発射することを指す

映画『トップガン』やゲームの『エースコンバット』シリーズなどの創作物で、ミサイルを発射する際、パイロットが「FOX(フォックス)1(ワン)」、「FOX2(ツー)」、「FOX3(スリー)」などと言うことがあります。これ、別にキツネのこと言っている訳でなく、ちゃんと意味があるのです。

これは、発射するミサイルの種類を味方に教える略式コードになっています。 “FOX”は、いわゆる西側陣営最大の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が使う「NATOフォネティックコード」と呼ばれるものを、さらに略したものです。

NATOでは、言語の異なる国のパイロットどうしが、無線通話などにおいて重要な事柄を聞き間違えないよう簡潔に伝達するためのコード(暗号)を採用しており、FOXが略される前のコードは「FOXTROT(フォックストロット)」という言葉になっています。

フォックストロットは社交ダンスの競技名でもありますが、NATOでは「Fire(攻撃)」の意味として使われています。つまり、武器が発射されたときなどに伝えるコードです。ちなみに、社交ダンスのフォックストロットもキツネは関係なく、ハリーフォックスという人が考えたスタイルだからとのことです。

さらにFOX1、2、3にも意味があり、戦闘機が敵戦闘機に向けて発射する空対空ミサイルの種類を指しています。

元々は同士討ちを避けるための注意喚起だった

FOX1は主にセミアクティブレーダーホーミングというミサイル発射後、着弾まで目標をレーダー波の照射内に捉え続け、誘導するミサイルを撃つときに使用します。西側のミサイルで代表例はAIM-7「スパロー」です。

FOX2は、AIM-9サイドワインダー」など、相手の熱源を探知して追尾する赤外線誘導式ミサイルを使う際に使用されます。「スパロー」よりも近い距離で交戦した場合に使われるケースが多いです。セミアクティブレーダーホーミングのミサイルほどの射程はありませんが、撃った後は自動で熱源を探知して追尾してくれるので、別の敵機がいた場合、すぐに回避行動をとることもできます。

FOX3はAIM-120「アムラーム」やAIM-54「フェニックス」といった、アクティブレーダーホーミングミサイルを発射するときに使用します。このミサイルは、セミアクティブレーダーホーミングのミサイルとは違い、ミサイルに搭載されたレーダーで標的を自動追尾するので、赤外線誘導のミサイルよりも遥かに距離が離れた場所で、撃った後に即離脱することも可能です。

こうした「FOX〇」と伝えるきっかけとなったのは、初めてセミアクティブレーダーホーミングである「スパロー」を標準装備した戦闘機であるF-4が登場した1960年代にさかのぼります。当時のレーダーロックオンは、味方機が敵機の近くにいると誤ってロックオンしてしまうケースが発生しやすかったそうです。

もちろん、ロックをしないように確認はしますが、誤射してしまう可能性はゼロではないので、無線で「FOX1」と発射警告を伝えるようになり、そして「スパロー」とは発射形式が違う「サイドワインダー」を区別するために「FOX2」としたようです。そして、その後アクティブレーダーホーミングミサイルが登場すると「FOX3」として区別されるようになりました。

なお、NATO諸国ではない西側陣営の同盟国も同じコードを使っています。航空自衛隊アメリカ軍の同盟関係にあるので同様です。ブラジルやコロンビアなど、アメリカと関係の深い南米諸国も同様にこのコードを使用しているそうです。

一方、ロシアなど東側陣営には元々このようなコードはなく、ミサイルとロケットの区別もないので、「ロケット発射する」また「誘導式のロケットを発射する」と言うようです。

F-35から発射されるAIM-120「アムラーム」ミサイル(画像:アメリカ空軍)。