実在の心霊スポットを題材に『犬鳴村』(2019)に『樹海村』(2021)、そして『牛首村』(2022)と続く、通称“恐怖の村”シリーズを連作。今年6月には『忌怪島/きかいじま』が封切られたばかりの清水崇監督が、今度は人気アーティスト・GENERATIONSを主演に据え、最新作『ミンナのウタ』で再び世の中を恐怖に陥れる。今回の物語の発端はラジオ局の倉庫の片隅に遺されていたリスナー投稿のカセットテープ。差出人は“さな”という少女。そこには聞くと呪われる「ウタ」が吹き込まれていた。新たな怪談を次々と紡ぎ、名実ともにJホラーのトップランナーとなった清水監督にコワい映画作りの裏側を聞いた。

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■予算や時間に制限がある方が色々と遊べる

 前作『忌怪島/きかいじま』から2ヵ月たたずに公開された新作『ミンナのウタ』。それゆえ、製作体制は準備を含めて短期集中型だった。「でも、予算や時間に制限がある方が色々と遊べるんです」と清水監督は明かす。今回はコンサートを控えたGENERATIONSのメンバーがリハーサルをしているシーンで、LDH内のスタジオも登場。そこで彼らが遭遇した怪異をそれぞれの異なる目線で描く。『羅生門』(1950)や『レザボア・ドッグス』(1992)の構造に倣い、各々の芝居をじっくり撮る。それが監督の狙いだった。

 「ただ、僕もGENERATIONSに全然詳しくなくて。マキタスポーツさん演じる探偵の権田がメンバーの名前を間違えますよね。あれはぶっちゃけ僕の分身」と監督は笑う。本作ではメンバーが自分自身を演じるが、各々のキャラづけには初対面の印象が反映された。「無理にキャラを作るより、メンバー個々の持ち味を活かす形。本人役は難しい。やりすぎると嘘臭いし。だから、常に彼らの意見を聞き、現実に寄せました」。

 GENERATIONSのなかでも片寄涼太と中務裕太は、テレビの『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)で監督に心霊ドッキリを仕掛けられ、乙女チックなリアクションが話題になったふたり。『忌怪島/きかいじま』で主演を務めた、なにわ男子の西畑大吾も同番組の心霊モニタリングで清水監督と組んでいる。「偶然、続いちゃいましたね(笑)。ドッキリはリアクション重視だけど、映画は同じ場面を何度も演じる必要がある。今回はまず、自分ならどう反応するかを演じてもらい、芝居としての強弱を僕が調整しました」と監督。

■恐怖演出のコツは役者の個性を見極めること

 恐怖に対する反応は人それぞれ。それを演出する立場の清水監督は、まず「個性を見る」という。「この人はノリノリで演じてくれる、この人はプライドが高くて厄介(笑)とか。本作の場合なら、例えば佐野玲於くんは芝居経験が豊富なので過剰な動きをしない。リアクションは薄味だけど、いつの間にか歌を口ずさむ場面とか、いい感じにコワくて。関口メンディーくんはセリフや動きを気持ち含めて何度も真面目に練習するタイプ。白濱亜嵐くんはホラー好きだから手強くて。完成版を観て喜んでくれて、まずはホッとしました」。

 心霊怪談を描くうえでキーパーソンになるのが「霊が見える」人。霊感担当の中務裕太はもしかして、本当にシックスセンスの持ち主? 「彼は不思議キャラで、たまに妙なことを言い出すらしくて(笑)」と監督。「そこをちょっと誇張しました。突然、取り憑かれますよ、なんて口走ったり(笑)・・・・通常でない台詞もあえて入れたら気に入って宣伝で使い倒してくれています(笑)」。

 霊感青年の彼が何度も“さな”の母親の幻影と遭遇する場面は鳥肌モノ。母親役を演じた山川真里果は清水監督の『ホムンクルス』(2021)に出演した個性派で、寒空の下でも文句ひとつ言わず特殊メイクで頑張る姿が印象に残り、今回の起用となった。「『私、昭和顔で阿佐ヶ谷姉妹に似てると良く言われるんです(笑)』って。普段は物静かだけど、実は強気で面白い女優さん」と清水監督。今回も脚本にない母親の心情を深読みして役作りに挑み、入魂の力演を見せてくれた。

