世界最大のモバイルとオンライン決済プラットフォーム「Alipay」や、信用評価システムの「芝麻信用」を運営しているアントグループ。中国を代表するアリババグループの金融関連会社で、その影響力は絶大です。そんな、アントグループに、中国当局はとんでもない額の罰金を科しました。アントはいったいどのような理由で、いくらの罰金を支払うこととなったのか、東洋証券上海駐在員事務所の奥山要一郎所長が解説します。

アリババ&アント、巨額罰金の先にあるものは?

7月7日夜、アリババ集団(09988)傘下の金融会社、アント・グループの罰金処分が確定した。その額、実に71億2,300万元(約1,400億円)。

中国人民銀行(中央銀行)の公表文書によると、アントは「金融消費者保護、銀行保険業務、決済業務、ファンド販売業務などで違反行為があった」とされる。

アントは2020年11月の上海・香港への重複上場計画が直前で取り止めとなった。当局の会議でフィンテックの管理監督強化が議題となり、ネット企業の金融業務参入に厳しい目が向けられるなど、すさまじい逆風に吹き飛ばされた形だ。

その後、人民銀が20年12月、アントに対してガバナンス体制の不備などを指摘する行政指導を行った。翌21年4月にはアントが業務改善計画を策定。金融事業の行政監督を受ける、決済業務は本来の形に立ち返る(他の金融サービスとの不当な紐づけ停止)、個人情報保護を強化してデータの乱用を防ぐ、などの方針が示された。

ある意味で“野放し”状態だったネット金融業界を、当局が強い姿勢で規範化。「ここで管理しないと政府側が飲み込まれる」という一種の危機感もあったのだろう。

フィンテック企業が構築してきたエコシステムも一部崩壊した。その一つが、アントが展開していたP2P保険「相互宝」(22年1月に運営停止)。保険金の支払いを加入者が「割り勘」で賄うシステムだ。

支付宝(アリペイ)から簡単に申し込めることで人気を呼び、会員は一時1億人を超えていた。ただ、法的には「保険」にあたらず、契約者保護の措置も適用外。このグレーゾーンが問題視され、当局から実質的な“お取りつぶし”の目に遭う。

ビジネスやるならルールの下で。規制と管理は後から付いてくる。アントの罰金処分観測が流れた7日、アリババ株は特に後場に買われ、3.43%高となった。NY上場の同社ADR(BABA)は8.00%高。

アントの金融持ち株会社免許の取得やIPO手続き再開への期待が高まった。株価の本格的な反転材料になるだろうか。

アントは罰金値引き交渉に成功?

さて、当初100億元超とされていたアントの罰金額は、何回かの“折衝”を経て71億元あまりに落ち着いたという。何でもアリの中国で、まさかの罰金値引き交渉?

いずれにせよ、22年10~12月期に96億元の利益を上げていたアントにとって、71億元は管理可能な額と言えそうだ。

ちなみに、アリババ独占禁止法違反で罰金182億2,000万元、美団(メイトゥアン、03690)も同法違反で罰金34億4,200万元、滴滴出行(DiDi)はインターネット安全法違反などで罰金80億2,600万元が科されている。お金の話は尽きません。

奥山 要一郎

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所 所長

(※写真はイメージです/PIXTA)