わずか100人に1人ほどの「世帯年収2,000万円」を超える高給取りの夫婦。悠々自適な老後が確約されたようなふたりでも、破綻という結末を迎えるケースも。その発端となる50歳以降に直面する「収入の崖」とは……みていきましょう。

わずか1.4%…年収2,000万円超えの高所得エリート夫婦

厚生労働省令和4年国民生活基礎調査』によると、2021年の1世帯当たり平均所得金額は545.7万円。一方で所得の分布をみていくと、中央値は423万円。平均額以下は61.6%と、低所得世帯と高所得世帯の格差が大きいことが分かります

ひとつの区切りとなる「世帯年収1,000万円」を超えるのは全体の12.4%。また誰からも羨望の眼差しが送られる最上位層「世帯年収2,000万円以上」はわずか1.4%です。

【世帯年収分布】

・100万円未満:6.7%

・100万~200万円未満:13.0%

・200万~300万円未満:14.6%

・300万~400万円未満:12.7%

・400万~500万円未満:10.3%

・500万~600万円未満:8.4%

・600万~700万円未満:7.3%

・700万~800万円未満:6.2%

・800万~900万円未満:4.9%

・900万~1,000万円未満:3.6%

・1,000万~1,200万円未満:5.2%

・1,200万~1,500万円未満:3.7%

・1,500万~2,000万円未満:2.1%

・2,000万円以上:1.4%

出所:厚生労働省令和4年国民生活基礎調査』

貯蓄の状況はどうでしょう。「貯蓄あり」と答えたのは82.4%と8割を超えます。一方で「貯蓄なし」と答えたのは10.9%。世帯年収1,000万円を超える世帯でも11.9%、実に10世帯に1世帯以上は「貯蓄なし」と回答しています。

*不詳なども含むので足しても100にはならない

「収入1,000万円前後は想像以上に家計が苦しい」とはよく聞く話。意外と手取りは少なく、一方で住宅ローンや教育費などの支出が多く、家計は常に火の車……。とはいえ、所得が多いほど当然貯蓄に回すお金は多くなり、貯蓄額も大きくなる傾向にあります。「貯蓄額」で最上位となる「3,000万円以上」は全体の11.8%。さらに世帯所得で頂点に君臨する「世帯年収2,000万円以上」の半数以上が「貯蓄額3,000万円以上」。「お金持ちは結局、お金持ち」と、当たり前といえば当たり前の現実が見えてきました。

果たして、現役世代で世帯収入2,000万円を超えるのはどのような人たちなのでしょうか。

厚生労働省の調査によると、大卒・大企業勤務の正社員の平均年収は、男性(平均年齢41.9歳)で769万円、女性(平均年齢34.7歳)で538万円。年齢別にみても平均値で1,000万円を超えるタイミングはなく、共に大卒・大企業勤務の会社員というだけでは、年収2,000万円は超えられそうもありません。

必要なのは役職。大卒・大企業の「課長クラス」であれば、男性(平均年齢48.5歳)で平均年収1,038万円、女性(平均年齢46.7歳)で954万円。世帯年収2,000万円が見えてきました。さらに「部長クラス」であれば、男性(平均年齢52.8歳)で平均年収1,269万円、女性(平均年齢50.1歳)で1,221万円。世帯年収2,000万円超えは確実です。

共に50代で大卒・大企業勤務の部長クラス……現役で世帯年収2,000万円超えを紐解いていくと、トップクラスのエリート夫婦という実態がみえてきました。さらにその半数以上は貯蓄も3,000万円以上というのですから、人生勝ち組確定といえそうです。

50代の「勝ち組エリート夫婦」…余裕の生活が一転する、3つの「収入の崖」

住宅ローン(すでに完済している可能性は高いですが)に子どもの教育費……それらを払ってもまだまだ余裕があるから、ジムやエステで自分を磨き、お気に入りのグルメに優雅に舌鼓。長期休暇には海外のリゾートへ……そんな充実した日々を送れそうな、50代の勝ち組エリート夫婦。

