大ヒット映画を天才作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーがミュージカル化した『スクールオブロック』が、コロナ禍による2020年の全公演中止を乗り越え、いよいよ日本初演の幕を開ける。ひょんなことから名門校の教師となる破天荒なバンドマン、デューイ役をWキャストで務める西川貴教と柿澤勇人に、稽古が佳境に入った8月初旬、感じている手応えや作品の魅力を聞いた。

西川さんのチャーミングで面白いところもデューイ役にぴったり(柿澤)

――本作で初めてご一緒されるおふたりということで、まずは現時点でのお互いの印象を教えていただければと思います。

西川 カッキー(柿澤)とは、17歳も年齢差があるんですよ。そんな僕らがひとつの役を分け合うっていうのがね、僕はまず本当におこがましくて(笑)。

柿澤 いやいやいや(笑)。

西川 というのがある上で、舞台に関してはカッキーが大先輩。デューイというキャラクターの方向性を、先にどんどんつかんで見せてくれるので助かっています。初めての読み合わせって、Wキャストだと普通は一幕と二幕で分けたりするんでしょうけど、読み合わせの当日、僕の喉の調子が万全じゃなったこともあって、カッキーが通してやってくれたんですよ。僕はそれを“教材”みたいにして(笑)、聴きながら台詞を入れていたくらいです。

柿澤 お会いするまでは“テレビで見る西川さん”のイメージが強く、ものすごくエネルギッシュでパワフルな方という印象がありました。今回の役って、非常に疲労度が高いといいますかずっとテンションも高くいないといけないから、1回や2回稽古しただけではつかめないんですよね。僕はやる度に「あーもう無理!できない!」とかって落ち込んじゃうんですけど、西川さんはそんなことないんだろうなと思っていたら実は同じタイプで(笑)。

西川 ああ、そうね(笑)。

柿澤 稽古が終わるとため息をつきながら帰ってこられて、その姿がとても愛おしい(笑)。親近感があると言ったら失礼ですけど、もしテレビで見てたイメージ通りのパワフルな方だったら、僕は孤立しちゃってたかもしれないなと思います。それとやっぱり本物のロッカーなので、ギターの弦の押さえ方や音楽に関する膨大な知識をいつも教えていただいています。

西川 作品の時代背景が、僕がティーンエイジャーだった頃と真正面から重なってるから。カッキーがまだ生まれてない時代の“昔話”をしてるだけ(笑)。

柿澤 ありがたいです。本物のロッカーだというところも、可愛らしくてチャーミングで面白いところも、デューイ役にぴったりですよね。

カッキ―は“一生懸命な青年”という感じがヒシヒシと伝わるデューイ(西川)

――デューイ役としてのお互いの印象、ぜひ詳しくお聞きしたいです。

柿澤 デューイって、よくよく考えるとサイテーな人間なんですよ。自分の夢と金のために嘘ついて、子どもたちまで完全に利用して(笑)。でも西川さんが演じるとそうは感じないんです。最初から「こいつサイテーだな」って思われちゃったら、お客さんも入り込めないと思うんですけどその心配は全くない。憎めないところが本当にぴったりだなと思います。

西川 カッキーはね、もうなんかピチピチしてるから。生命力とか熱量の高さみたいなものがすごく感じられるデューイで、これが17歳の年齢差か!と(笑)。

柿澤 ははは!

西川 その熱量に、周りも照らされると言うんですかね。子どもたちもほかのキャストの皆さんも、どんどん巻き込まれていっているのを感じます。カッキーは僕のデューイを「憎めない」と言ってくれたけど、それはカッキーもそうで。熱とエネルギーがあるから、デューイのサイテーなところも(笑)、「なんとか夢を実現させたい」っていう純粋な気持ちから来てるように見える。“一生懸命な青年”という感じが、ヒシヒシと伝わるデューイです。

――ではデューイを演じる上で、ご自身が大切にしていることは?

