前回は日本の最新式戦車である「10式(ひとまるしき)」戦車の開発全般について記述した。本稿では列国の主力戦車と比較しながら10式戦車の現状について述べてみたい。
まず10式戦車と列国の主力戦車の性能諸元は次の通りである。M1A2は米国の「M1エイブラムス」、「レオパルト2」はドイツ、「ルクレール」はフランス、「チャレンジャー」は英国の各戦車である。
下の表の中で、SBとは滑腔砲(Smooth-bore)、Gは施条砲(Gun)のこと。
戦車名 10式 M1A2 レオパルト2 ルクレール チャレンジャー 火砲 120SB 120SB 120SB 120SB 120G 口径 44 44 55 52 55 重量(t) 44 68 60 56 62 乗員(人) 3 4 4 3 4 最高速度(km/h) 73 66 72 72 56 エンジン(hp) 1200 1500 1500 1500 1200 出力(hp/t) 30 24 25 26 19 全長(m) 9.4 9.83 11.29 9.87 11.55 全高(m) 3.2 3.66 3.74 3.7 3.52 全幅(m) 2.3 2.88 2.63 2.53 2.49 特徴 自動装填 車長熱映像 熱映像 自動装填 層状装甲 目標自動追尾 指揮統制 指揮統制 モジュール装甲 射撃統制 射撃統制 車両間情報 射撃統制 電子装置 電子装置 デジタル地図 射撃統制 複合装甲 着脱式複合装甲 ガスタービンエンジン 電気式砲制御安定装置 モジュール装甲 複合装甲主要項目を比較してみたい。
火力(主砲)
列国とも砲の直径に差はない。しかしながら、砲身の長さ(砲の直径×口径=口径長という)に差がある。
口径長が長ければ長いほど高初速の徹甲弾を発射することができるので、レオパルド2、チャレンジャーの貫徹力は10式・M1A2・ルクレールを上回っていると基本的には考えられる。
貫徹力は重要であるが、10式の開発間の実験と経験から徹甲弾は戦車に命中すれば、数十万Gの圧力が砲塔内に加わるため、たとえ貫通しなくても、砲塔内の乗員に致命的なダメージ与える。
命中することが大事なのである。
命中精度は各種射撃統制装置が大きく影響するが、各国ともその性能の細部について明らかにしていないので、判定は困難である。
実戦を経験しているM1A2が装置の改善を着実に図っているとみられる。また、口径長が大きいと戦車の重量も増えるので、迅速な機動に影響が出てくるマイナス面も承知しておく必要がある。
機動力
トン当たり馬力は10式が他を圧倒している。
しかしながら、戦場における機動は高速で走行することだけではなく、戦場における各種の地形克服能力が重要である。
行動間、戦車は森林、草原、砂漠、都市(堅硬舗装道路)、田畑、湿地帯、時には水深2~3メートル以下の河川を行動しなければならない。
そのため、堅固な足回りが重要である。
接地するキャタビラの長さと幅(接地圧)・材質のみならず下部転輪への負荷の軽減が重要になってくる。
10式は転輪数10脚で1脚当たりの圧は4.4t、M1A2は14脚で圧は4.8t、レオパルトは14脚で圧は4.2t、ルクレールは12脚で圧は4.6t、チャレンジャーは12脚で圧は6.1tである。
エンジンはM1A2がガスタービンエンジン(ディーゼルに比べ燃費が悪い)のほかはディ-ゼルエンジンでその出力に大きな差異はない。
超堤能力は各戦車とも1~1.2メートルで差異はない。超壕能力は概ね車体長の半数で、それぞれ4.7~5.3メートルでありこれも大きな差異はない。
機敏な行動の目安となるのが最小回転半径である。
M1A2、レオパルト、ルクレール、チャレンジャーの最小回転半径は概ね車体長と同じで10メートル前後である。
10式は車体長の半分概ね5メートルである。なぜそのようなことが可能なのであろうか?
