行定勲監督が、長浦京の同名小説を綾瀬はるか主演で映画化したアクション大作『リボルバーリリー』が公開中だ。大正末期の東京を舞台にド派手なガンアクションが展開する本作、長谷川博己、羽村仁成(Go!Go!kids/ジャニーズ Jr.)、シシド・カフカ、古川琴音、清水尋也、ジェシー(SixTONES)、佐藤二朗、豊川悦司ら実力派キャストの豪華競演も話題となっている。

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公開後、「邪念が消え失せ、物語の中に完全に入り込んで観た映画は久しぶり」「空想活劇の世界観で本当に楽しませてくれた」など、その世界観に魅せられたという観客の声が目立つが、なかでも「綾瀬はるかがいることで、場が凛とする」「映画の衣裳と相まって本当にスクリーンに映えていた」「銃を持って戦う姿は、女性の俳優のなかで綾瀬さんが一番似合うと思う」などダークヒロイン、小曾根百合役を演じた綾瀬はるかの存在感に称賛が集まっている。

MOVIE WALKER PRESSでは、新潟、福岡、仙台と監督が地方プロモーションを行うさなかの行定監督に独占インタビュー。綾瀬の映画初出演作品であるオムニバス映画『Jam Films』(02)の1本である『JUSTICE』から彼女を見てきた監督ならではの、女優としての綾瀬はるか、小曾根百合というキャラクターに込めた想い、長谷川博己とのコンビネーションまでを聞いた。

■「最初からもう、『これが百合なんだな』と思わせてくれた。むしろ僕はそれを受け止める側でした」

撮影現場で、「綾瀬さんは自分の映り方にすごく厳しい」と語っていた行定監督。監督から見て、「あ、いま小曾根百合になったな」とスイッチが入った瞬間はあったのだろうか?「最初からもう、『これが百合なんだな』と思わせてくれた。むしろ僕はそれを受け止める側でした」と言う。その理由として、綾瀬はるかの“ブレなさ”を挙げる。

「撮影はアクションシーンではなく、なにげないショットから始まったんですが、歩き方からなにからブレがない。百合が森の奥からずっと歩いてくるシーンがあるんですが、視点もこちらを見据えたままで、揺るぎないものを感じる。僕、あのシーンがものすごく好きで。『これが百合なんだ』と思わせてくれる説得力があったんです」。

品の良い言葉遣い、語尾までキリッと言い切る“発話”も、百合のキャラクターを際立てているが、「綾瀬さんに古い映画を観ておいてください、とお願いした記憶はあります。例えば、声優さんが古い外国映画のアテレコをする時なんかは、古めかしいニュアンスがちょっと混ざって、丁寧な語尾になったりする。本人もその感覚はわかっていたので、綾瀬さんの芝居はまさにドンピシャでした。撮影の序盤は“ちょっとやりすぎかな?”と思っていたんだけど、聞いていくうちに心地よい。というか、“百合はそういう話し方なんだ”と自然と思えた。一方で、(古川琴音演じる) 琴子ちゃんは琴子ちゃんで、丁寧な口調なんだけどいまっぽいという“現代っ子”なアプローチをねらっていました。2人の対比がハマればいいなと」。

行定監督は、『リボルバーリリー』の公開に合わせ、著書「映画女優のつくり方」を発売したばかり。綾瀬はるか沢尻エリカ、竹内結子、長澤まさみ薬師丸ひろ子、吉永小百合…日本を代表する女優たちについて、撮影時のエピソードを交えて語っている。この本の中でも綾瀬について「映画にしか映らない気品」「体幹のよさがすばらしい」と言葉を寄せる。改めて、女優・綾瀬はるかの魅力を聞いてみると、「実は、謎多き人」と意外な答えが返ってきた。

「常に “女優の綾瀬はるか”しか見えない。バラエティもたくさん出ているけれど、女優として成り立っているものしか出ない。そういう意味では、昔の女優さんみたいなのかな。みんな勝手に、綾瀬はるかって少し天然で、柔和で、かわいらしい人って思っていると思うんですけどね。彼女自身が、実は自分の知性みたいなものも含めて、世の中に出しすぎたくないのかもしれない。パーソナルなものだから。だって知的じゃないと、この映画で発揮している“ブレなさ”とか、ああいう選択は出来ないですよ。努力家だし、本人の中で品格みたいなものを育て上げている人だな、と感じています」

■「アクション映画でありつつも、百合がなぜもう一度なぜリボルバーを握ることになるのか?というドラマ」

16歳からスパイとして暗躍し、わずか3年で57人の殺害に関与した過去を持つ小曾根百合。帝国陸軍資金の鍵を父親から託された少年・細見慎太(羽村)に助けを求められ逃避行を繰り広げていくさまは、少年をかくまうため、銃を片手に女性がマフィアと抗争する『グロリア』(80)なども想起させる。

“大人の女性と少年”というコンビネーションについて聞いてみると、「もともと母親だった百合には、自分の子どもを失った過去がある。その後、彼女の時間は止まったまま、いつの間にか年齢だけを重ねていて。そこに現れた少年は、自分の子どもにしては大きいんだけど、一緒にいるとどこか母性が働くような感覚がある。だけど、大人の女性を前に、少年はどんどん成長していく。そうすると慎太にとっては、百合は初恋の人になっていくんです」。