■私にも聞かせて…物語の原点は昭和を戦慄させた芸能怪談

 本作で恐怖の源泉となるのが呪いの音源。「アーティストの映画なので、音を元凶に、小森くんがラジオ番組を持っていると知り、ラジオ局で古いカセットテープが見つかる導入部を考えた」と清水監督は明かす。その着想源は劇中にも登場する「かぐや姫」の解散コンサートの録音に紛れ込んだ「私にも聞かせて」という謎の声。急逝した若い女性ファンの無念の声と噂された、昭和を代表する芸能怪談だ。監督も学生の頃にテレビの心霊番組で聞き、悲しげな声が強く記憶に残ったという。

 そんな謎の声から誕生した“さな”は、「ウタ」で自分の世界に人を「惹き込む」ことを夢見る少女。当初は高校生の設定だったが、もう少し幼く、心身の成長も含めて不安定で、強い衝動に身を委ねる危うさを秘めた中学生に変更された。また、物語上の効果を考えて謎の声をメロディに置き変え、『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)の冒頭に流れるハミングをイメージして「ウタ」が作られた。「これがまた難しくて。ラン、ランラララン~なんて歌ううちに、『風の谷のナウシカ』(1984)になっちゃたりね」と監督。

 耳で覚えたフレーズが頭から離れなくなる。誰にでもある経験が次第に「ウタ」の呪いとして実体を成す。首筋を掻く音、しゃっくりや貧乏ゆすりのリズム。無意識の仕草、声や雑音が紡がれ、意味を持ってくる描写がこれまたジワリとコワい。

■“さな”ד俊雄”のコラボが実現! イタリアンホラーの引用も話題に

 さて、GENERATIONSはデビュー10周年。清水監督の劇場版『呪怨』(2003)も今年で20周年。舞台化作品『呪怨 THE LIVE』も上演中だ。本作にも郊外住宅地の一角で淀んだ邪気を放つ空き家が登場したり、“俊雄”くんが出てきたりと『呪怨』とのリンクが垣間見える。だが、監督は「意図的な引用はない」とバッサリ。「直感的な発想を即決した結果、原点回帰になったのかも。男の子のオバケ? うん、“俊雄”でいいやって(笑)」。

 しかし、怖すぎると話題になった予告映像(駆け寄る幼い子供が一瞬で少女の幽霊になる)はイタリアンホラーの名作『ザ・ショック』(1977)の引用でしょう?と質問すると、「あれはもう、堂々と再現してやろうと。というか、真似るなら本家を越えねば!…と取り組みました。まぁ僕の映画も散々、あちこちでマネされてるし」とニヤリ。それでも『呪怨』や清水ワールドを壮大にリンクさせる狙いはないと言う。「わかる人に伝わればいいかな、フフフ」と意味ありげに微笑む。

■幻の後日談の存在

 昭和、平成、令和。「スリージェネレーションズ」の怪談や都市伝説の感覚がひとつに連なって新しいうねりを生む、そんな興奮を覚える本作。ひと昔前のレトロなアイテムが「呪物」となり、カセットの「B面」や「逆再生」から秘密を探る展開にも、日常の裏側を覗く怪談の手触りが息づく。

 「アナログ感に対する漠然とした怖さ。そこに若い世代は不思議と心惹かれる」と清水監督は分析する。「今、昭和の歌謡曲が流行ってて、20代の若者が大昔の曲を知っている。白濱亜嵐くんも実際はカセットテープコレクターなんですよ」。

 怪談にはその時代に応じた日常性が色濃く残っている、と監督は考える。「自分のなかを流れた時間が感じられるのが大きな魅力。その文化や庶民性を単にそのまま海外に移しても通用しないけど、例えば小泉八雲のように日本人と結婚し、日本に住んだ外国人にはすごく斬新なものとして映った。各地の伝承を集めて『怪談』を書き残すほどに、ね」。

 「ウタ」の呪いも不滅で、人々を魅了して無限に拡散してゆく。実は本編には登場しない、幻の後日談も存在し、権田自身も自宅で不穏な体験をするエピローグが用意されていた。

 「でも、カットしました。くどいし、怖さが分散するので。えっ、観たかった? 勿体ない? もしかして『ミンナのウタ2』を撮らせようと誘導してます?(笑)」。

 ぜひ! スピンオフもいいですね!

(取材・文:山崎圭司)

 映画『ミンナのウタ』は公開中。

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