今ロックがおもしろい。サブスクリプションサービスで音楽を聴くことが主流になり、プレイリスト文化が定着してもう何年経っただろう。縦割りのジャンルで音楽を聴く人が少なくなった横断/クロスオーバー時代に、ロックがさまざまな場所で確実に生きていることを実感する場面が増えた昨今。世界規模での直近の話だと、ラッパー/ソングライターのトラヴィス・スコットがピンク・フロイドから影響を受けたと公言するアルバム『UTOPIA』で、ロックの文脈から見ても圧倒的なサウンドを鳴らし、ロックを愛するポスト・マローンがさらにまごうことなきロックアルバム『Austin』をリリースした。UKからは御大ブラーが8年ぶりのニューアルバムで見事に帰還、本国でのライブは絶賛の嵐だ。

日本国内に話を移すと、ヒップホップクルー、BAD HOPが、『フジロックフェスティバル』でロックバンド、RIZE×the HIATUSの演奏とともに圧倒的なパフォーマンスを披露した。ローカル規模でも、コロナ禍の規制緩和後、都内のライブハウスは活気を取り戻しつつあると感じている。クラブシーンでもダンスミュージックの中で新たな価値を見出し提示するロックバンドも出てきており、これから大きな何かが始まりそうな予感にあふれている。

そんなロックが躍動する今をw.o.d.はどう走っているのか。彼らは、60年代から続くオルタナティブなロックの文脈をまっすぐ受け継ぎながらオリジナリティを突き詰め、ロックの王道をかつての貯金ではなく、現在進行のものとして輝かせているバンドだと言えるだろう。今年に入ってリリースしたシングル「My Generation」では、BOOM BOOM SATELLITES・THE SPELLBOUNDの中野雅之をプロデューサーに迎え、ぎらついたロックと電子音のダンスミュージックに親和性を見つけ、それをバンドサウンドに落とし込むことで自らのキャリアにまた新たな旗を立てた。最新シングル「STARS」は、TVアニメ「BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-」のオープニングテーマに選ばれ、荒ぶるロックサウンドを2023年のお茶の間にまで響かせている。

だからこそなのか、w.o.d.のライブはスケールアップとともに、年齢や趣味嗜好といった客層もどんどん広がっていることが印象的だ。今回の『バック・トゥー・ザ・フューチャーⅥ』もまた、多種多様な観客の織りなす景色に痺れた。会場は恵比寿ザ・ガーデンホール。オールスタンディング1500人を埋め尽くすフロアは、80、90年代からロックを聴いているであろうミドルエイジや明らかに高校生など、若者を中心に世代はバラバラ。ファッションも古典的なロックからパンク、グランジY2Kのリバイバルなど個性豊かな人々が集う。開演前のBGMが、w.o.d.をめがけて多種多様な方面から集結した観客のシナジーによる、新たなムーブメントの始まりを祝福する賛歌のように聞こえる。

広いステージの真ん中に寄せられたセット。その周りをスタンドところがしの照明が囲む。演出へのこだわりを感じさせつつ、w.o.d.はどこまでもライブハウスのロックバンドだという意志表明のような気合いが漲っていた。お馴染みヴァニラ・ファッジによるザ・ビートルズ「Ticket to Ride」のアーシーでサイケデリックなカバーとともに、サイトウタクヤ(Vo/Gt)、Ken Mackay(Ba)、中島元良(Ds)の3人が登場。場内には大きな拍手と歓声が湧く。

1曲目はw.o.d.を代表する曲の一つ「1994」。終盤のハイライトを飾るイメージの強いキラーチューンがいきなりきたこともあってか、パンキッシュなイントロが鳴った瞬間、歓声が叫びに変わり、“ドドドッ”という無数の足音とともに、満員の会場の後ろ半分が空くほど観客の波が前のめりに。コロナ禍の規制中は味わえなかった熱狂とスリルがたまらない。サイトウが「w.o.d.ですよろしく」と一言、

続いては「イカロス」。Kenのベースと元良がドラムがローギアのままフルスロットルで走っているような迫力のあるサウンドに、火花のようなサイトウの鋭く熱いボーカルが重なる。そこから最近のライブでは演奏していなかったロックンロールチューン「丸い真理を蹴り上げて、マリー。」とスピーディーな曲が続き、フロアを埋め尽くす拳と揺れる頭やジャンプが場内の熱をぐんぐん上昇させていく。

タイプの異なる疾走系のサウンドで観客を牽引したあとは、「Kill your idols, Kiss me baby」。ミドルテンポで16分を刻む横揺れのグルーヴで揺さぶる。これぞw.o.d.。曲のバリエーションに生演奏だからこそのタフネスが加算され、早くもフロアはカオス状態に。元良の華やかでダイナミックドラムから始まるロックンロールパレード「馬鹿と虎馬」では、色とりどりの照明にパーティー感が高まる。そこからの「失神」で、オルタナティブロックのダイナミズムと変則ダンスビートが交差し、ダンスの渦は天井知らずで激しさを増していく。

「KELOID」、「スコール」は前述した「丸い真理を蹴り上げて、マリー。」もあわせて、2018年の1stアルバム『webbing off duckling』からの思わずにんまりしてしまうにくい選曲。w.o.d.のメロディアスサイドとして定着した「オレンジ」では、歓喜の声が湧く。サイトウタクヤ(Vo/G)のボーカルは激しいロックだけでなく、こういった伸びやかで優しい歌にもはまる。彼の弾く90年代UKロックを思わせるギターの音色やコード感、轟音のイメージが強いKenのソフトタッチなベース、元良のパワーで押さない軽やかな跳ね気味のドラムとのマッチングもライブで聴くとひとしおだ。

