人間の親は多くの種の中で赤ちゃんの泣き声に敏感だ。言葉のない苦痛を伝える呼びかけに対し、本能的に反応する。
そして驚くべきことに、ナイルワニも、人間やチンパンジー、ボノボの赤ちゃんなど、通常は捕食対象ではない霊長類の泣き声を認識し、強く反応することが新たな研究で明らかとなった。
だがそれが狩猟本能なのか?回避行動か?好奇心か?母性なのか?今のところその動機ははっきりしないそうだ。
フランスの研究チームは、モロッコのワニ動物園(CrocoParc)で飼育されているナイルワニ (学名:Crocodylus niloticus)を対象に実験を行った。
CrocoParcは、約300匹のナイルワニが自由に歩き回ることができる広い敷地と多数の池のある屋外施設だ。
CrocoParcのナイルワニに、”苦痛の度合いの違った”人間の赤ちゃんの泣き声と、チンパンジー、ボノボの赤ちゃんの鳴き声をスピーカーから流して、その反応を観察してみた。
例えば、人間の赤ちゃんのものなら、お風呂に入れられているときのちょっとした泣き声と、病院で注射されるときの本気の泣き声、チンパンジーとボノボには、親の注意を引くためのちょっとした鳴き声、仲間とのケンカの際に出す大声などが用意されていた。
ワニは、人間やチンパンジー、ボノボと生息圏が違うため、こちらから水辺に近づいて行かない限りは襲いに来ることはない。
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にもかかわらず、こうした鳴き声を聞いて多くのワニが反応を示したという。
苦痛の度合いが大きい鳴き声ほど強く反応する
もしかしたらワニが興奮するような特定の音や周波数があるのだろうか? こう疑問に思った研究チームは、その音響を分析してみることにした。
ここから明らかになったのは、ワニがよく反応する泣き声は、周波数が高く、エネルギーが強いもので、しかも音波が不規則なものであることだ。
それは呼吸が乱れるほど、泣き叫んでいるときの特徴だ。
つまり、苦痛の強さを表していると考えられる。ならば、ワニは赤ちゃんの泣き声の苦痛の大きさを感じて、反応しているのかもしれない。
捕食か?回避か?それとも母性なのか?
なぜワニが、霊長類の発する苦痛の鳴き声(泣き声)に反応をしめすのか?その動機はまだ明らかになっていないという。
可能性としては、捕食目的だ。近くで狙えそうな獲物を探しているのかもしれない。観察されたナイルワニの中には、こうした声を聞いて水中を泳ぎ出したものがいたという。
だが、ワニが泣き声に反応する理由はほかにも考えられる。
たとえば、水中を泳ぎ出したのは、その音に警戒して身を隠したとも考えられる。
またワニは、幼いワニからの助けを求める声にとても強く反応することがあるのだという。だとするなら、捕食ではなく、助けるべきかどうか注意を向けているのかもしれない。
ワニのメスと一部のオスは、自分の子供の苦しそうな叫び声に反応することがあるが、その鳴き声は霊長類の赤ちゃんの鳴き声と音響的特徴が似ているという。
あるいは、近くで鳴った音にただ興味をもっただけとも考えられるという。
また、ワニが人間の赤ちゃんの泣き声に敏感であることは、彼らがかつて、このような声を長い期間、聞いていた可能性があるかもしれない。これは、私たちの祖先にとってワニが脅威であったことを示唆しているという。
無表情なワニはクールな見た目だが、研究者によれば、かなり好奇心旺盛な動物なのだそうだそうで、動機の解明は今後の研究に期待しよう。
この研究は『Proceedings of the Royal Society B』(2023年8月9日付)に掲載された。
References:Crocodiles are drawn to the wails of crying human babies and infant primates | Live Science / Nile Crocodiles Recognize and React to the Sound of Crying Babies | Science| Smithsonian Magazine / written by hiroching / edited by / parumo
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