航空自衛隊C-2輸送機に攻撃能力を付与する構想が具体化しています。しかも、ミサイルなどの物理攻撃だけでない能力も付与される予定。輸送機でどう戦うのか、C-2はどれだけ攻撃的に変貌するのか、見えてきました。

C-2輸送機の「攻撃機化」計画 かなり具体的に

2023年8月7日(月)の時事通信は複数の政府関係者の話として、防衛省航空自衛隊の「C-2輸送機に長射程ミサイルを搭載する検討に入ったと報じました。かねて話のあった「輸送機攻撃機化」ともいえる構想が、かなり具体的になってきているようです。

日本政府は2022年12月16日に発表した国家安全保障戦略に、敵の防空システムなどがカバーする範囲の外側、それも可能な限り遠方から攻撃できる「スタンド・オフ防衛能力」の強化を打ち出しており、その一環として航空自衛隊輸送機に搭載する長射程ミサイルの発射システムの開発を盛り込んでいます。ただ、このときには対象の航空機については「航空自衛隊輸送機」としか書かれていませんでした。

2023年8月の時点で航空自衛隊C-2C-1C-130Hの3種類の輸送機を運用しています。2020年代半ばの退役が予想されているC-1と、最も新しい機体でも製造から25年が経過しているC-130Hへの長射程ミサイル発射システムの搭載は現実的ではなく、実現するとすれば長射程ミサイルの発射システムを搭載する航空自衛隊輸送機C-2一択であると目されていました。

また防衛装備庁は2023年2月27日に「C-2輸送機用誘導弾等発射システムの開発に係るデータ取得の検討」という業務の契約希望者を募集しています。この業務や時事通信の報道などから、日本政府と防衛省は長射程ミサイルの搭載母機となる航空自衛隊輸送機を、C-2に絞り込んだと見て間違いないものと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

そのC-2に搭載されるミサイルの発射装置は、アメリカ空軍が開発を進めている「ラピッド・ドラゴン」のようなものになると思われます。

「ラピッド・ドラゴン」それはパラシュートで降りてくる?

ラピッド・ドラゴンは、C-17C-130の両輸送機が貨物の空中投下に使用するパレットに、長射程巡航ミサイル「JASSM-ER」を搭載するシステムです。

パレットから標準の空中投下の手順で投下されたJASSM-ERは、パラシュートで安定を得た後に翼を展開して、あらかじめ設定された目標に向かって突入する仕組みとなっています。

C-130輸送機であれば6発、C-17輸送機であれば9発のJASSM-ERをそれぞれひとつのパレットに搭載することが可能で、戦闘機などに比べて大量のJASSM-ERを一度に発射することを目指しています。

搭載する輸送機には目標情報の入力や変更に使用する戦闘管理システムの追加装備が必要となりますが、機体そのものの改修は必要としません。

ラピッド・ドラゴンのようなシステムをC-2に搭載すれば、有事の際に敵の先制攻撃航空自衛隊戦闘機に損害が生じた場合でも、航空自衛隊に一定の反撃能力を与えることが可能で、抑止力を高める効果はあると筆者は思います。

他方で、C-2に搭載する発射システムにどのようなミサイルを使用するのか、発射システムとミサイルを日本が単独で開発した場合、どの程度のコストが必要なのか、2023年3月31日の時点で16機しかないC-2を輸送以外の任務に投入できる余裕があるのかなど、装備化する場合の課題は山積みであるとも言えます。

加えて、C-2には別の新たな能力の付与も予定されているのです。

物理攻撃だけじゃないC-2の「攻撃機化」

C-2は「スタンド・オフ電子戦機」のベース機となることも予定されています。これは、戦闘機の後方で敵のレーダー波などをキャッチし、強力な電波などの照射による通信の妨害、さらにはレーダー施設などの無力化を行う航空機のことです。

防衛省はスタンド・オフ電子戦機の開発にあたってコストの低減も達成目標として挙げています。そこで、電波情報収集装置や妨害装置などの電子機器、その電子機器に不可欠な冷却装置、各種アンテナを搭載できるだけの機内容積があり、かつ既存の整備基盤が流用でき運用コストも低減できる――こうしたことなどから、C-2がベース機になったようです。

スタンド・オフ電子戦機は、C-2の機首や機体上部などに各種アンテナ、機体と機内に電波妨害装置、電波収集装置などをそれぞれ搭載する形で開発されます。

各種装置の試作は2020年度から開始されており、2027(令和9)年度まで継続されます。また2026(令和8)年度から2028(令和10)年度にかけては技術/実用試験が計画されており、順調に進めば2030年代初頭には戦力化できるものと考えられます。

本来の任務はこのままで大丈夫なのか?

政府の打ち出したスタンド・オフ防衛能力を実現するため、やたら「攻撃的」な能力の付与が計画されているC-2ですが、航空自衛隊は2023年3月31日の時点で16機しか保有していません。

C-2は当初30機程度の調達が見込まれていましたが、その後調達予定数は25機まで削減されており、2018年12月20日付の朝日新聞は、防衛省財務省C-2の調達数を22機とすることで合意したと報じています。

この報道が事実であれば、22機では輸送という本来与えられた使命を損なうことなく、スタンド・オフ防衛能力にC-2を活用するのは不可能だと考えられますし、活動するのであれば、調達数の増加も視野に入れる必要があると筆者は思います。

航空自衛隊のC-2輸送機(画像:航空自衛隊)。