秘密保全の観点から詳細を述べることはできないが、原理を説明しよう。
一般的に戦車が方向転換をする時は、進みたい方向の履帯にブレーキをかけつつアクセルを踏むことで車体の方向を転換させるので、回転半径は概ね車体長となる。
一方、10式は進みたい方向の履帯を自動的に逆回転させることが可能な歯車装置を持っていてブレーキをかける必要がないため、迅速な方向転換が可能になっている。
結果として、列国の戦車の半分で方向転換が可能となっている。小回りが効くのである。
行動距離は各戦車とも450~500キロであり、大きな差は見られない。
渡渉能力については米国海兵隊向けM1A1と10式が渡渉機材を標準装備しており、潜水可能水深はM1A2で約2メートル、10式で約3メートルである。他の戦車は車体部の高さまでの水深は行動可能である。
トータルバランスから機動性については①レオパルト②10式③ルクレール④M1A2⑤チャレンジャーの順とみるのが妥当ではないだろうか。
装甲防護力
各戦車とも装甲は複合装甲と呼ばれる鋼板と鋼板の間にセラミック樹脂等を挟み込んだ装甲板を使用しているが、その細部は秘匿度が高く詳細は明らかになっていない。
特に対戦車榴弾に対して効果があるとされているのが、高硬度のセラミック樹脂だ。
しかし、連続の被弾に対しては脆弱性があると言われており、セラミック樹脂等の厚さと大きさについて各国とも研究に余念がない。
戦車砲弾、対戦車ミサイル、対戦車地雷、ドローン等への対応も含め乗員の防護の観点からはM1A2が最も防護力が高いと言えよう。
次いで、レオパルト、チャレンジャー、ルクレール、10式の順であろう。
指揮・射撃統制システム
各戦車ともデジタルマップを使用してリアルタイムの情報共有を実施しているが、詳細については明らかにしていない。
情報伝達の反応時間には数十秒から数分の差があると言われている。最も反応が早いのは10式のほぼリアルタイムである1秒程度ではないか。
また、目標追尾機能は赤外線と可視機能を具備した10式が最も進んでいると思われる。
経済性
戦車1台当たりの価格は概ね次の通りであろう(諸説ある、換算レートは1ドルを約100円とした)。
10式:940万ドル(約9.7億円)
M1A2:850万ドル(約8.7億円)
レオパルト2A6:697万ドル(約7億円)
戦車の経済性は戦車の単価だけではなく、継続的運用の可否も考慮されなければならない。
それは兵站、特に補用部品の価格と所要量の確保の可能性である。
そのような観点からは、既に6000余両生産したM1A2と2300余両を生産したレオパルトが柔軟に対応できる戦車といえよう。後方支援体制が整備されていると判断できる。
EUの主要国がレオパルトを装備しているのは理解できるところである。
現在までの生産台数がルクレール、チャレンジャーは数百両、10式は100両余では厳しい状況である。
経済性の観点から①レオパルト②M1A2③ルクレール=チャレンジャ-⑤10式の順ではないか。
3位と5位の差は国が兵站(修理、改修、部品製造等)に関与しているか否かの差である。
生存性
最も生存性を重視しているのはM1A2である。
中東戦争の教訓を踏まえ、砲塔全周・砲塔内の鋼板の厚みの増加、車体側面に対するスカート(転輪部を覆う鋼板)の設置などにより列国の戦車よりも6~22トン重量を増やし乗員の安全確保に留意している。
レオパルト、ルクレール、チャレンジャーには大きな差はない。重量からは10式が最も生存性の低い戦車であるともいえよう。
全般評価
各評価項目を踏まえ全般評価をすると、その順位は
レオパルト2A6
がワールドワイドの活動の可能性を踏まえると順当ではないか。
なぜ10式のトータル評価が低いのか?
なぜ、我が10式戦車の総合評価が低いのか。答えは簡単である。
憲法上の制約からも、10式は日本国内以外での運用を考慮していないからである。
10式が運用される場面は敵の着上陸を阻止するための対着上陸戦闘、さらに内陸に侵攻する敵の阻止撃破(含む対空挺ヘリボーン戦闘)、都市における戦闘等である。
これらの運用場面における特徴は、日本国内では通視距離(障害物がなく見渡せる距離)が概ね2.5キロ以下がほぼ100%であることである。
この特徴を生かすため、敵に先んじて目標を発見し、先制射撃より100%の確率で撃破することで任務を達成すると共に生存を図っているのである。
その為、10式は前後左右に迅速軽快機敏に行動し、敵に先んじて「見敵必殺」を実施することが可能な各種機能を満載しているのである。
それにより、装甲防護力の弱点を補っているのである。世界のあらゆる地域での運用などは最初から検討されていない。
しかしながら、ウクライナにおける戦闘を見ると、その戦場地形(都市、道路、河川、耕作地、小森林が不規則に連接している)はまさに日本国内の地形と類似している。
10式がその能力を十分に発揮できる地域であるのは間違いのないところである。
最後に
列国戦車の各種機能について白紙的な評価を実施した。
しかし、忘れてはならないのは、戦車は車長・砲手・操縦手・(装填手)が乗車し、「心手期せずして」それぞれの役割を整斉確実に実施することで、その機能を100%発揮することが可能となる点だ。
そのため、徹底した習熟訓練が不可欠である。
訓練不十分のまま、ウクライナの戦場に投入されたレオパルトやチャレンジャーがロシアの火力と地雷で大損害を被ったニュースはそれを実証している。
「人車一体となる」陸上自衛隊機甲科部隊の合言葉である。陸上自衛隊は絶対的信頼感をもって10式を運用している。
[もっと知りたい!続けてお読みください →] ウクライナに日本の最新鋭戦車がもし投入されたら・・・
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