中村勘九郎 中村七之助 錦秋特別公演 2023』のオフィシャルレポートが公開された。


2023年10月に全国14ヶ所で行われる『中村勘九郎 中村七之助 錦秋特別公演 2023』。その合同取材会が6月21日、都内で行われた。

大好評のうちに幕を閉じた3月『春暁特別公演』に続いての全国巡業公演。足を運んでくださるお客様への想いと、各演目の見どころを、中村勘九郎と中村七之助が語った。

ーー毎回多彩な演目を取り上げ、意欲的に取り組んでいる巡業特別公演。今年で19年目となっていますが、おふたりにとってどのような存在でしょうか。

勘九郎:この巡業公演を観て、歌舞伎の本興行のほうにも足を運ぶようになったというお手紙や、お声を聞くことがたびたびありますので、まずは続けてきて良かったなという気持ちです。一方、トークコーナーで『まだ歌舞伎を見たことがない人~?』と聞くと、客席の 7、8 割の方が手を挙げられるんですね。もっともっと歌舞伎を普及していくためにも、これからも兄弟と仲間で力を合わせて、特別公演を続けていければと思っています。

七之助:珍しい演目を上演することも多く、私たちにとってもチャレンジの場となっていますね。それから、ほとんどの巡業公演で使わせていただいている東京の文京シビックホールは、父(十八代目中村勘三郎)に続いて、今年の春から兄と私も名誉館長に就任することとなりました。その肩書きに恥じることのないよう、一所懸命に舞台を勤めたいと思っています。

ーートークコーナーは、おふたりのざっくばらんなお話が人気ですね。

勘九郎:各地のお客様の中には歌舞伎を観たことがないという方も多いので、そういう垣根をなくしたいと始まったのがトークコーナー。演目の説明はもちろん、客席の方にその土地のことをお聞きしたり、直接お話しできるのが楽しいんです。コロナ禍で3年ほどそういうやりとりが出来なくて残念だったのですが、この『錦秋』からは復活する予定なので、とても楽しみにしています。

七之助:この3年は、あらかじめ紙でご質問をいただいて回答する形だったのですが、やっぱり舞台の私たちと客席とで直接やりとりをするほうが楽しいですよね。質問にお答えしてから、『そうだ、このあとお昼ご飯を食べに行きたいんですけど、どこかオススメのところはありますか?』なんて、“逆質問”したことも(笑)。実際にそうやって教えていただいて、兄弟でうかがったお店もあるんですよ。

ーー久しぶりに訪れる会場もありますが、楽しみにしていることはありますか?

勘九郎:どこもそれぞれに思い出があって、前回訪れた時のことなどもお話ししたいと思っているんですが……。そうですね、中村鶴松が『サウナ・スパ健康アドバイザー』という資格を持っているので、僕も最近サウナにハマって“サウナー”になったんです。今日もこの取材会の前にスパに行ってきたので、肌の調子がよくて(笑)。だから、たとえば青森でしたら今回は八戸と弘前の2ヶ所にうかがいますので、地元のサウナを調べて行ってみたいなと思っています。

ーー(笑)。前半は、そのトークコーナーに続いて『女伊達』の上演です。

七之助:中村鶴松と中村仲助、中村仲侍が出演いたします。鶴松はこのところメキメキと実力をつけてきていて、今回もどういう演目をやりたいか聞いたところ、『女伊達』をやりたいということで決まりました。上方の男伊達を相手に、江戸女の女伊達がきっぷの良さを見せる作品です。鶴松は踊りが達者なもので、もっと踊りを披露するような演目を選ぶのかなと思いきや、ただスッと立っているだけで粋な女性を表現しなければならない本作を選んだので驚きました。彼のこういう役どころはあまり見たことがないので、私もとても楽しみにしているんですよ。