本作が映画初出演となった羽村のフレッシュな演技と、慎太さながらに成長していく顔つきにもぜひ注目したい。行定監督も、「叶わない想いだとわかりつつ、憧憬を募らせていく。ともに過ごすなかで、精神的な距離感がどんどん詰まっていく。それが成長というものだと思うんです。でも百合からすると“いつの間にかこんなに歳を重ねてしまっていた”と気付かされる。そういう風に、お互いがお互いに違う距離感でいるという関係性も素敵だなと思っています」と解説する。

そう、本作は行定監督が「アクション映画でありつつも、百合がなぜもう一度なぜリボルバーを握ることになるのか?というドラマなんです」と語るように、自分で自分の時を止めてしまったような百合がふたたび動き始めるドラマだ。初の本格アクション作品とあって、バランスは迷いながら作っていったそうだが、「アクションシーンでとにかく注目してほしいのは、なぜ戦いが始まるのかという“きっかけ”」と話す。

「アクション映画って、物語上の予定が優先されすぎるように感じることがあって。ジョニー・トーの映画なんかがそうなんですが、勘違いしたフライングの一発が銃撃戦を引き起こしちゃったりする、そういう予定調和ではない“偶発性”を大事にしました。百合としては、本当はこの道じゃないところを行きたかったのに…とか、もっと賢いことをやろうとしたのになんでそこで撃つんだ!みたいな(笑)。どうせ撃ち合いにはなるんだけれど、物語の一部としてアクションシーンを楽しんでもらえたらうれしいです」。

この作品を撮るにあたって見直した作品は『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』(95)だとも明かしてくれた。「押井守監督の『攻殻機動隊』は、すごく端正な銃撃戦やインパクトのあるアクションが、内容云々を超えて忘れられない印象を与えてくれる。実は、昔の東映の任侠っぽさのような匂いすら感じる。あらすじにはまとめづらいストーリーなんですけど、場面の作り方、構造、キャラクター、すべてが点でよくて、世界観を作っている。僕はそういうものが好きだな、と改めて思わされました」。

また、ドラマとしてこだわったポイントは「百合の生き方としての“純度”の高さを描く。それだけは明確に見えていました。例えば先人が作った『ニキータ』とかにも表れているように、自分が“この人は”と思って愛した人が、いかに自分を利用していたとしても、その人のことを信じて傷つく。その“傷つき方”こそが、純粋さの表れですよね」とも語る。

「彼女がずっときれいなドレスを着ているのも、“殺しの時こそ美しくいろ”と言われたことを守り続けているから。人を殺すなんて、汚れ役ですよね。そのことを引き受けてもなお品格を失わず、服だけは綺麗なものを身にまとっている。そこはブレないようにしようと思ってやっていました」。

■「普段はアクション映画を撮らない人間である僕が撮っているからこそ、ただのアクション映画ではない」

アクションがさらに美しく見える衣装が複数登場するが、白眉はやはり、ポスターにも採用された白いドレスだ。野村萬斎演じる洋裁店のオーナーが仕立て上げ、クライマックスの戦いを前に百合に着せることとなる。「萬斎さんがとあるインタビューで素敵なことを言っていたんです。『僕には、あの衣装がウェディングドレスにも見える』と。つまり、百合は“戦いと結婚した女性”であり、自分はその背中を押してあげることしかできないんだと。ロマンがありますよね。そういう深い解釈を出来る萬斎さんだからこそ出せる気品がありました。僕にとってもあの衣装は忘れがたいものになりました」と絶賛する。

百合を取り巻く男性キャラクターとして、忘れてはならないのが長谷川博己演じる岩見だ。百合に寄り添う弁護士の岩見は、元海軍。海軍士官学校に行って、“戦争なんかやるべきじゃない”という自分の思想が生まれたことで危険分子とされた人間だ。だが、どこか肩の力が抜けたような軽やかさもあるキャラクターになっていて、それは長谷川からのアイデアだったという。

長谷川くんが僕に提示してきたのは、『海軍を辞めて世捨て人のような心境に至ったあと、結果的に軽やかさをまとっている。なにを考えているのかわからないような、癖のある人間』という岩見像だったんです。当初、僕は不器用なぐらい実直な男をやってもらったらどうかと思っていたんですけど、『いや、ひょっとすると金とかにも困ってないようなボンボンで、家族とかもいるかもしれない』とか、そんなことを言うんですよ(笑)。おもしろいなあ、と思いました。だけど、あの飄々とした感じの裏には、戦争での体験や、怒りや哀しみがある。複層的なキャラクターになりましたね」。綾瀬はるかを筆頭に、それぞれのキャストが自分の役柄を掘り下げ、体得していったことがわかるエピソードだ。

今回、地方プロモーションで新潟、福岡、仙台を巡った行定監督。監督は本作を、地方の映画館にもしっかり届けたいという意識が強かったそうで、「僕の作品の観られ方というか特性としては、男女のやり取りの機微みたいなものを描いていたり、舞台が都会だったりすると、やっぱり都市型でウケるものが多かったんです。でも、この映画は世代も場所も選ばず、入りやすい。誰もが知る綾瀬はるかが主演で、地方の人たちは時代劇にも造詣があると思います。普段はアクション映画を撮らない人間である僕が撮っているからこそ、ただのアクション映画ではない。ハードボイルドな作品を見慣れない人にも、安心して楽しんでほしい」と、力強く語ってくれた。

取材・文/編集部

腕をむき出してアクションするのは初めてだったと語る綾瀬はるか/[c]2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