スティーブマーティンマーティン・ショート、セレーナ・ゴメスがトリプル主演するドラマ「マーダーズ・イン・ビルディング」。本国アメリカでミステリー・コメディの傑作として話題の同作は、日本語吹き替え版に豪華声優陣が参加している。その一人がマーティン・ショートの声を担当する山寺宏一。作品にほれ込み、吹替版製作の発案をした山寺の熱演がドラマの世界を盛り上げている。(※以下、ネタバレを含みます)

【写真】抜群のハマり具合い!山寺宏一が声をあてるマーティン・ショート

■アメリカの視聴者をとりこにした「マーダーズ・イン・ビルディング」

マーダーズ・イン・ビルディング」は、スティーブマーティン(以下スティーブ)、マーティン・ショート(以下、マーティン)というアメリカコメディ界の大御所に、ミレニアム世代に人気のセレーナ・ゴメスが主演。それぞれ、過去に大ヒットしたドラマ作品を持つ俳優チャールズ、落ち目の舞台演出家オリバー、2人と孫ほど年の離れたメイベルに扮(ふん)する。

ニューヨークの高級アパートを舞台に、ポッドキャストの実録犯罪番組マニアという共通点で意気投合した3人が殺人事件の謎を追うミステリー・コメディだ。

2021年にアメリカで配信が始まると、批評家、一般視聴者共に高評価が相次ぎ、翌年シーズン2、そして2023年からシーズン3と、たちまち人気シリーズに。日本では、ディズニープラスの「スター」にて全シーズン独占配信中。8月8日より配信がスタートしたシーズン3は、日本語吹き替え版も同時に毎週火曜日に最新話が公開される。

■日本語吹き替え版は山寺宏一が発案&キャスティング協力

スティーブマーティンが共演した名作「サボテンブラザーズ」(1986年)が大好きな声優・山寺宏一も、2人が久しぶりに顔をそろえた本ドラマに魅了された一人。

その熱意が実り、声優人生で初めてだという、日本語吹き替え版の発案・キャスティング協力を務めることになった。

山寺はオリバーを担当。チャールズには羽佐間道夫メイベルには林原めぐみがキャスティングされた。山寺にとって“師匠”である羽佐間は、これまでスティーブの出演作の多くで声を担当してきた。そして、林原とは共演が多く、メイベルにぴったりではないかとキャスティングに提案したという。

ほか、戸田恵子安原義人山路和弘ら、豪華声優陣が集結した。

■アメリカ大御所コメディ俳優のセンスを豊かな表現力で再現

1985年にキャリアをスタートさせた山寺は、ディズニー作品をはじめ代表作の枚挙にいとまがない。そんななか、アニメ「彼岸島X」では50キャラクターを演じ分けて驚かされたことも。また、2023年5月21日フジテレビ系で放送された「鬼滅の刃 刀鍛冶の里編」第7話で鬼の憎珀天(そうはくてん)を務めたときには、視聴者から「言われないと山寺さんって分からなかった」「こんな声も出せるのか」との声が上がった。

尽きることのない演技力、表現力、そして技術力。それは本作でもいかんなく発揮されている。

シーズン1第1話の冒頭、アパートに銃を持った警官たちが乗りこんでくる緊迫感いっぱいのなか、チャールズオリバーが息を切らせながら階段を駆け下りてくる。「大変だ!大変だ、大変だ、大変だ。誰か助けてくれ。はぁ~」という、息遣いもぴったりな声当てに感嘆する。

続いて人物紹介的に主人公3人がそれぞれニューヨークの街を歩くシーンがあるのだが、ド派手な紫のコートを着て横断歩道上で立ち止まったオリバーの目の前で車が急ブレーキをかけると、「本気!?このコートが見えてないの?」と怒る。そのせりふ回しは、その後に分かることになるオリバーの人となりが端的に出ている。

おしゃべりで見栄っ張り。かつて先駆的なアイデアの舞台を興行するも失敗してしまい、それから仕事は低空飛行。いまではアパートの管理費も滞納し、息子にお金の工面を申し出る始末だが、アパートは「私のすべて」と愛着があり、売るつもりはない。

オリバーの弾丸トークともいうべき会話を、山寺は一音一音はっきりと、でも流れるように繰り出す。機知に富んだせりふが日本語でしっかり伝わる。落ち込んだと思ったら、すぐ突っ走ったり、時に失礼な言葉もあったり、お調子者的側面もあるオリバーの人物像が引き立ってくるのだ。

表現力で驚かされた場面でもう一つ例を挙げてみたい。シーズン2は、チャールズオリバーメイベルの家族の問題にもぐっと踏み入れるところがあるのだが、第5話のオリバーの過去の回想シーン。マーティンではない若手俳優が演じた若きオリバーの声、そしてマーティンが演じたオリバーの息子がまだ小さいときの声が、現在より若々しいのだ。せりふ回しで同じ人物でありつつも、声の張りで若き日を呼び起こす。全体から見ればほんの一瞬だが、さらりと違いをやってのけるすごさに脱帽だ。

笑い声一つにいたるまで、オリバーを演じるマーティンコメディセンスごと、活き活きと日本語にのせている山寺。スティーブ×マーティンで笑いを生み出すシーンは本作の大きな見どころだが、山寺が尊敬してやまない羽佐間と見事な間合いで再現する。

シーズン3は、オリバーが情熱を注いで手掛けた舞台の初日に衝撃の出来事が起きるという幕開け。山寺の豊かな表現力がさらに活きるはずだ。

◆文=ザテレビジョンドラマ部

声優・山寺宏一/2022年WEBザテレビジョン撮影