旧法には土地の所有権を手放すための制度が存在せず、所有権放棄の可否は明確ではありませんでした。ところが今回、新たに「相続土地国庫帰属法」が制定され、相続などで取得した土地を法務大臣の行政処分により国庫に帰属させることができるようになりました。本稿では、荒井達也氏の著書、『Q&A 令和3年民法・不動産登記法改正の要点と実務への影響』から一部を抜粋し、新法の概要と法的性質について、Q&A形式で解説します。

新設された「相続土地国庫帰属法」とは

Q:

土地所有権を手放すための新しい制度とは、どのような制度ですか。

A:

旧法では、土地所有権の放棄をはじめ土地所有権を手放すための規律や制度が設けられていませんでした。今回、新法として相続土地国庫帰属法が制定され、相続等により土地を取得した相続人から申請があった土地のうち所定の要件を満たしているものについて、法務大臣の行政処分により国庫に帰属させるという制度(相続土地国庫帰属制度)が創設されました。

解説

旧法では、土地所有権の放棄をはじめ土地所有権を手放すための規律や制度は存在せず、その可否は判然としませんでした。

新法の規律――相続土地国庫帰属制度の創設

今回、新法として、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(相続土地国庫帰属法)が制定され、同法により、相続等により土地を取得した相続人から申請があった土地のうち所定の要件を満たしているものについて、法務大臣の行政処分により国庫に帰属させるという制度(相続土地国庫帰属制度)が創設されました。

このパートでは、制度の基礎をなす(1)法務大臣の行政処分の意義及び(2)土地所有権の国庫帰属の意義について解説します。

(1)法務大臣の行政処分(承認処分)

ア行政処分の法的構成・法的性質

相続土地国庫帰属法では、法務大臣が一定の要件のもと「承認処分」という行政処分を行い、この処分の効果として土地所有権を国庫に帰属させるという構成を採用しています。

なお、この構成は、行政処分により国との間で贈与契約(寄附契約)が成立し、その契約の効果として土地所有権を国庫に帰属させるという構成ではありません。

この承認処分の行政処分としての法的性質は、いわゆる形成的行為であり、講学上の「認可」「特許」等)の特徴を併有するとされます。

イ行政裁量の否定(羈束裁量)

承認処分に行政庁(法務大臣)の裁量は認められていません。

これは、法務大臣が承認処分の申請(以下本書では「承認申請」といいます。)に係る土地(以下本書では「承認申請地」といいます。)が不承認事由に該当しない場合は、「承認をしなければならない」とされているところからも明らかです(相続土地国庫帰属法5条1項柱書)。

行政裁量が否定された理由は、行政庁に裁量権を広く認めると、行政庁が国庫帰属を認めない方向で恣意的に判断しているとの疑念を抱かれるおそれがあるためとされています。

(2)所有権の国庫帰属

ア国庫帰属の法的意義――承継取得(≠原始取得)

相続土地国庫帰属法では、法務大臣の承認処分により土地所有権を国に直接帰属させる構成を採用していますが、これを物権法上の観点から見ると、国が所有者から土地の所有権を承継取得するという構成になります。

そのため、例えば、承認申請をした者(以下本書では「承認申請者」といいます。)が無権利者であった場合には、国庫帰属(承継取得)の効果は生じないと考えられます。

また、承認処分を受けた土地について、承認処分時に未登記の担保権等があった場合、その担保権等は民法177条の「第三者」に該当する国には対抗できないと解されます。

イ国庫帰属(所有権移転)の時期――負担金納付時期

承認申請者は承認があったときは負担金を納付しなければなりませんが(相続土地国庫帰属法10条)、この負担金が納付された時に承認申請地の所有権が国に移転することとされています(相続土地国庫帰属法11条1項)。

(3)申請者の損害賠償責任

なお、国庫帰属の対象にならない土地を定めている相続土地国庫帰属法2条3項各号又は同法5条1項各号のいずれかに該当する事由があったことによって国に損害が生じた場合、当該事由を知りながら告げずに承認を受けた者は、国に対して、その損害を賠償する責任を負うとされています(相続土地国庫帰属法14条)。

(※写真はイメージです/PIXTA)