米政府は、国内の企業や個人による中国企業への投資を一部規制する新制度を導入する。8月9日バイデン大統領が「国家安全保障技術および製品への投資に対処するための大統領令」に署名した

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半導体・量子情報技術・AIの3分野

 この大統領令は、米財務長官に特定分野への投資を規制する権限を与えるものだ。その対象国は「懸念国」である。バイデン大統領はこれに、中華人民共和国(PRC)を指定した。香港・マカオ特別行政区も含むという。

 米ホワイトハウスの発表によれば、対象となる技術分野は(1)半導体およびマイクロエレクトロニクス、(2)量子情報技術、(3)人工知能(AI)、の3つ。プライベートエクイティやベンチャーキャピタル、合弁事業などによるこれら分野に関する中国への新規投資を規制する。加えて、中国でビジネスを行っている米国人に対し、AIや半導体分野の直接投資に関する届け出を義務付ける。

 違反した企業や個人は、罰金を科されたり、保有株の売却を余儀なくされたりする可能性があると米ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。これらの規制は今後の取引に適用され、株式や債券のポートフォリオ投資は対象としない。今後業界からの意見を募り、最終決定するという。

先端半導体の対中輸出規制

 米商務省は22年10月に輸出管理強化措置を発表した。これにより、AI向けの先端半導体の中国への輸出を原則禁じた。この措置に加え、今度は投資も制限するというわけだ。米政府は、中国企業による軍事用の最先端技術の開発・生産を阻止しようとしているが、その取り組みを一段と強化する。米国は中国による米テクノロジー企業への投資についても監視を強めている。

 AI半導体について、米国の政府高官や政策立案者は、国家安全保障という観点で捉えている。AIを搭載した兵器は、戦場において競合国に優位性を与える可能性がある。また、AIは化学兵器の製造や、サイバー攻撃目的のコンピューターコード生成に利用される恐れもあると懸念している。

 米国国家安全保障会議(NSC)の報道官は、「我々の行動は、国家安全保障に影響を及ぼしかねない技術に焦点を当てており、慎重に調整されている。米国と同盟国の技術が我々の国家安全保障を脅かすことがないよう意図されている」と説明した。

外交関係悪化の懸念

 ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、バイデン氏は数カ月にわたる検討の末、今回の大統領令に署名した。だが、この動きは、中国との外交関係を立て直そうとする米国の取り組みを不安定なものにすると同紙は報じている。

 駐米中国大使館の報道官は、米国が投資制限を進めたことに「非常に失望している」と述べた。「米国は国家安全保障を乱用し、貿易・科学・技術を政治化し、正常な経済・貿易交流や技術協力を故意に妨害している」(同報道官)

 一方、米半導体工業会(SIA)は、「政府に意見を提供することを楽しみにしている」と述べ、「最終的に、米国半導体メーカーの公平な競争を可能にし、中国を含む重要な世界市場にアクセスできることを期待している」と付け加えた。全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)は「米国企業への投資に意図しない結果が生じないよう、注意深く見ていく」と述べた。

 米国は、欧州やアジアの同盟国に対して、同様の措置を講じて中国への投資を制限するよう求めている。例えば、資金をロンドンや東京を経由させて中国企業に投資する、といったことを阻止したい考えだ。

米の対中直接投資は減少

 米調査会社のロジウム・グループによれば、米中関係の悪化を背景に、近年米国から中国への直接投資が減少している。22年は82億ドル(約1兆1800億円)と、20年ぶりの低水準。また22年におけるベンチャーキャピタル投資は13億ドル(約1900億円)と、10年ぶりの低水準だった。

 これらの投資のうち、どれだけが半導体など特定分野に向けられたのかは分からない。だが米ジョージタウン大学の報告によると、15年から21年の期間、米国の投資家は401件の中国AI企業への取引に関与し、そのうち米国人のみによる投資額は74億5000万ドル(約1兆700億円)だった。

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(写真:ロイター/アフロ)