しかし定年後も毎日が休日のような贅沢三昧ができるとは限りません。これからの15年ほどの間に直面する「収入の崖」にきちんと対応していかないと、悠々自適のはずの老後が一気に貧乏に。最悪、生活が破綻することも考えられると専門家は警鐘を鳴らします。

「収入の崖」は、会社員の給与が大きく減少するタイミング。50代以降に気にしなければならない「収入の崖」は3つあるとされています。

50代以降の「収入の崖」①役職定年

まず50代前半から後半に訪れる「役職定年」。肩書がなくなることで、給与は平均して2割程度下がるといわれています。ただ最近は、モチベーションを保てなくなるという弊害から、役職定年を撤廃する企業が増加傾向。最初の「収入の崖」は幸運にもなくなる方向にあるようです。

50代以降の「収入の崖」②定年

一方、会社員であれば絶対的に訪れるのが「定年」。現在、多くの企業で60歳を定年年齢と定め、それ以降は雇用形態を変え、引き続き働けるようになっています。ただ雇用形態の変更に伴い、給与は平均3~4割程度減少します。しかし、昨今は人材確保の観点から定年後も好待遇という企業も増加。「崖の高さ」は低くなりつつありますが、ほとんどの人が乗り越えなければならない「収入の崖」です。

50代以降の「収入の崖」③現役完全引退&年金生活突入

そして最後に直面するのが「現役を引退し、年金生活に突入」する際の崖。給与所得がまったくなくなり、基本的に年金収入だけになるというタイミング。厚生労働省令和4年国民生活基礎調査』によると、年金生活者の44%が「収入の100%が公的年金」で、「80~100%が公的年金」も合わせると、実に6割を超えます。このタイミングでも平均2~3割程度の収入減となります。

50代以降に増える支出「介護費」と「医療費」

50代から15~20年程度で最大3回は訪れる「収入の崖」。最終的に50代のときの収入から7~8割程度の収入になります。収入減のタイミングで収入や貯蓄に合わせてライフスタイルを見直していかないと、急激に家計が悪化する場合も。

また安定した老後のためには、50代以降に大きく支出が増える項目について把握しておきたいもの。生命保険文化センター『生命保険に関する全国実態調査/2021(令和3)年度』によると、介護費は約580万円。施設介護も含めた平均値は月8.3万円で、平均介護期間は約5年1ヵ月です。ただし介護はいつまで続くか分からず、10年以上続くことも考えられます。介護期間が長くなれば支出もそれだけ増えることになります。

まず直面するのが親の介護。その後に自身の介護と向き合うことになるでしょう。自身の介護費用については自身で持つのが基本なので、親の介護でコストを負担することは通常はありません。ただ、親が負担できなければ子が負担することも。親の介護費用を負担すると自身の介護費用が不足する事態も考えられるので注意しておきたいところです。

医療費は70歳以上75歳未満の被保険者は所得に応じて2割または3割、75歳以上の後期高齢者医療制度の被保険者は所得に応じて1割~3割を負担します。平均すると10万~20万程度の医療費負担ですが、病気やけがなどの内容によってはかなり高額になるケースもあり、家計を圧迫する要因になります。

ほかにも冠婚葬祭費や住宅の修繕など、突発的な支出も当然あるでしょう。想定以上の支出になることも珍しくなく、一概に「貯蓄がいくらあれば安心」「年金のほかにいくらあれば余裕」とはいえません。それほど老後の生活は不透明なものです。それでも老後の安心のために、現役世代の私たちができるのは、大きく「①働いてお金を得る」「②お金を貯める」「③お金を運用する」「④無駄を省く」の4点。とにかく、できることから第1歩を踏み出してみることが大切です。

(写真はイメージです/PIXTA)