続いても「あらしのよるに」でサイトウのメロディーメイカー/歌うたいとしての側面を響かせ、ステージは後半に入る。MCを挟んで一気にギアを上げ最新シングル「STARS」へ。サイトウのゾクゾクするようなギターリフにKenのヘビーなベース、元良の鬼神のような連打が重なるイントロが轟くと、待ってましたと言わんばかりに会場が揺れる。サビは3人と観客の感情のぶつかり合いが見えるよう。続いて元良のハンマービートが火を噴くような「楽園」、Kenの極太爆音ベースリフがうねりを上げる「Fullface」でフロアはもみくちゃ状態に。ロックンロールのみが持つ肉体性を爆発させた3曲の連打。しかし、まだまだこんなものではない。ここからの展開がさらに凄まじかった。

今回の『バック・トゥー・ザ・フューチャーⅤ』は東阪のみの公演だったが、11月からは全国10カ所を回るツアー『バック・トゥー・ザ・フューチャーⅥ』を行うことを発表。「今回は2箇所だったけど、2箇所は少なったから。全国を周ります。俺らはあんまりそういう、どこまでもいくから!とかちゃうけど、そのうちデカいとこでやってもこのノリで観に来てくださいね。自由でね。自由にね」とサイトウが話し、「モーニング・グローリー」へ。

60年代サイケデリック時代のザ・ビートルズ90年代エレクトロニックミュージックケミカル・ブラザーズの接点を鳴らしたようなサウンドから絶妙なカットインで「Mayday」、そして4つ打ちの「踊る阿呆に見る阿呆」と、多様なダンスグルーヴを放ち乱舞の嵐が起こる。現実という概念が飛び、無双状態に入ったかのように見える3人と観客。そしてラストの「My Generation」で、これまでのw.o.d.の“自由な”ライブをさらに更新する。

色とりどりのストロボがガンガン光り飛び交う。観客全員が覚醒したようなダンスの波が閃光と混ざる超絶景。目に見える動きではなく、ただひたすら個の感性で楽しむというベクトルで一つになった、熱狂の向こう側にあるハイなユートピア、理想のダンスフロアの獲得。一人ひとりが主役としてフロアに爪痕を刻む。そういう意味ではそこにアーティストと観客という境界線はない。その様が、ステージ奥に掲げられた幾多の星(「STARS」)が並ぶ大きな旗と繋がった。まさにマイジェネレーション(「My Generation」)が生まれた瞬間に興奮が湧いて止まらない。そして毎度アンコールがないことも最高だ。演者があらゆる予定調和を蹴り飛ばすことで、皆が感情(『感情』)を出し切った、閉演後のあの空気をまた吸いたい。w.o.d.ならそのための準備はしてきてくれるはずだと信じている。ありがとう。

Text:TAISHI IWAMI Photo:小杉歩

<公演情報>
ONE MAN TOUR “バック・トゥー・ザ・フューチャーⅤ”

8月10日(木) 恵比寿ザ・ガーデンホール

セットリスト

1.1994
2.イカロス
3.丸い真理を蹴り上げて、マリー
4.Kill your idols, Kiss me baby
5.馬鹿と虎馬
6.失神
7.KELOID
8.スコール
9.バニラ・スカイ
10.オレンジ
11.あらしのよるに
12.STARS
13.楽園
14.Fullface
15.モーニング・グローリー
16.Mayday
17.踊る阿呆に見る阿呆
18.My Generation

w.o.d.「STARS [LIVE VIDEO]」

<ツアー情報>
w.o.d. ONE MAN TOUR "バック・トゥー・ザ・フューチャーⅥ"

11月7日(火) 兵庫・神戸太陽と虎
11月8日(水) 愛知・名古屋Electric Lady Land
11月10日(金) 福岡・DRUM Be-1
11月11日(土) 広島・SIX ONE Live STAR
11月16日(木) 宮城・仙台CLUB JUNK BOX
11月18日(土) 北海道・札幌cube garden
11月25日(土) 新潟・CLUB RIVERST
11月26日(日) 石川・金沢AZ
12月1日(金) 大阪・BIGCAT
12月2日(土) 東京・Zepp Shinjuku

チケット情報はこちら:
https://w.pia.jp/t/wod-tour23-6/

<配信情報>
w.o.d.「STARS」

配信中

<リリース情報>
w.o.d. ニューシングル『STARS』

9月6日(水) リリース

●通常盤(CD):1,300円(税込)
【CD収録内容】
M1. STARS
M2. My Generation
M3. STARS -English version-

●期間生産限定盤(CD+DVD):2,100円(税込)
7インチ紙ジャケット仕様
【CD収録内容】
M1. STARS
M2. My Generation
M3. STARS -TV Size version-
M4. STARS -Instrumental version-

【DVD収録内容】
TVアニメ「BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-ノンクレジットオープニングムービー

関連リンク

w.o.d. オフィシャルサイト:
https://www.wodband.com/

w.o.d.『ONE MAN TOUR “バック・トゥー・ザ・フューチャーⅤ”』