『中村勘九郎 中村七之助 錦秋特別公演 2023』

中村勘九郎 中村七之助 錦秋特別公演 2023』

ーーそして後半は、『桑名浦乙姫浦島』。河竹黙阿弥作『天日坊五十三次』より、あの有名な浦島太郎と乙姫の物語を抜き出し、舞踊にした作品なのですね。

勘九郎:2012年にコクーン歌舞伎宮藤官九郎の脚本、串田和美の演出)として、145年ぶりに『天日坊』を上演したのですが、2幕目の冒頭に浦島と乙姫の短いシーンがあって、それが印象に残っていたんです。今回そこを独立させて上演したいと思ったものの、なにしろ舞踊としての上演は、こちらも156年ぶり。資料が何も残っていないなか、浦島を題材とした歌舞伎の舞踊をベースにして、アレンジを加え、一から作っているところです。

ーー浦島(勘九郎)や乙姫(七之助)はもちろん、蛸(中村いてう)、鯛(澤村國久)、平目(中村仲四郎)、そして官女(中村仲之助、中村仲弥)も登場。巡業特別公演はお子様から年配の方までご家族でいらっしゃるお客様も多いので、ピッタリの演目ですね。

勘九郎:毎回、ファミリーで楽しんでいただけるものを、というのはすごく意識しています。今回は『天日坊』での記憶に加えて、実は補綴を担当しているトクちゃん(竹柴徳太朗)が、こんなものもありますよと持ってきてくれたんです。僕たちがコクーン歌舞伎で『天日坊』をやるより前、父の勘三郎も上演するつもりでずっと準備をしていたそうで、舞踊の場面もトクちゃんがおおまかに作っていたんですね。だから話を聞いた時、こんなにいいものがあったのかとビックリしましたし、これはぜひやらなければと。

ーー勘三郎さんの構想が勘九郎さんと七之助さんへ受け継がれ、今回の上演につながったといえそうです。

勘九郎:“復活”と銘打ちつつ、ほとんど“新作”のような大変さで四苦八苦していますが(笑)。でも補綴や音楽、振付などもみんなで考え、作り上げる作業は、意味があることだなと感じています。『春暁』で踊った『仲蔵狂乱』も63年ぶりの上演だったのですが、実際に曲の中に身を置いて、演じて、自分の中にどれだけ落とし込めるか。お客様に見せるものとして成立させられるかっていうのは、大きな経験になります。いろいろな要素がうまく混ざり合って、お客様に届けられた瞬間は、やはり格別。今後もそういった挑戦は続けていきたいと思っています。

ーーそれでは最後に、『錦秋特別公演 2023』を楽しみに待っていらっしゃるお客様へ、メッセージをお願いします。

七之助:トークコーナーはようやく昔の形が戻ってきて、皆様とお話しする交流もできますし、『女伊達』は鶴松たちがかっこよく踊ってくれますので、どうぞお楽しみに。そして『桑名浦乙姫浦島』は、もう本当に新作と言っていいくらいの舞踊なので、みんなで素晴らしいものをお届けできればと。兄がお話しした通り、いろいろと準備も大変なのですが、こうやって貴重な作品に出られるのも特別公演ならでは。そう思って一所懸命に勤めるのみです。なにより、小さいお子様からご年配の方まで、ご家族そろって楽しんでいただけるような作品にいたしますので、ぜひぜひ足をお運びくださいませ。

勘九郎:今年は春に続き、秋も巡業公演をさせていただけるのがありがたいですし、久しぶりの土地にうかがうのも楽しみにしております。まだ歌舞伎を観たことがない方、そして歌舞伎を好きで何度も観てくださる方にとっても楽しんでいただけるような作品をと、みんなで試行錯誤して、時間をかけて作っています。これからも少しでも『楽しかった』と喜んで帰っていただけるような物づくりをしていこうと思っておりますので、ぜひ各会場で楽しみにお待ちいただけたら嬉しいなと思います。

取材・文=藤野さくら   撮影=福岡諒祠(株式会社 GEKKO)

(右から)中村勘九郎、中村七之助