西川 Wキャストって、僕は初めての経験なので、最初は葛藤もあったんです。自分のやるシーンを客観的に見ることができる環境のなかで、どれくらい取り入れて、どれくらい逆に振ったほうがいいのかなと。でも鴻上さん(演出の鴻上尚史)に「それぞれ別々でいいんじゃない?」と言ってもらってからは、自分の気持ちが動くままにやろう、と思うようになりました。気を付けてることがあるとしたら、「これじゃ西川のまんまじゃないか」と思われないようにしようっていうくらい(笑)。その切り替えみたいなところは、やっぱりカッキーから勉強させてもらってます。

柿澤 いえいえいえ、とんでもないです。

西川 だってカッキー、稽古が始まった瞬間、パキーンって役に入るじゃない。普段は真面目で物静かで、ずーっと汗止めのローションを顔に塗ってるだけの男なのに(笑)。

柿澤 はははは! 汗っかきなんでね(笑)。大切にしていること、僕はなんだろうな。デューイって本当にずっとテンションが高いから、「よっこいしょ」みたいに心のスイッチを入れないと、しんどいシーンもあるんですよ。正直、「次このシーンかあ……」って落ち込んじゃうこともあって(笑)。

西川 8場(一幕後半、デューイが子どもたちに自作の曲を披露するシーン)ね! 8場が来るって思うと俺もそうなる(笑)。

柿澤 怖いシーンですよね(笑)。一生懸命さとか、暑苦しさみたいなのを持ってないと成立しない。でも逆に、それさえ持っていればスベろうが、お客さんにダメな奴と思われようが、デューイとしては全然ありだと思っています。だからとにかく全力でやることを大事にしたいですね。

子どもたちのエネルギーに助けられている

――開幕が近づき、お稽古も佳境に入った頃かと思います。この段階だから見えてきた、作品の魅力などについてお聞かせいただけますか?

西川 やっぱり子どもたちですよね。今回のキャストには、舞台経験のある子役の子たちと音楽をやってきた子たちがいて、最初はその差が結構あったんです。舞台経験のない子たちは、お芝居になるとちょっと気恥ずかしそうにしてたり、声が小さかったり。

柿澤 そうでしたね。

西川 でも鴻上さんの演出を受けてみんなどんどん成長して、最初の頃と今では、お猿さんが立派な役者さんになったくらい違う(笑)。人間ってすごいなあと思いますよ。

柿澤 それにみんな、本当に楽しそうですよね。この時期になると通し稽古も増えてどうしても疲れてエネルギーが枯渇するんですけど(笑)、彼らにはそれが全くない。常に100%エネルギーがあるし、全部出し切ってもすぐに回復する。

西川 失敗を恐れないところもすごいよね。我々大人は、ダメ出しされたくないから目立たないようにしとこ、とか思っちゃうけど(笑)、みんな何か聞かれたら「ハイ!」って手を挙げるし、ダメ出しされても気にしないどころか、そもそも聞いてなかったりしますから(笑)。

柿澤 そんな子たちが24人もいるから稽古場は騒々しいんですけど(笑)、彼らからエネルギーを分け与えてもらっている感覚が僕にはあって。しんどいシーンも、子どもたちと一緒だと自然と全力でできたりするので助けられてるなあとつねづね思います。

ミュージカルスクールオブロック』稽古より、西川貴教と生徒役キャスト
ミュージカルスクールオブロック』稽古より、柿澤勇人と生徒役キャスト

――子どもたちのエネルギーはやはり、大きな見どころになりそうですね! では、音楽の魅力についてはいかがでしょうか。

西川 ロイド=ウェバー作品ということで、複雑なコード進行を使ってたりするんじゃなかろうかなんて、最初は勝手に思っていて。でもこの作品においては、すごくシンプルだよね? メジャーのCとGだけで構成されてます、みたいな曲もあるし、オーケストレーションドラムとギターとベースだけ、みたいな感じだし。

柿澤 そうですよね。僕もきのう初めてバンドと合わせてみて、改めてシンプルでストレートだなと思いました。僕が出演してきたほかのロイド=ウェバー作品とまた違う印象です。

西川 ああやっぱり。シンプルなのに、上に乗ってるメロディーによって“聴かせる”ことができちゃうのが、ロイド=ウェバーのすごさなんだろうなと思います。

柿澤 あと単純に、すごく乗りやすいですよね。聴いてて「難しそうだなあ」って感じる曲がデューイにもほかの役にもあんまりない。実際歌うとキーが高くて難しいんですけどね(笑)。

西川 たっかいよね! これだけミュージカルやってる人が言うんだから間違いない(笑)。

柿澤 西川さんからしても高いですか?

西川 あのね、週末だけ歌えばいい、ってことなら全然頑張れるんですよ。でも今回は、毎日だから。正直、あんまりミュージカル向きではないんじゃないかと思ってる(笑)。これは歌だけじゃなくて、台詞とも関わってくる問題だよね。

柿澤 うんうん、本当にそう思います。

西川 デューイはずっとテンションが高いというか、台詞で盛り上げて歌に辿り着いて台詞に戻ってくるみたいな波形がなく、ずーっと下りてこない人(笑)。そこが大変なところなんだと思います。ふたりとも、1公演終わるごとにぐったりしてそうですね(笑)。

ミュージカルスクールオブロック』稽古より、柿澤勇人

――熱い夏になりそうですね(笑)。最後に、今までのお話で出てこなかった見どころなど含め、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

西川 子どもたちはもちろん、ほかのキャストの皆さんも本当に素晴らしいです。めぐさん(濱田めぐみ)の歌はやっぱりさすがですし、ネッド(梶裕貴・太田基裕)とパティはいだしょうこ宮澤佐江)はWキャストでカラーが全然違って面白い。ぜひ色んな組み合わせでご覧いただきたいですね。

柿澤 僕はそうですね、本当に夏にぴったりの作品だなと。生きていると、イライラしたりむかつくことっていっぱいあると思うんですけど(笑)、そういうストレスを発散できる作品。ここまでライブ感覚で一緒に盛り上がって弾けられるミュージカルってなかなかないんじゃないかな。

西川 そう、コロナもあったしね。

柿澤 ガンガンのロックと、子どもたちのピュアなエネルギーが劇場に充満すると思うので、そちらも是非楽しみにしていただけたらと思います。

上:チーム・コード、下:チーム・ビート

取材・文:町田麻子

<公演情報>
ミュージカルスクールオブロック

音楽アンドリュー・ロイド=ウェバー
脚本:ジュリアン・フェロウズ
歌詞グレン・スレイター
日本版演出・上演台本:鴻上尚史

出演:
デューイ・フィン役:
西川貴教/柿澤勇人(Wキャスト)
ロザリー・マリンズ役:
濱田めぐみ
ネッド・シュニーブリー役:
梶裕貴/太田基裕(Wキャスト)
パティ・ディ・マルコ役:
はいだしょうこ ※/宮澤佐江(Wキャスト)

阿部裕、神田恭兵、栗山絵美、多岐川装子、俵和也、丹宗立峰、
ダンドイ舞莉花、中西勝之、西野誠、湊陽奈、安福毅 (五十音順)
スウィング:AYAKA、森内翔大
はいだしょうこ:ロザリー・マリンズ役カバー

■チーム・コード
小川実之助:ローレンスキーボード
桑原広佳:マーシーコーラス
飛田理彩子:ケイティ(ベース)
中込佑協:メイソン(技術:ステージエンジニア)
中嶋モモ:フレディドラム
平岡幹基:ジェイムズ(警備:セキュリティ
前田武蔵:ビリー(衣裳:スタイリスト)
真木奏音:ソフィー(ローディー:楽器セッティング・運搬)
三上さくらトミカ(ボーカル)
三宅音太朗:ザック(ギター)
宮﨑南帆:ショネル(コーラス
山崎杏:サマー(マネージャー)

■チーム・ビート
大久保実生:トミカ(ボーカル)
加藤悠愛:ソフィー(ローディー:楽器セッティング・運搬)
木村律花:ショネル(コーラス
熊田たまき:ローレンスキーボード
後藤日向:ザック(ギター)
佐藤凌:ビリー(衣裳:スタイリスト)
シーセンきあらマーシーコーラス
中川陽葵:サマー(マネージャー)
三宅音寧:ケイティ(ベース)
村井道奏:フレディドラム
宮島伊智:ジェイムズ(警備:セキュリティ
屋鋪琥三郎:メイソン(技術:ステージエンジニア)
五十音

【東京公演】
2023年8月17日(木)~2023年9月18日(月・祝)
会場:東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)

【大阪公演】
2023年9月23日(土・祝)~2023年10月1日(日)
会場:新歌舞伎座

チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2342693

公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/sor2023/

西川貴教×柿澤勇人